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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第2章 ピースフルデイズ
59/224

第49話 ユニーク職業の力!謎の芋栽培中?

 5回目の鐘が鳴り終わり、もう空も茜色に染まり始めた頃……

 リトルエデン本拠地だった建物を眼前に捉え、見上げる者達は呆然と立ちすくんでいた。


「有り得ない……」

「うちらの本拠地どこいったん?」

「場所はここで合ってるよ?」


 ボク達が疑う目で見上げる建物は……元洋風のお屋敷だったはずのリトルエデン本拠地だ。

 ロッズさんが一時間ほどで魔改造を施し、現在……鼠一匹通さない堅牢な防壁にドラゴンでも通るのかと言うほど大きい正面玄関? いや門と言った方が良い……。外から見えていた建物は概観から変わっており一言で言うと――砦になっていた。


「あの砦の最上階に天然露天風呂があるって言ってたよね……さぞ絶景だと思うよ」

「強そうやで!」

「眠る前に皆で入れるね~」


 案外他のクラン員は平然としており、ジャンヌに理由を聞いてみると『主様の存在以上に驚く事はさほどありません』と丁寧に返されてショックを受ける。

 カルキノスの爪先を手に入れてからのジャンヌは、押せ押せの強気で接してくる。ルナとは違ったボディータッチで具体的には言えないけど……妙に艶かしくてドギマギする。


「まぁ――要塞化しても問題無いよね! 皆生活魔法の手当てを極めるから先にサツマイモ畑に行こうか~」

「「主様……その事なんですが」」


 ロニーとミリーがやけに申し訳無さそうな顔でこちらを向いている。まさか……枯れた!?


「土が合わなかったのかな――急いで生存している蔓を回収しないと!」

「「あっ! 危険です!」」


 ん? 危険って何かな?


 急いで走り出すと畑がある場所――ラビッツ射的場の隣へ移動する。そして目にした光景に絶句する。


「何植えたんだっけ!? どう見てもサツマイモ畑じゃないし、何でこんなに蔓が太いの?」

「さぁ? 水は殆ど上げてないんですけど。勝手に根っこがお風呂の排水溝から吸水しているみたいで……」


 畑を覆う2mほどの高さの柵から蔓が溢れんばかりに生い茂っており、グリーンジャングルを形成している畑の前で途方に暮れる。


「それにラビッツが生えなくなっちゃって……多分その植物が食べているんだと思われます?」


 ロニーの疑問系の言葉に一瞬食虫植物的な魔物が思い浮かぶ。だがしかし……これはサツマイモの蔓から育てた。思い当たる原因は……


「どう考えてもボクが撒いた魔力が原因だよね! どうしようか……確か葉も茎も蔓も茹でるか炒めるか干して食べた記憶があるし全部狩っちゃう?」


 サツマイモの蔓は天日で干して芋がらにすると保存食になる。食べる時は湯がいて半日そのまま放置するか、半日以上水に浸しておかないと硬くて食べれないのが難だけど……栄養価満点の保存食だ。


「ラビッツが生えないだけなら……このまま育てても良いですか?」

「ここまで育ったのに刈り取るのは可哀相です……」

「ラビッツが生えないなら全部刈り取るで!」


 ロニー・ミリーは現状維持したいみたいだ。確かに実害がラビッツだけならこのグリーンジャングルから芋が取れる様になるのなら……

 自分達で食べる分以外にも干し芋に芋ケンピにキントン、スイートポテトも良いし焼き芋にして販売してもいい。

 それにもし……芋の糖度が予想値を上回っているなら、砂糖までは行かなくても芋飴くらいなら作れるかもしれない!


 ルナは徹底してラビッツ主義を貫く。確かにラビッツは主食だし野菜が高いこちらの世界では唯一とも言えるほどメジャーな植物? になる。

 ラビッツの肉と呼ばれている物は、実際は自然発生した植物性魔物――ラビッツの果肉の部分を指す。食感は生で食べるとアロエベラと鳥のササミの中間くらいな感じがするし、上位種になればなるほど栄養価も高くなり、味も成熟され美味しくなっていくそうだ。


