SS 無力なうちら (カナタの居ない四日間)
うちはアノ日の事を一生忘れない。
化け物に連れ去られるご主人様を皆で見送ったあの日の夜を……
森からの帰り道は出会う魔物が可哀想なくらい、全力で一流冒険者が倒していた。
八つ当たりと言う言葉をクリスティナに教えてもらう、新人冒険者達は誰一人喋る事無く休憩も取らず町へ戻り、冒険者ギルドに全員集まるまでただ自分を責めていた。
偉い人?マリアって言う人が解散を告げるまでただ地面を見つめ拳を握っていた。
うちは後日、依頼の報酬が貰えると言う事だけ聞くとメアリーと一緒に帰る。
酒場や深夜屋台の明かりでかすかに道が見える程度の暗闇を二人で歩く。
うちは冒険者ギルドからうちらの家に帰る途中、ずっと考えていた事をぶちまける。
「うちが、うちだけがアレを何とかできる可能性があった。馬車の中から奇襲すれば死ぬかもしれんけどご主人様だけは助けれたかもしれへん」
「それは違うよ? 一流冒険者の人が動けなかったんだよ。ルナが傷つき、カナタおねえちゃんが悲しんだだけだよ。私達には足りなかったんだよ、決定的に力が……」
そうかもしれないけど、あの化け物はご主人様を傷つける気は無いって言っていた。試す価値はあったと思う、例えうちが……他に何人か死んででも。
「うちは力が欲しい……」
「私も力が欲しいよ……」
メアリーだけは信用できる、あとロズマリーとマリアンとロッズも気を許す事ができるかもしれない。
でもそれだけじゃ足りないと分かった。
「決断する時や、メアリー『小さな楽園』をもっと大きな群れにするで!」
「帰ってお母さんとお父さんに一言告げてからそっちに移るね。でも、群れにするってどういう事?」
「各自の力を上げるには時間がたりへん、それに決定的に頭数が足りてないわ。信用できる仲間があと二〇人居たらアノ時も変わっていたかもしれへんで!」
「そうだね……私に考えが有るんだけど」
メアリーの眼差しからは決断の意思が見て取れた。
「まずは帰ってご飯を食べるで! ご主人様は生きている、この冒険者リングが証明してくれてる。助けに行くんや!」
「うん、そうだね!」
真夜中の強行軍で帰ってきたからもう夜も深い時間帯、でも悲しくてもお腹は空く。
「しっかり食べてしっかり休む、あとは目的に向かって全力で進むだけや!」
「そういえば……」
「なんや?」
メアリーが口を開いたり閉じたりしている、何か言いたい事でもあるんかな?
「ルナって喋れたんだね……」
「恥ずかしいから言わんといてや……」
言葉なんてすぐに覚えれたよ、でも皆の喋り方とうちは少し違うみたい、ご主人様には完璧に覚えてからお話ししたい。
「私はその喋り方も良いと思うよ?」
「こんな喋り方するのはうちの村では子供だけやねん……」
そう、大人は皆カナタみたいに喋っていた。
大分覚えたけどまだまだ怪しいし、カナタを助けて綺麗に喋れるところを見せてビックリさせたい。
「十三歳だけど私達まだまだ子供だよ?」
「もう、子供で居るままじゃ駄目や! 大人にならないとご主人様を守る事なんてできへん」
うちは【血脈S】を使う決心が付いた。お父さんがどうしても必要になったら使えって言ってたスキル。
森での生活では必要性を感じなかったけど、もし使うならここだと思う。
まずはお腹いっぱいご飯を食べて、体の元を蓄えないといけない。
「そう、だよね。もう私達は子供のままじゃ居られない! 大切な人を取り戻す為に」
喋りながら歩いていると、暗い路地の角を曲がって直線道に入る、明かりも無く辺りは暗闇に閉ざされていた。
メアリーとガッチリ手を組む、そろそろ後ろからつけて来る人達の相手をしないといけない。
「メアリー分かってると思うけど殺すんやないで?」
「はぁ!? 分かってないのはルナだよ! 早く出てこないとルナに半殺しにされるよ!!」
メアリーも分かってたみたいだけど、誰も半殺しになんてしないのに。
「「「「「「ええっ!?」」」」」」
「うちは機嫌が悪いんや、何か用事があるなら明日にしてくれんか?」
「「「「「「【絶壁】さんの為なら何でもします」」」」」」
「六人かな? 一緒に喋られるとうるさくて迷惑だから一人代表で喋ってね?」
この人達は何しにきたんかな?
「オレ、PTのリーダーをしているアルフと言います! 【絶壁】さんの救援に向かうなら必ず同行させて欲しいです!」
「命かけれるか?」
「えっ?」
「ルナが今言ったけど、生半可な戦力じゃ囮にしかならないんだよ……」
たとえアノ時を乗り越えた冒険者でも、六人ともまだ子供だから。
「命かける気が無いんやったら……家に帰ってお母さんのおっぱいでも吸っときや!」
「帰る家なんてありません。オレ達六人スラム街から出る為に、あの日冒険者に登録して、初めての依頼だったんです」
「Fランクの冒険者は任意参加だったけど、もしかしてギルド貸し出しの装備で参加してたの!?」
ギルド貸し出しって何かな?メアリーが焦っているけど。
「この依頼で報酬が貰えなかったら……装備貸し出しの料金が払えなくて奴隷になるところでした!」
「あんたらアホなんちゃう?」
ご主人様に助けてもらってから大分うちも賢くなった。奴隷とはお金が無い人が有る人に売られていくやつやって覚えたよ!
