SS 楽園建造改築中(カナタの居ない四日間)
朝起きるともう昼やった。
ここは三人用ベットの上、隣にご主人様は居ない。
あの後、装備を返しに行かせた者達とうちらの家で合流して、解体室を寝床代わりに使うように言い、ラビッツの毛皮をいっぱいあげて解散した。
部屋の壁を見て青ざめた顔をしていたけど、外で寝るよりはましだと思う。
内装は好きにいじって良いと言うと、レッティとロニーとミリーの女三人がヤル気を出して改装するみたいだった。
六人はそれぞれアルフ男、レッティ女、ロニー女、ミリー女……あと二人の男は覚えてない、多分そのうち思い出すやろ?
「メアリーもうお昼や! 急いで仕度するで!」
「おはよう……わかったよ」
寝ぼけて目の開いていないメアリーをそのままにして、解体室の六人を叩き起こす。
「「「「「「おはようございます!」」」」」」
「朝ご飯は昼ご飯やから帰りに何か買って帰るで! まずは冒険者ギルドへ行って報酬をもらうんや!」
マリアンとロッズにはまだ顔を合わせていない……ロズマリーも帰ってからずっと部屋に篭っているみたい。
メアリーの用意が出来たので八人揃って冒険者ギルドへ全力疾走する、周りから何事かと言う視線で見られるけど気にしない、それよりも一刻も早く作業を開始したい。
「はぁ、はぁ、全力で、走りすぎだと、思います。ひぃ」
「アルフ何言ってるんや! 他の皆は一言も文句を言ってないで!」
「疲れて喋る気力も無いんだと思うよ?」
メアリーはまだまだ余裕がありそう、さすが同じ獣人やね。
スラム街出身組みはご飯をあまり食べていないのか、基礎体力がまだまだ低いと思う。今日からご飯をいっぱい食べさせて、体力を付けさせないといけない。
冒険者ギルドの扉を開けると中は静まり返っていて、中央カウンターに座る知らない教員以外は誰も言葉を発していなかった。
一流冒険者が情けないと思う、ここはガツンと言ってやらないといけない。
「辛気臭い顔すんなや! ご主人様は生きているし、必ず助ける……いや、自分で帰ってくるかもしれへん。うちらは今日から『小さな楽園』を大きくしてご主人様を助け出す、そしてもうこんな事が起こらない様に備えるんや!」
フロアに居た冒険者全員がこちらを振り向き目に光を灯す。
「何だ、その……オレ達はカッコ悪い、でもここで折れたらもっとカッコ悪いんじゃねえか? ガキが啖呵切ってんだ。大人が恥ずかしい真似できねえな!」
オルランドがそう言いフロアに居た冒険者一人ずつ、全員の顔をひっぱたいていく。
「気合入れてくれルナ! そしてお前喋れたんだな! ふべらっ」
うちが右頬を叩くと回転しながら冒険者ギルドの壁まで飛んでいき動かなくなるオルランド、全員叩いて欲しいのかな?
「「「「「「待ってくれ! オレ達はもう叩かれたから遠慮する!」」」」」」
腕を振りながら手近な人に近寄ろうとしたら、全員そろって断られた。
クリスティナが教えてくれた八つ当たりって言うのをしてみたかったのにな。
「フロア内ではお静かにお願いします」
中央カウンターに座る、臭いオバサンがこちらに向いて注意してくる。
何の匂いかわからないけどキツイ匂いがする、鼻つまんどこ。
「おばひゃんくひゃいで」
「失礼な! 王都の有名香り商人から直接仕入れた、流行の最先端ですのよ!」
「ラフレイシア様、その者は私の専属冒険者なのでこちらで対応いたします」
ロッティが来た、報酬貰ってさっさと戻ろう、鼻が曲がりそうや。
「この六人とうちとメアリーの分を合わせて八人分の報酬貰いに来たよ、後この七人を『小さな楽園』に入れといて」
眠る前に相談してメアリーも『小さな楽園』に入ることになっている。
六人には言ってなかったけど今言ったし良いよね?