「ここはもう少し様子を見ようか……」

「何でや! ラビッツが生えないと……ひもじい思いするんやで?」


 涙を流しだすルナにただならぬ気配を感じ抱き寄せる。ロニーもミリーも驚き駆け寄ってくる。

 これは何かトラウマスイッチを入れてしまったみたいだ。勿体無いと思うけどルナ優先でここは刈り取るしかない。


「今回は……畑の四分の三を刈り取ってラビッツが生えてこれば良し、生えてこなければ残りも全部刈り取る事にしようか?」

「私達はそれで問題無いです」


 ロニーが答えミリーは肯く、そしてボクの胸に顔を突っ伏して泣いていたルナも無言で肯く。

 今晩中に刈り取らないと明日の朝ラビッツが生えるか確認出来ないので、クラン員総出で刈り取る準備をする。


「それじゃあ蔓を引っ張って取り合えず引っこ抜いてみるよ? この中に入るのは自殺行為かもしれないしね!」

「待たれよ」

「ん? 今誰か何か言った?」


 空耳かもしれない、今日は色々有りすぎて疲れた……毎日色々有りすぎる気もするけど考えたら負けだ。


「それじゃあ引っこ抜くよ~」

「後生じゃ……止めてくれ」

「「「「「「……」」」」」」


 グリーンジャングルから聞こえてくる声に一同無言となり相手の出方を窺う。


「ラビッツはもう盗らない、主殿許して欲しい」

「姿が見えないけど声は聞こえる……これはどういう事?」

「新種の魔物かな?」

「変な気配はしてないで? ここに有る気配はサツマイモのだけや!」


 普段気にしていなかったけどこちらの世界の植物には気配もあるのか! 言われてみればグリーンジャングル全体から一つの気配を感じる。


「植物って気配があったんだね! 初めて知ったよ~」

「植物性魔物だと思うよ……」


 メアリーの冷静な突っ込みを受け正気に戻る。植物にまで気配を感じていたら外を歩くだけで大変な事になるよね。


「姿を見せなければ引っこ抜きます。これは最後通告です!」

「狩らない? 主殿は私の姿を見て……商人に売り渡したりしない?」

「人身売買とかしないから! 魔物売買? 兎に角、姿を見せてね?」

「しばし待たれよ……」


 グリーンジャングルが左右に分かれ広がって行き、奥から緑色の女性? と言っていいのだろうか、植物? が姿を現す。


「植物の精霊さんかな? でも魔物?」

「主様! 凄いですよ! ドリュアスです! 捕まえて売れば白金貨何枚になるか……ごめんなさい」


 興奮したアンナがドリュアスの値段を叫ぶとドリュアスと呼ばれた本人は悲しそうな顔になって項垂れてしまう。


「そうだねアンナ、人も知性を持った魔物も売り買いするのは本来良くない事だよ。えっと……ドリュアスさんで良いのかな? うちの子がいきなり失礼な事言ってごめんなさい」

「良いのです、数日前までただのスプライトでしたので……さほど気にはしませぬ」


 数日でスプライト? がドリュアスに進化する事なんてあるのかな……あっ!


「もしかして愛姉(あいねえ)がくれたサツマイモの蔓に宿っていた精霊さんか!」

「同じ者か分かりませぬ。頂いた仕事はそのサツマイモに宿り、主殿の魔力を貰い成長して助けになる事でございます」


 時々言葉使いが変だけど、どうやら愛姉(あいねえ)が精霊を宿らせてくれていた様だ。


「ラビッツさえ生えるようにしてくれるなら問題無いと思うよ?」

「うちもサツマイモ食べたい! ラビッツが一番やけど」

「魔力と水さえ貰えるのなら他は光合成で賄えるです。それと芋や蔓が食べたい時は言って欲しいであります! 産むので……」


 皆微妙な表情になるけど、相手は植物性魔物だ。ラビッツの親戚だと思えば、サツマイモが生えようが生まれようが構わないはず?


