第33話 もう手遅れかもしれません?強者達の晩餐!
全てを覆い尽くす様な闇の中、意識が戻る。ボクは誰かと喋っている。
何分、何時間意識を無くしていたのだろうか?喋っているのはキングビーともう一人……
「ちょっとー棘が足に当たってるんだけど? 玉の肌に傷が付いたらどうしてくれるわけ?」
「我が関与する事では無い……もう口を閉じてくれ」
「魔方陣に入ってからもう十五分は経つんだけど? 転送魔法なんでしょ? ふざけてるの? 嬲られたいの?」
「転送魔法は我の主が行使する魔法だ。我が関与する事では無い……」
「さっきから『我が関与する事では無い……』ばかりだけど、あなたパシリなの? 虐められてるんでしょ? 助けてあげましょうか?」
「我は……」
「……カーナさん?」
「我助かれり! カナタお前を尊敬する」
ど、どうなっているのか分からない……転送魔方陣に突っ込んだら意識を失って、気が付いたら拉致しに来た本人に尊敬されてる。カーナさんが喋っていたみたいだけど?
「やっと起きたのね、初めましてと言うところかしら?」
「自分の口が勝手に動くのってちょっと怖いですよね、今舌噛みそうになりませんでした?」
「我静まる……後は任せた」
キングビーはホット一息ついたように体の力を抜き、その瞬間ボク達は落とされる……
「えっ?」
「え?」
暗い闇の中落ちていくボクとカーナさん、上?を見上げるとキングビーが固まっていた。
「幸いこの下は今主がいる場所、我は狙ってない……面倒になってない……」
自分に言い聞かせるように喋るとどこか別の出口へ向かっていくようだ。
「カーナさん、色々と話したい事が有る「全部あなたの目を通して見ていたわよ?」んです!?」
「大分混じっているようだけど、多分このままじゃカナタ消えちゃうわよ?」
「ワッツ? どういう事?」
「私の存在の方に引っ張られて取り込まれるんじゃないかしら? 私の体だしね~」
「ボクが残る方法は? 消えるって今ここで考えてるボクが居なくなるって事?」
「詳しくは分からないわよ? 少なくともカナタの記憶と知識はもう全て私も覚えているけど?」
「ボクはカーナさんの事何もわからないんだけど……そう言う事なのかな?」
非常に不味い事になっているのかもしれない、何が一番不味いのかと言えば現状を不味いと考える自分が居ない事だ。
もうどこまでボクがボクであるのかは分からない、別にこのままでも良いんじゃないかとすら思っている。
「体を動かす意思はまだボクの方が強いのかな?」
「そうみたいね? でも時間の問題かもしれないわよ?」
はじめから不思議に思っていた事が一つあるんだよね。
「その……変な事言うけど良い?」
「カナタはもう私なんだから良いんじゃない?」
これは誰しも考える事だと思う、男の子ならなおさらだ。
「性別が変わるとか、誰か別の人の体に入ったら……絶対えちぃ事すると思ったんだけど、全然無かった」
「……私に喧嘩売っているわけ? 感覚が一緒なら私が何かしたらカナタにも伝わるのよ?」
「え? ちょっと! アッ、変なとこ触らないでよ! イヤ、違うから! ボクが言いたいのは自分の体と同じだって事!」
自分の指が肌スレスレを這い回り……敏感な場所を通り過ぎるたびに声がこぼれる。カーナさん年齢詐称してるんじゃないのか!
「初めから私に取り込まれかけてたって事?」
「そうなのかもしれない、それが嫌って思う気持ちすら無いよ?」
「不味いんだと思うわよ? 私が何とか考えるから、しばらくは今まで通りにカナタが体担当ね?」
「うん、分かった。一応、男の人とキスしたいと思った事は無いし、クリスやルナとキスした時は嬉しかったからまだボクの心は正常かな?」
「……それ、私の体的には正常じゃない気がするのだけれど?」
それはそれ、これはこれ。だよね!
「自分の体でむっさい男の人と触れ合っていたら嫌でしょ? クリスやルナは可愛いよ? 触れ合うにしても何も問題なんて無いよ!」
「そう言われると、そうなのかもしれないわね……」
全て可愛いければ問題無い、カーナさんもボクに引っ張られているところが有るんじゃないかな?