「冒険者リングを全員出してください、修理から戻ってきた最新バージョンのコレが有れば加入登録も一瞬です!」
ロッティが長い箱の様なモノを冒険者リングに近づけると『ピッ』っと音が鳴り登録が終わったみたいや。
「これ多くないですか? 一人金貨4枚? ビックWARビーの巣はまだ清算されてないのに……」
「マリア様がドロップ品と共に蜂の巣も全て購入なされましたので、一括で報酬を支払っております」
メアリーが聞くとマーガレットが奥から出て来てそう言った。
お金の事はメアリーに任せたほうが良いかもしれない?うちは稼ぐ方専門になる。
「すげぇ! オレ金貨4枚とか夢見てるんじゃないか! レッティちょっと蹴ってみてくれ。アッー!?」
はしゃぐアルフの股を蹴り上げたレッティ、アルフは悲鳴をあげ座り込む。周りの冒険者も顔をしかめ自分の股を手で隠していた。
「今ここで半分渡すから無駄遣いするんやないで? 防具と服を買うならガーネットグロウの店で買いや! カナタのクランの者って言ったら子供限定やけど安くしてくれるはずや!」
「「「「「「金貨2枚!?」」」」」」
悲鳴の様な声を上げうちを見る六人、『小さな楽園』に入ったからにはご主人様が帰ってくるまでうちがルールや文句は言わさへんで。
「まぁ、いきなり半分は無いんじゃないか? 確かにクランには報酬の何割かは収めないといけねえが……」
「衣食住に栄光の未来が付いて来るんや! 報酬の半分くらい『小さな楽園』に入れてもお釣りが来るで?」
「おっさん、ボスの言うとおりだぜ! オレ達はここから始まるんだ。それにお金はとりあえずの装備さえ買えれば良いよ……」
アルフが股を押さえて、震えながら立ち上がり宣言した。
「時間が無いから早く行くで!」
メアリーの手を引っ張りうちらの家へ戻る、冒険者ギルドの貸し金庫?ってご主人様が言ってた場所から天使御用達の服を取り出し、爪で四〇の切れ端に裂いて一〇だけ元に戻しておく事も忘れない。
「ご飯買出しはメアリーとレッティ、ロニー、ミリーに任せるで! うちらは先に戻ってロッズに相談や!」
「分かった! ラビッツの肉を焼いたヤツと他に美味しそうな物が有ったら買って戻るね~」
四人と別れうちら四人は宿へとまた全力疾走や!
「はぁ、はぁ、ふぅ、もう少し、ゆっくり走りませんか?」
「アルフは体力無さ過ぎや、いっぱい食べて力付けんとレッティに振られてしまうで?」
「よっしゃー! まだまだ走れますよ!」
アルフはこれで何でもやってくれそうやな。
宿の入り口から入るとロッズが死んだラビッツみたいな目でカウンターに座っている。
「ロッズ頼みがあるんや! あの地下通路改造したいねん」
「俺がスヴェルを渡していたらカナタは……酔っ払って浮かれていなければ……全て俺が悪いんだ……」
何かウザイ、全力で右頬を叩く事にする。
振りかぶり頬を捉えたと思った右手が、何故か盾に弾かれて初めてロッズが盾を持っている事に気が付いた。
「一刻を争うんや、おっさんの腐ったところなんて見てる暇無いで?」
「お前の目は覚悟が出来た者の目だ。俺は何をしていたのか……」
「夜中までにあの地下通路に黒鉄杉で作った部屋を……とりあえず一〇個明日以降に追加で四〇個ほど作って欲しいんや」
ロッズは一瞬目を泳がせるが、目に光を灯し肯く。
「広さは俺が決めて良いのか? あの通路なら奥行き5m幅4mの部屋が左右に並ぶくらいで丁度だと思うが?」
「うちはわからん。全部ロッズに任せるわ、あとご主人様が湯浴みがしたいって言ってたからおふろ? も作ってほしい」
「特大木の宝箱を浴槽に使うとして二個、飲料水を貯めるのに一個それと……男と女別で合計六個だな」
「オレ別にレッティと同じ部屋でも良いし、お湯で拭うだけで良いですよ? 湯浴みとかめんどそう」
「あほんだらぁっ!」
ロッズの盾がアルフの顎を捉えて打ち抜く、崩れ落ちるアルフ。
「年頃の娘が居るんだぞ? ただでさえ汚い、お前ら男どもは庭でも十分なんだよ……ルナの慈悲に感謝するんだな!」
「すいませんっした……」
倒れたままのアルフの横にひざまずき頭を下げる男二人。
「オイお前ら、冒険者ギルドに預けてある黒鉄杉を全部持って来るから手伝え、俺は一〇本も持って来たら部屋を作る方へ回る。なぁに、全力の俺なら六時間も有れば部屋の一〇個に浴槽くらいラビッツを捻るようなもんだ! ついでに通路全体の補強とダンジョン側にバリケードと防護柵も作って別の侵入経路も作ってやるよ! そうなったら、隣の古ぼけた屋敷も購入しといた方が良いな……行くぞお前ら!」
体が一回り大きくなった様に見えるロッズが、アルフを含む男三人を抱え走り去っていった。
「店番マリアンに頼まなあかん……」
うちはマリアンが少し苦手や……ご主人様とは違うけど、ネーネと同じ雰囲気がする。
「何の騒ぎなの?」
奥からマリアンが姿を見せる、肌の色艶が良く、髪もしっとり濡れているように綺麗や。
「ロッズに頼みごとしてん……店番マリアンに頼んでええか?」
「ルナちゃん喋れたのね……今まで喋らなかったのは恥ずかしかったのかしら?」
頭を撫でてくるマリアンに少し嬉しい気持ちになる、うーん?何かいつもとマリアンの様子が違う?