「それなら話は早いです! えっと名前とか有ります?」


 無言で首を横に振るドリュアス、すごく期待の篭った目でこちらを見ている。

 名前とか考えるの苦手なんだけど……


「プテレア? とかどうかな? 世界樹の様に大きく育つ様に!」

「プテレア……主殿、御身が私の全てです!」


 何か蔓を伸ばしてボクに絡み付いてくるプテレア、触手プレイ? は簡便して欲しい。


「それ以上変な事するんやったら……全部引っこ抜くで!」


 ルナが目を赤黒く光らせプテレアに警告する。すぐさまボクを解放してくれるけど名残惜しそうに蔓をくねらせている。


「まぁ、サツマイモが取れる様になったら言ってね~」

「サツマイモは取れませんよ? もう完全に別の系統樹に分かれたので、言うなればカナタ芋なら産めます」

「「「「「「はぁっ!?」」」」」」


 驚愕の事実……ボクの魔力を吸って育ったプテレアは、もうサツマイモの枠からはみ出て別の植物? になっていた。


「食べれるのならどっちでも良いか! プテレアが弱ったり何か他に害が無い限りはいくら産んでも良いからヨロシクね!」

「出来れば市場に流せる量を確保したいですね!」

「果実じゃないのに甘いのは何でや!」

「任せよ! 主殿の魔力を貰って立派なカナタ芋を産んで見せよう♪」


 ルナだけ勘違いしてる気がするけど、サツマイモが甘いのは熱を加えるとデンプンを糖化する酵素が働いているからだ。

 六〇℃前後で長時間加熱するとただ火を通すだけに比べて格段に甘くなる。市販されている石焼き芋が家庭で作る蒸し芋や煮芋より甘く美味しいのは、低めの温度で長時間熱を加えデンプンをより多く糖化させているからである。多分!


「それじゃあ初めの予定通りにボクが【魔力の源泉】で魔力をばら撒くから、各自生活魔法の手当てを使用してね~」

「主様……何を手当てすれば良いのですか?」

「え? 直す対象が無ければ使えないの?」

「何故、怪我もしていないのに手当てを使えると思ったのかが謎ですが……普通スキルや魔法は対象が無ければ発動できませんよ?」


 ジャンヌの指摘を受けどうするか考える。普通にMPがある限り連打すれば良いやとか考えていたけどそれが無理なら……

 ロズマリーさんは練習すると言っていたし方法があるはず?

 でもボクは生活魔法を使う時、明確に対象を決めていないような気がする。その辺りどうなのか今度暇な時に検証してみるのも良いかも知れない。


「ロズマリーさんは練習するって言ってたよ。まさか自分で傷つけて手当てとかするわけ無いよね?」

「ロズマリーお母さんならやると思うよ?」

「むむむ、ロズマリーさんを止めといた方が良いのかな? でもマリアンさんの為なら絶対止めないよね……」


 これはロッズさんには言えない事だけど。ロズマリーさんとマリアンさんはロッズさんより仲が良いと言うか……ロッズさんがオマケに見える時がある、気のせいだと思いたい。


「主殿、私の体を思う存分使ってください!」

「何言い出すのこんな時に!?」

「主殿の為なら私……いくら嬲られても構いません!」


 蔓を触手のようにうねらせてプテレアが暴走気味の事を言い始める。ルナが無言で蔓を一本手に取り、引き抜き始めるがなかなか丈夫な様で少し表面に裂け目が出来るだけだ。


「そうだよ! カナタ、プテレアの蔓を傷つけて手当てすれば良いんじゃないかな?」

「主殿! 私が言いたかったのはそれです!」


 メアリーの洞察力に感謝する、どう考えても危ないMの人発言だったよね!


