第二部二十話
家に着いた俺達を出迎えたのは、「熱烈歓迎」の四文字が描かれた巨大プレートと、浮ついた母の姿だった。よく見るとばっちり化粧までしている。
「……買い物に行ったんじゃなかったの?」
「とっくに終わって帰って来たのよ。あんた達、歩くの遅いわね」
……四十過ぎの万年運動不足漫画家に言われた。地味にショックだ。
「皆さん紹介します。私達の母です」
「はーい! 紬と司の母でーす! 名前は相田佐紀、歳は四十四、職業は漫画家でーす!」
紬が母を紹介すると、母はハイテンションで自己紹介する。頼むから落ち着いてくれ。
皆の様子を見ると、全員口をポカンと開けて固まっていた。ほらぁ! 皆困ってんじゃん!
すると雪白さんが、恐る恐る手を挙げる。
「はい! そこの美少女!」
母がノリノリで雪白さんを指名した。
「あの、あの……、あの……」
雪白さんは言葉にならない様子だ。
「あの! ……相田先生のファンです。先生の描いた作品に……あの……」
とうとう泣き出してしまった。
母は雪白さんを茶化すこともなく、ゆっくり言葉を待っている。
「わ、私……、先生の作品に、じ、人生を救われて……。それで、その、うぅ……」
雪白さんは泣き崩れてしまった。……大丈夫?
母を見ると、慈愛に満ちた表情で雪白さんを見ていた。え、そんな表情、俺達に見せたことないじゃん……。
「あなたが雪白さんね。司から話は聞いているわ。いつも作品を読んでくれてありがとう。今日から部活で家を使うのよね? 時間はあるから、またあなたのお話、聞かせてちょうだい?」
母の言葉に、雪白さんは必死にコクコク頷く。人生のバイブルを描いた人に、会えてよかったね。これでちょっとは元気になってくれるといいけど……。
「それで、部屋を案内したいのだけど、部長さんは誰かしら?」
「あ、それは俺」
母の問いに、俺は手を挙げた。
「プフッ、あんた部長だったの? 傑作ねー」
何だとコラァ!? 失礼過ぎるにも程がある。
「そして私が代表です」
紬がむふーっとドヤ顔で申し出る。母は「部長の意味ないじゃん」と笑っていた。
「申し遅れました。わたくし、リーダーの大竹華恋ですわ」
大竹さんが丁寧にお辞儀をする。こういうときはお嬢様然としている。
「主将の室井武尊です」
「キャプテンの渡部弘人です」
「座長の湯田小夜です」
「団長の星時彦です」
皆身勝手に、順々に自己紹介していく。
「……総長の雪白六花です」
最後に雪白さんが自己紹介したところで、ついに母はお腹を抱えて笑い出した。
「あんた達、漫才サークルか何かなの?」
……トポフィリア研究部という、高尚な部活のはずなのですがね。
俺はもう、保身を諦めた。
母の仕事部屋は、普段生活している母屋とは別の建物にある。ログハウス風の建物に、メインルームと、資料室、倉庫、そしてキッチンとトイレが付く、至れり尽くせりの環境だ。
元々どこかの著名な大学教授が所有していた物件だったものを、母が買い取ったらしい。引っ越ししてきた当初は驚いたが、売れっ子漫画家なのでこれくらいは朝飯前なのだろう。
皆さぞ驚くかと思いきや、意外にも平然としている。そうだ、こいつら山府でも有名な名家の出身だった。このくらいではビクともしないか……。
「倉庫と資料室の出入りは遠慮してね。契約関係とか大事な書類がたくさんあるから。一応鍵は閉めてあるけど、私、ズボラでしょっちゅう閉め忘れちゃうのよねー」
母は上機嫌で案内を続ける。資料の中身まで話さなくても良いだろうに……。
「使う前と使った後は必ず報告すること。他所の家のお子さんを預かる立場上、所在を把握しなくちゃいけないからね。いい? わかった司?」
どうして俺だけに言うのだ。あ、そっか、部長は俺だった。
「冷蔵庫にジュース入れてあるから、皆で飲んで。それからそれから……」
「母さん。後は私達でやるので大丈夫です」
紬が浮かれる母を止めた。母は少ししょんぼりして去っていく……。落ち込むな母よ。あなたは一人の少女を救ったのだ。
雪白さんは名残惜しそうに母の背中を見つめていた。……なんかモヤるな。
「では、早速部活動を始めましょうか」
トポ部代表の紬が、仕切りだした。