「マリアン? 何かお腹の辺りが変やで? 気配がもう一個ある気がするで? うちの第六感が教えてくれた」
マリアンが急に泣きそうな顔になった。うち何か変な事言ったかな?
「泣かんといて! うちどうしたら良いんや!?」
「違うのルナちゃん、これは嬉しい涙なの……この事はまだ誰にも言わないでね? 私とルナちゃんの秘密よ?」
マリアンはうちを抱きしめ頭を撫でてくれる、温かい……うちはなんでマリアンが苦手やったのかな?
「うちは口は堅いで! 約束やな」
嬉しくても涙って出るものなのかな?
「「「「ただいま~」」」」
「皆帰ってきたで! うちらはまた家でご主人様を助ける作戦会議や!」
「ルナちゃん、カナタの事はご主人様じゃなくて、カナタって呼んであげると良いわよ?」
「そうなんか? ご主人様じゃなくて良いん?」
「その方がカナタも喜ぶと思うの。私とロッズは手助けあまりできないけど頑張ってね? ロズマリーは今反省中だからもう少しそっとしておいてあげて……あの子は責任感が強すぎるの、だからね?」
マリアンはカナタの事あまり心配してないみたいやけど何でかな?
「マリアンはカナタの事、心配じゃないの?」
「もちろん心配よ? でもあの子は次合う時までにって言ったのよね? あの子は絶対に、悲しい嘘は言わないと思うの。それに女の感よ!」
「そうなんか……なら大丈夫やね! うち行って来る!」
いつの間にかカウンターに座っていた女の子がこちらに向かって手を振っている。
「誰や?」
「普段は恥ずかしがってカナタの前に出てこないから、ルナちゃんも初めてよね? ドワーフのエルナよ。こう見えても私の何倍も年上だからね?」
言葉を喋れないのか、身振り手振りで反応を返してくる。
「よろしくたのむわ! 後これ、多分どんどん賑やかになるから先に渡しとくわ!」
八人分で合計金貨16枚から半分の金貨8枚を取りマリアンに渡す。
「これは? ルナちゃん達の受けた依頼の報酬……そんなに多かったの?」
「一人金貨4枚で半分はカナタのクランで徴収して、その半分が当面の食住の対価や! 着る物くらいはうちらで何とかするから、あの家とその他の物にロッズに頼んだ建造改築費用と当面の食費やで?」
困った顔をしたマリアンは金貨を握って固まっている。
「受け取ってくれないとうちはカナタに怒られてしまうねん、これは正当な対価として受け取ってな!」
「ありがとうね……もう一人お手伝いの奴隷を買ってきて、エルナに仕事を覚えさせてもらいましょう。もう半年もすれば私も動けなくなるかもしれないし」
「マリアンどこか悪いの?」
「良すぎて嬉しいくらいよ! さぁ、もう行ってあげないと皆待ってるわよ?」
お腹をさすりながら微笑むマリアンに促されうちは家に向かう、振り返るとカウンターから背伸びしてマリアンの頭を撫でるエルナと目が合った。
遠くて声は聞こえないけど、多分『ありがとう』と言っていたと思う。
「さぁ、忙しくなるで! アルフが言ってたスラム街も見てこなあかんしな……」
現在『小さな楽園』カナタも入れて九人や!