「痛そう……? 植物に痛覚って有るのかな?」

「感覚や音は伝わりますが、痛覚とは何でしょうか?」


 プテレアは自分の蔓を引き千切りボクの目の前へ持って来ると、千切った断面から出る白い汁を蔓ごと無理やり口に突っ込んで来た。


「むぐっ、にゃにするんですか!? 甘い?」

「主殿の事を思って出しました!」

「結構いけるで!」


 蔓から染み出る白い汁はこのままでも良いんじゃないかと思えるほど甘く、芋飴の材料に適している気がする。

 ルナは引っ張っていた蔓にかじり付き汁をすすっている……

 初め笑顔で汁をすすっていたルナはすぐに蔓を捨ててえずき始める。


「オェェッ! 辛い!? 口の中がぱさぱさするで! オェッ!」

「勝手に吸うからです。私の汁は主殿だけの物ですよ!」


 どうやら成分は調整できるようで、多分ルナの口に入ったのは灰汁が濃縮された汁だと思う。

 蔓を手に取りルナと同じ事をしようとしていたクラン員は青ざめプテレアから遠ざかる。


「プテレア、ここに居る皆はボクの家族だから……おねがい?」

「主殿がそう仰るなら許しましょう」


 蔓がクラン員一人に付き一本伸びてきて先っぽから白い汁がこぼれ出る。恐る恐る汁を舐める皆を眺めながら今後の商業戦略を練り直す。

 これを加工して芋飴にしてもいいけどプテレアの意向があるので、身内用に止めておく必要が出てきた。

 やはり売る用の芋飴は芋から作る事にして、加工品と保存食関係で儲けを出す事にしよう。


「それじゃあ【魔力の源泉】を使用するからね! 各自その蔓を傷つけて手当てを繰り返してね~」

「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」


 元気の良い返事を聞くと共にスキルを使用し辺りに魔力をばら撒き始める。

 生活魔法の手当ては淡い緑の光りを放つみたいで、外灯が無いこの畑だと蛍が瞬く様に……幻想的な光景を作り出す。


 しばらくすると顔を紅潮(こうちょう)させ身をくねらせ始めるプテレアと、初めからボクに抱き付き体を密着させ荒い息を吐いていたルナの二人が震え始める。

 良くない兆候なのかと初めは思ったけど……非常に気持ち良さそうな顔で目を閉じ震えている。

 ルナのステータスを確認すると高揚の状態異状にかかっていたけど、特に害は無さそうなのでそのまま続行してみる事にした。


「【治療F】を覚えました!」


 ジャンヌの叫び声にクラン員は慌てて自分のステータスを確認すると……


「私もいつの間にか思えてるよ!」

「うちも覚えたで! ハァハァ」

「私もです!」「私も~」「お姉ちゃん私達も覚えれたよ?」「主様の御力よ?」


 何か手当てを極めると治療を覚えるという事が分かってしまった。教会の権力を揺るがす重大は秘密を知ってしまった事になるのかもしれない。一応使う時は注意するように言っておかないと危ない。


「予定とは違ったけど……【治療F】を覚えた人は基本冒険者の間でしか使わないようにね?」

「町中の人を癒せば感謝されて、リトルエデンの人気が上がるんじゃないかな?」


 予想通りの反応をするメアリーに少し苦笑いしつつ、その後を説明する。


「別に絶対使っちゃダメってわけじゃないよ? 使うなら必ずこの砦の中で、かつ外に漏らさないようにしっかり患者に口止めしないと……教会のお偉いさんに目を付けられたらボクが攫われちゃうかもしれないよ?」


 ボクだけならまだ何とかなるけど、他の子達が攫われる可能性があるのなら危険だ。ここは少し卑怯だけどボクを人質にして約束を守るように言い包める。


「考え無しだったよ……でも宿のお風呂と合わせたら治療の湯として売りに出せるんじゃないかな!」


 落ち込むメアリーを撫でていると、花が咲いたように急に笑顔になりトンでもない商法を編み出すメアリー。


「何か怖いんだけど聞いて良い?」

「お風呂に浸かって体を休めた人に、オプションでマッサージ手当てと称した【治療F】をかけるの! 手当てと治療の効果の差はお風呂のお湯が原因って事にすれば……宿も大儲けできる気がするの! 時間を最後の鐘が鳴ってからの一時間くらいに固定すれば、負担無くこちらから人員を派遣できるし……」


 なんと言う事でしょう。天使の様な笑みを浮かべメアリーが話す内容は……ちょっとグレーな商法!


「何と言うか……効果がある分誰も文句は言わないと思うけど、人を騙すのは……悪い事?」

「何で? 誰も損をしないし、怪我は治るし皆幸せだよ? 料金設定は相談しないといけないけど……重傷じゃない限りはそれほど取らなければ教会との摩擦も少ないと思うよ?」

「主様? グレーどころか真っ白な方法だと思いますけど?」


 これは価値観の違いなのか、微笑む天使達はボクに諭すように説明をしてくれる。

 何かボクが間違っていた気になってくるし、気が付いたら肯いていた。恐るべしメアリーのユニーク職業【商人星】、あとジャンヌも結構賢いみたいでメアリーと料金設定について話し合っていた。


「主殿、眠る必要が無い私がここの警備を担当したいのですが……その、もう少し蔓を伸ばしても良いでしょうか? 具体的に言うとこの砦を蔓で満面なく覆い侵入者を捕獲できるようにしたいです! もちろん捕まえるだけですよ!? 私草食なので食べないです!」


 ラビッツを食べていた事は良しとして、ここの警備を引き受けてくれるなら他の者も安心して休めるし良い事しかないよね?