お金って何に使うのか分からないけど大切な物って聞いた。
「早くその装備カウンターに返して来なさい! お金貸してあげるから、報酬貰うまで借りてたら出費が凄い事になるんだよ!」
あとで聞いた話だと、その依頼が終わるまでは成功報酬からの一割引きが貸し出しの値段らしい。
そのまま借りて翌日の鐘が鳴ると、毎日装備のランクに応じた一定の金額を支払わないといけないとか?
「でも、お金をいきなり貸してもらうわけには……」
「そこまでして依頼に参加したのは何の為?」
「成り上がる為です! 一生をスラム街で終える気は無いし、オレ達はビックになっていつか町の外で自分達の村を作る野望があるんです!」
町の中は安全で安心な生活が出来るって宿の客は言ってたけど何で?
うちが混乱してたのが分かったのかメアリーが説明してくれる。
「町の中でそれなりの生活をするには、領主様に税金を納めないといけないの。スラム街の人達はそれを払って居ないから、宿には止まれないしお店でご飯を食べる事もできないの」
「食べる物無いと生きていけんよ?」
「冒険者ギルドで解体の手伝いをしていたので、毎日のご飯は何とかなってました」
「冒険者ギルドがスラム街の人でも、子供限定でお手伝いの依頼を出してるんだよ?」
前にご主人様が言ってた慈善事業ってやつだと思う。
でも大人になったらどうするのかな。
「大人になったらご飯食べれなくなるの?」
「大人になる前に抜け出さないと……」
口をもごもごさせて急に黙り込むアルフ、他の五人もうつむいて地面を見ている。
「ルナ……大人になったら領主様が新しい仕事を見つけてくれるんだよ」
「メアリー……今のは嘘やな?」
メアリーの表情や声色からためらいとごまかしが見て取れる。
「オレはこのレッティと将来を約束した仲です、大人になるまでスラム街に居たら。男は大抵強制労働か領主の私兵として徴兵されます。女は、奴隷として他の町に売られていきます……」
アルフより少し細い子供が背から顔を覗かせる、確か一緒に踊っていたので覚えている。
「マリアは悪いやつなんか?」
「それは領主様の特権だよ……自分の町に、ただで住まわせているのだから、大人になったらそれまでの貸しを返してもらうって事みたい」
難しい事は分からないけど、一緒に居たいからスラム街を出るって事みたい。
「何で安全で安心な町を出て、外に村を作るのが夢なんや?」
「そんなの決まってる! オレ達が頑張れば頑張るだけ大きくできるし、同じ境遇のやつらも集めてこれば暮らしはどんどん豊かになる。いつか大きくなった村は国に認められ、オレ達の町として認めてもらえれば、オレ達は騎士爵位をコモン=ヘルヴォル=ヘラクトス二〇世国王陛下から戴いて貴族になるんだ!」
うち知ってるで、身の丈にあった夢を見ないと痛い目を見るって。
宿で酔払いのおっちゃんが言ってた。
でもうちのご主人様ならそれくらい楽々こなせると思う、うちらが皆で大きな町を作ればあの化け物だって簡単には攻めて来れない、来たら必ずアノ時の借りを返す。
「決まりやな! お金くらい貸したる、今日からうちらはご主人様助ける為に、そしていずれご主人様が貴族になる為に一蓮托生や!」
「え? オレ達が貴族になりたいのは「寝言は寝て言うんやな」」
メアリーも含め全員がぽかーんとした顔でうちを見ている、何か変な事言ったかな?
「考えてみい、ご主人様が貴族で偉くなっていけば、その群れの有力者は一緒に偉くなっていく、騎士爵位? どころやないで!」
「確かに……【絶壁】さんは陛下と同じくらい黒髪黒瞳、オレ達もしかしたらビックになれるチャンスじゃないのか!」
「あ、うん、そうだね」
メアリーがヤル気なさそうやけど、ここは勢いで行くしかない。
「ご主人様の未来とうちらの栄光の為に!」
「【絶壁】さんとオレ達の栄光の為に!」
「「「「「「オオッー」」」」」」
ところで騎士爵位って何かな?よく分からないけど偉い人みたいやし良いか。
「あんた達うるさいよ! くっちゃべるんだったら酒場でも行きな!!」
隣の家の木窓が開き、硬パンが飛んでくる。
「あ、痛い……」
近くに居たアルフの頭に綺麗に当たり倒れる。
アルフは動かない、これは不味いかも?急いでうちらの家に連れて行って手当てしないといけない。
「アルフはうちが運んどくからメアリーは装備を頼むわ! あの地下でも綺麗にすれば使えるやろ?」
「えっ! さすがにあそこは……でもカナタおねえちゃんとルナと私の愛の巣に、他人を入れるのは嫌だし良いかな?」
アルフの装備を脱がし、不思議な顔でうちらを交互に見る五人を連れてメアリーは走り出す。
うちも硬パンをかじりながら家へ向かって走り出す。
明日から本気を出す、ご主人様もう少しだけ待っていてね。
「あ、アルフ忘れてきた……」
「う、うう、痛い」