「お喋りもそろそろ終わりみたいね、落ちきる前に生存系を使わないといけないわよ? 私は少し眠るわ……」
暗い闇の底が見えてきた。底に開いた穴から大きな机?円卓?が見えてくる、転送魔法か……チート魔法ゲットするよ!
【生存の心得】をAS発動します。【生存本能】をAS発動します。【生存戦略】をAS発動します。【生存闘争】をAS発動します。成功しました。
SES【無垢なる混沌】を獲得しました。
「なんでやねん!」
ボクの転送魔法はどこへ……これは、ここの闇ゲットしたんじゃないだろうか?
効果が分からない以前に使いって良いスキルなのだろうか?
鑑定系のスキルが欲しい……鑑定がどれほどチートなのか良く分かる、何か一つだけと言われたら鑑定が候補に入る事は間違いない、そしてもう穴を抜ける。
――∵――∴――∵――∴――∵――
部屋の外は暗い闇に覆われていた。大きな窓から見える空には時折雷鳴と共に稲光が走る、そこはどこか古い城を思わせる内装の一室だった。
ボクが落ちた場所は、巨大な円卓の丁度真ん中の凹みの上のようだ。
怪我は無いしどこも痛く無い、いや円卓を囲む者達の視線が痛い。円卓って確か身分が平等になるように上座・下座が決められていないんだったよね?
つまりここに座る者達は皆平等な立場だというのだろうか。
正面に座る黒髪黒瞳の大柄な女性のこめかみからは左右二本角が生えている!豊満なお……おっと今は関係ないね。
「クスクス」
左隣に座るのは山羊の角を同じくこめかみから生やしたスレンダー系のお姉さんです!アベレージ高いです!
「まぁまぁやな」
大柄の女性の右隣に座るのは緑の人? 精霊さんかもしれない。何か……お母さんみたいな人?凄く綺麗で豊満なお……だけど見ているだけで安心出来ると言うか、包み込まれるような雰囲気がある。
「お尻大丈夫?」
その右に座るのはぶた……じゃなくてオーク?椅子がかわいそうに見えるくらい凄まじい体格をしている、大関にボディビルダーの筋肉を移植した様なありえないムキムキマッチョオークだ。
「おま、ぶたって言ったか? 言ったよな!」
その右には何故かゴブリンが座っている。うん、良く森で見るやつだ。
「そうです、私はゴブリンです……じゃねえでヤスよ!」
その隣は緑色の肌をしたハイエルフ?上位精霊かもしれない、かなりのイケメンである。男の心を持つボクが見てもホイホイ付いていきそうになる魔性のフェイスを持っている、危険だ!
「ハイエルフ、上位精霊か。お前なかなか見所があるやつだな!」
最後に回していた席に座るのは……なんでそんなところに座っているのか謎なガイアお爺ちゃんだった。
経験値が規定値に達しました。レベルが上昇します。
と言ってたのはワシじゃぞい!リアルタイム監視システム『ガイア』じゃわい!
謎のメッセージだと思ったらずっとガイアお爺ちゃんが監視していたみたいだ……日本じゃそれ法律的にアウトだからね?タイーホされるからね!
まぁ途中からおかしいと思ってたんだけど、これ心の声が漏れてると言うか……読まれてる気がするんだけど!
「読むのがメンドイから話をしようか」
「あ、はい、そちらの方が嬉しいです」
『簡易鑑定不能』
ですよね~どう考えてもこの人達(一部魔物)まともじゃない。立ち上がろうにも足がバンビちゃんを超えた先へ向かおうとしている……震えて動かない。
「取り合えずスティールタイムからね! 今回私からだったんだけど特別にごぶりんの、お前に順番譲ってやるよ?」
不安な事この上ない、スティールって盗むとか奪うって意味じゃなかったっけ?盗られるような物に心当たりが有りすぎる……
「良いんでヤスか? 対価を寄越せって言うんでヤスよね?」
「無論貰うよ? 今後一ヶ月くらいゴブ森からさらわれて来る女の子と男の子貰って良いよね?」
「ふむむむ? 毎月二人くらいさらって丁度いいサイクルでヤスよ……」
「(ちょっと耳貸しな)」
「(なんでヤスか?)」
内緒話を始める大柄な女性とゴブリン、体格差が凄いのでゴブリンの両脇に手を差し入れ持ち上げている。
「(あの子のSESにね、神の祝が有るんだよ? お前欲しがってたよね? 内緒だよ?)」
「(本当でヤスか! ちょっと見るでヤス……おぉぉぉぉあるでヤス! 頂いちゃって良いんでヤスか?)」
ゴブリンがこっちを見ている、目が赤黒く光って気持ち悪い……こっち見んなし!