「それは良いんだけど……地下通路とかその先の穴とか、そっち方面まで蔓を伸ばせるの?」

「そちらは根で対処します~。もう既に吸水用の根を張り巡らせているのでOKを貰ったらすぐにでも……」

「分かった、それでお願いするよ! そう言えば一度左目で見ていい? 戦力的な事も知っておきたいし」

「是非! 体の隅々まで主殿に見てもらいたいです!」


 すぐ暴走しそうになるけどプテレアは気性の大人しい精霊みたいで良かった。


『プテレアLv480』


「ん? 48? 眠いのかな……」


 気のせいか桁が違って見えた。念のためにもう一度左目で見てみる。


『プテレアLv480』


「そうか~プテレアってLv480もあったんだね! 凄いすごい……高過ぎじゃないですか!!」

「プテレア強いんやな!」

「私Lv400超えとか始めて聞いたよ!」

「頼もしい限りです~」


 概ね好評の様で、プテレアは快くリトルエデンに向い入れられる事となった。


「ワオ~ン」


 急にガルワンが鳴くとキョロキョロと何かを探し始める。子ガルムはウトウトしながらルナの尻尾の後を追尾している。


「そろそろ眠る時間なのかな? そのまま付いてきちゃったけど本当にここに住まわせて良いのかな?」

「ワンワン」

「首輪も付けてるし、冒険者ギルドでお披露目したから……悪戯する人は居ないと思うよ? 良いんじゃない?」

「寝床を用意するで!」


 ルナが走って向かったのは正面玄関だった場所、超大きな門から入ってすぐにある馬車を止める建物?

 ルナが大型の馬車が二台は止めれそうな広い建物の片方に、尻尾から取り出した毛皮を引き始めるとガルワンが子ガルムを連れて入っていく。三方向を壁に囲まれ屋根もちゃんと頑丈な黒鉄杉で作られているので倒壊したりする危険は無いだろう。将来馬車を手に入れても残りの場所で十分だと思う。

 幸い二つの場所は壁で仕切られておりガルム親子のプライベートも確保されている。出入り口は明日にでも何か衝立の様な物を用意する事にしようか。


「眠る時はここで眠ってね? 一応遠出する時は一声かけてくれないと心配するからね!」

「ワンワン~」


 ガルワンの返事を聞くと皆眠そうにしているので解散する事にする。さすがに色々有りすぎて疲れたので浄化をかけて今日のところはもう眠ろう。展望露天風呂は明日の朝のお楽しみだ。

 この浄化は癖になる、悪い意味で!

 毎日お風呂に入る日本人なボクでも浄化を使いさっぱりしたらついつい眠気が勝ってしまう……


 皆それぞれの寝床に向かうとアンナが一緒について来る。


「アンナも部屋に戻って眠って良いんだよ? 階段の見張りも要らないと思うし」

「イエイエ大丈夫です!」


 そしてベットに横になると何故かアンナが、普段ルナが眠る場所に寝転がり勝ち誇った顔でルナに宣言する。


「しばらくは私がここで寝ます! ボスは毛皮でも敷いて床で眠ったら良いですよ?」

「何言ってるんや? うち今日は機嫌が良いねん……さっさと退いたらお仕置きは簡便したるで?」


 アンナはカルキノスの爪先をどこからか出し、ベットの淵にプテレアの蔓で結びつける。


「ヒィッ! 冗談やろ? なぁアンナ、うちら仲良しやんな?」

「こんな爪先に怯えるボスにここで眠る資格はありませんよ! ふふふふふ」

「あのね、アンナ? それ「カナタは黙っといてや! うちらの問題や!」は多分……」


 どう見ても完全に死亡フラグを踏んでいるアンナに、一声かけようとするとルナに止められた。


「幸せです~」

「ボクは知らないよ……」

「私は関与しないからね……」

「私も足元は譲れません!」


 ん? いつの間にかロッティが混じってるけどいつのまに……


 すぐにアンナは眠ったようでボクの右手を抱き締めて満足げな表情で眠っている。メアリーとロッティもいつの間にか眠っていた。


 月明かりが照らし出す室内に眠る三人と気になって眠れないボクに、様子を窺うルナ……


 ルナの目は暗闇の中……赤黒く光り、歯軋りの音が一晩中部屋に響いていたのであった。

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