番外編SS2 今そこにある聖戦
「兄さん、私には勝たなくてはならない戦いがあります」
俺の双子の妹、紬が勇ましく宣言する。
「そうか、実は俺もなんだ。俺達、協力できるよな」
妹との協力プレイ。こんなに胸躍る展開はない。お兄ちゃんやってて良かった! 世界のお兄ちゃんの皆さん! 僕は今、幸せです!
「いえ、私が兄さんに協力できることはありません。でも手は貸してほしいです」
……世界のお兄ちゃんの皆さん。この扱いも、妹を持つ贅沢ってもんですよね。……ね!?
「今度の期末テスト、あれに勝たないと気が済みません。あれ、昨日私を馬鹿にしてきやがりました。あれ、倒す」
「それは聞き捨てならんな。紬が倒す前にお兄ちゃんがボッコボコのメッタメタにしてやろう。あれの家はどこだ?」
俺のスーパープリチーな妹を馬鹿にするとは。あれの今世もここまでだな。つまり世紀末。ここは世紀末らしく、ヒャッハーな装備でぶん殴りに行ってやるよ。
「それより勉強を教えてください。今の私には戦闘力が必要です」
紬は曇りなき眼で俺を見つめてくる。……きゃわわ。でもな、お兄ちゃんだって、倒すべき相手がいる。ここは厳しくすべきところだ!
「紬さんや。前から何度も言うておるが、お主の勉強は脱線が多いんじゃ。将来の役には立つが、テストの順位を競うなら無駄だ。その無駄をやめなさい。さすれば与えられん」
「でも兄さんだって、最近はテスト範囲以外の勉強を手広くやってるじゃないですか」
「だってラスボスの知識量が半端ないんだもん! なんであの人、高校生クイズに出ないの? 意味わかんない!」
「あー、兄さんの相手は六花さんでしたか。その手前の弘人君だと思ってました」
「あのラスボスを倒さないと気が済まないの!」
「六花さんを倒すならもっと簡単な方法がありますよ?」
え、何、知りたい。教えて紬さん!
「二人っきりの密室で勉強するんです。そうすれば、相手が勝手に自滅するでしょう。その間に兄さんは集中して勉強してください。六花さんごとき、これで終わりです」
……妹や。君は現役バリバリの男子高校生を舐めている。その状況でやられるのは俺だ。自信がある。ドキドキマギマギしてモジモジしてる間に向こうはクソ真面目に勉強しだして、ガッカリしてメソメソするのが落ちだ。そもそもそんなことできる場所が無い。作戦変更!
「もー我がままですね。それより先に、私の方を何とかしてください。あれを超えないと、私のプライドがズタズタです」
「そっちこそ簡単な方法があるぞ。テスト終了まで、あれと湯田さんを隔離させるんだ。あれが勉強頑張ってるのって湯田さんに見てもらう為だから、隔離させればイチコロよ」
「なるほど、それは思い付きませんでした。兄さんは優しい顔して残虐極まりない極悪党ですね。相手の息の根を止める必殺技じゃないですか」
悪い笑みを浮かべた紬はいそいそと電話をかけ始めた。善は急げってな! え、俺は実行しないのかって? 俺はほら……シャイガイだからさ。な?
テストが終了した翌週。部室には、ドヤ顔でふんぞり返る雪白さんがいた。
「ふふ、今回も私の勝ちね。まあざっとこんなもんかしら」
ぐやじぃ! あんなに頑張っだのに。あんなに頑張っだのに!
俺は項垂れた。もう一生勝てる気がしない……。
「でも、ほら。今回は二教科も負けたわ。前回より差は縮まったんじゃない?」
なぜか嬉しそうに励ましてくる残虐乙女、雪白六花。次こそは……この雪辱を果たすのじゃ!
俺は誓った。次回は残虐乙女を勉強会に誘おうと。
して、紬さんはどうなった?
俺は項垂れたまま隣の紬を見た。
「……兄さんは嘘つきで役立たずです」
紬もまた、項垂れていた。
「俺って実は秘められた才能があるっていうか、本当は特進でも良かったんじゃないかって自分でも思うんだけど、やっぱり特進の人たちの前でそれを言っちゃうとさすがに烏滸がましいっていうか、やっぱ俺つえーみたいな?」
部室には、「あれ」こと星時彦の粘着質な声が、延々と鳴り響いていた。とほほのほ。