「(私とごぶりんの二人の仲じゃないか! 先手は譲るから神の祝貰っちゃいなYO)」
「(オレ、本当はサキュバス崩れが何で魔王の一席にとか考えてたのに……すいませんっした! 心入れ替えます!)」
ヤスはどうしたんだよヤスは、ちょっとボクの位置からだと話が聞こえちゃうんだけど?神の祝?そんな……
「ちょっとカナタ黙ろうか……」
「はぃ……」
「商談成立ってやつでヤスね! 【強欲】発動でヤスー!」
心の準備がー!
SES【強欲】を受けました。対抗します。
【魔力の源泉】空の魔水晶があるので魔力を補充します。他スキルALL失敗じゃぞい!
SES【強欲】によってSES【神の呪】は強奪されました。
なんてこったい、SESを盗むとかどんだけチートなスキルなんだよ……でも何で?
大柄の女性の目が妖しく光る……殺気だ!
「いやぁ、これが念願の神の祝でヤスか! どれどれ説明を……」
「ヤス君ヤス君……」
「あれっれっーおかしいでヤスよ? これのどこが祝なんでヤスか?」
「残念でした! 祝と呪なんて今時子供ですら気が付くよ~? 良い噛ませ犬だったね~また来週~」
「何のじょうだ、ぐびょ、ぐぎぇ」
静まる一室、もしかしたら……もしかしなくても大柄な女性は味方だ!ガイアお爺ちゃんが言ってた知り合いってこの人かな?助けてくれるみたいだ。やったねカーナさん仲間が増えるよ!
ごぶりんの?と呼ばれた人は二つに分かれてイデアロジック二個になっちゃったよ!お食事中の方はスイマセンでした!
「ワシぐろいの駄目なんじゃわい……」
「「「「「「……」」」」」」
誰一人動けなくなる中ガイアお爺ちゃんがもどしそうになっている、今の内にこの大柄な女性の元へ這ってでも行かないと……
誰も反応を返さないままボクは目的の場所へと到着した。
「カナタ~♪」
「はい~?」
大柄な女性の目が赤黒く光る!?
SES【強欲】を受けました。SES【強欲】を受けました。SES【強欲】を受けました。SES【強欲】を受けました。SES【強欲】を受けました。SES【強欲】を受けました。SES【強欲】を受けました。SES【強欲】を受けました。SES【強欲】を受けました。対抗出来ませんでした。
何かを、からだの奥から吸い出されるような……胸を締め付けられるような感覚が!?
「えっ、何で? あなたは味方じゃないの……?」
「SESは二つ【生存闘争】【停止距離】UNSは三つ【生存戦略】【舞盾】【祈雨】EXSは二つ【生存本能】【第六感】他は【生存の心得F】【スピアスタブ】か良くこんなに沢山覚えたね~」
終わった……生存系根こそぎ持っていかれた。
いつ死の気配が近寄っても分からないし、次の瞬間死んでてもおかしくない。カーナさんゴメン無理かもしれない、数個残ってるけどお情けに残されたようなラインナップだ。
だけどルナとの絆がまだ諦める事を許さない……
何だよ、強奪系チートって受ける側に回ったら地獄じゃないか……
「ヨシヨシ、泣かなくても大丈夫だよ? カナタは私が守るから!」
意味が分からないよ。今ボクから奪ったくせに守ってくれるの?
言葉と同じくして目の前に差し出されたる……尻尾!?普通手じゃないの!
「……あむあむ」
「アッ、もっと優しく……そんな、皆の前で駄目だよカナタ!」
もう噛むしかない、尻尾の先っぽを噛んでみました。
「いい加減茶番は終わりにしたらどうだ? 淫魔の癖に何ルールを破ってやがる……」
「ルール? そんな物あったっけ~私はし~らない~」
大柄な女性は尻尾でボクを捕まえると、ぶた……じゃなくてガチムキオークをおちょくりはじめた。
「お前、今ぶたって思わなかったか……?」
「イイエ、豚でも無いです!」
「殺すぞぉぉぉぉー!」
ガチムキ豚の豪腕が空気を震わせボクへと迫る、あ、死んだ。
「さよ~なら~もう会いたく無い人よ~」
「ぷぎぃぃぃぃー」
歌を歌いながら手を払うしぐさでガチムキ豚の豪腕を弾き千切る、とりあえずボクが生き残るには尻尾にしがみ付いて放さない事みたいだ。
「てめぇぇぇぇーふざけるのもいい加減にしろよ……」
「ふざけてないも~ん。私が作ったルールなんだから私が変えるのは問題無いんだよ?」
もう止めて……ガチムキ豚の理性は沸騰寸前よ!
「その言葉、意味分かってて言っているんだろうな? 本当なら証拠を見せてもらおう」
イケメンが食いついて来た。ん?こっちに向かって片目をつむって合図を送ってくるイケメン。
「淫魔ごときがぁぁぁぁ俺様の腕を……ぶち殺して犯してやる! そこのガキも一回くらいは使えるだろう絶対ゆるさねえぞぉぉぉぉ!」
頑張れー大柄の人!負けるなー!負けたらボクらの運命は……イヤ、さっきも腕を千切り飛ばすの見たし大船に乗った気分だよ!
「ぶたは……肉屋に並んでたら良いんだよ! 豚カツになって食卓にならんでるのがお似合いだよ!」
ちょっと調子に乗ってみました。
あ、ちょっと尻尾が変な動きを!?
「え、ちょっと、何でそんな事するの、尻尾長いよ!」
「豚カツではぬるい! こんな風に亀甲縛りにしてハムにしてやろうか? 豚王さ~ま~?」
絶好調で煽るのは良いけどこんな風にってボクを使わないで欲しい、人生初の体験をしてしまう。
縛り吊るされているのに何と言う安定感、知りたくなかったよ……
「ぷぎゃぁぁぁぁー」
もう理性の理の文字も無いくらい怒っている、まるっきり豚です本当にありがとうございました。
残った豪腕をくるくる回しながら飛び上がった豚王?(名前知らないや)を迎え撃つ女性はただ相手を見つめるだけだった?
「返してもらうよ? SES【強欲】クスクス」
急に豚王が萎れる様に小さくなっていく、もはや勢いは無く言葉を喋る事もギリギリといった具合に弱っている、何のスキルを奪われたらこうなるのかな?
「お帰り、私の【暴食】ゴブソンの王よお前も私に返してくれるのかい?」
「やはり、女達は全て知っていたようだな? そこのガイアとやらもそちらの者であろう」
「知らせてないのは君ともう居ない二人だけだね~」
あ、豚王もう居ない事になってた。ガイアお爺ちゃんが亀甲縛りにしてるけどそれ誰も食べないからね?
「ルールを作ったのは初代魔王、いや魔王はいつまでも……ただ一人の者を指す称号のような物だったのか。納得いった」
「で、あなたはどうするの?」
目が赤黒く光ったままイケメンに問いかける、間で見ているボクはドキドキが止まらない。
「俺はその子を気に入った。なかなか見所のあるやつだからな! 魔王に敵対する気も無い。御身の御心のままに」
「なら現状維持で良いよ~。久しぶりに二つも罪源を戻したから手加減出来そうに無いしね?」
ここまでの間ボクは亀甲縛りのまま静観する者になっている、他の席に座っている女性達も暇そうにしているし……そろそろ解散して元の場所に戻してくれないかな?
「待たせちゃったね! カナタ私の事『覚えてる?』」
背筋に走る感覚は、どこかで何かを……どうして、忘れていたんだ!
響の事をいつの間にか忘れかけていた。
「その質問は……響なの? 君もこっちに飛ばされてきたの?」
満面の笑みで両手を広げる大柄な女性はボクを抱きしめて……
「違います! 減点一ね!」
ベアハッグを決めるのだった。
「イヤッー死んじゃうよー! タップタップ」
背骨の悲鳴を聞きながら、意識が薄れていく。治療しないと死んじゃうかも、し、れ、な……




