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(9)ちくわの秘密と洞窟の秘密

〇原子力潜水艦「かみかぜ」 大泉内閣府参与個室

大泉さんの個室は思いの他狭かった。3畳ほどしかないんじゃないだろうか。そこにベッド、机、椅子、クローゼットなどが床や壁に固定されてしつらえられていた。ま、潜水艦だもん、狭いか。


「狭いところだが勘弁してくれ」

とオレは手招きされた椅子に座った。ちくは勝手にベッドに飛び乗って大きく伸びをした。

「おい、ちく!」

「いいんだ、構わないよ。うちにも昔猫がいたからね、気にしなくていい。トラ柄だったけど」


「さて、と。どこから何を聞けばいいのか、話せばいいのか」

そう言うと、ふぅっと大きく息を吐きながら、大泉さんはオレの正面の椅子に座った。


「話すと言っても、考えてみれば君はもう全て知っているんだったね?」

「オレではなく、ちくわが、です。オレはちくわが喋ったことしか知りません」

「そうか、ちくわちゃんだったか」


そう言いながらベッドのちくわに目をやった。それからオレを見上げて、

「君の名前も聞いていいかな?」

と聞いてきた。


「あ、失礼しました。大泉さんは名乗ってくれたのに。オレは八瀬 健太郎と言います」

「八瀬君か。君はいつからちくわちゃんの言葉がわかるようになったんだい? それにちくわちゃんはいつから透視能力、というか予知能力、というか、とにかく、その・・・特殊な能力を使えるように?」

「ちくわの言葉わかるようになったのは今朝です」

「今朝!」

それは予想外だった、とでもいうように大泉さんが言う。


「えぇ。自宅で寝てたら、いきなりオレのお腹の上に乗ってきて、今日は潜水艦が来るから、大空洞に行くぞ、と」

「・・・なんと、予知能力か?」

大きく目を見開いて大泉さんが言った。


「いや、それはこの前秘密基地に上がった時に、ちくも知ったんだと思います」

「なるほど。さっき言ってた触れれば何かがわかるってやつか」

「はい。何を触ったのかはわかりませんけど、きっと何かに触れた時に、出航の予定とかを知ったのではないかと。そしてちくがその能力を身に着けたのも、思えばその時だと思います」

「というと?」


「あの日、オレとちくは吉田山から地下道を歩いてきて、上下に伸びる階段に突き当たりました。偶然入ってきたのでライトはスマホの灯りだけで予備のバッテリーもないから、上か下か、どちらか一方にだけ行って帰ろうと思って、その日は上に行きました。そしたら潜水艦のようなハッチがあって、開けたらSFに出てくる管制室のような部屋でした。置いてある機械を見てもまるで管制室のようだったし。そのうち、あたりをちょろちょろしてたちくが鉱石の塊みたいなのが片隅に置いてあるのを見つけて、頭とか体とかをすりすりしだしました。まぁ、猫は見たことのないものとか、新しいものにはまずちょっかいを出すので、そのときもその類の行動だと思ってたのですが・・・」

「ですが?」


「その日の夜から、なんか元気がなくなって。押入れの奥にうずくまったままご飯もほとんど食べないし、水も飲まないし。その日はちょっと遠出したから疲れたかくらいに思ってたんですけど、次の日も同じ感じで。こりゃ医者に連れてった方がいいかな、と押し入れでちくを探したら、半目のちくの、頭だけが小刻みに震えてて、目が光ってたんですよ!」


「暗がりなら猫の目は光るのでは?」

「えぇ、そうなんですけど、違うんですよ! 普通は外の光が反射して光ってるように見えるじゃないですか。でも、その時のはちくの目は、反射じゃなくて、目そのものから光が発せられてるような感じでした、ロボットみたいに! こりゃますますヤバい、医者に行こうと思った時、大丈夫って言ったんです! 大丈夫だから待ってて、と」


「大丈夫だから、待ってて・・・え、でも初めて言葉を聞いたのは今朝だって」

「はい。その時、確かに大丈夫だから待ってて、と喋ったように聞こえたんですけど、その後は何も喋らなかったし、もしかして気のせいだったかと思ってました。実際、その後今朝までは何も喋りませんでしたし、聞こえなかったので」


「で、ちくわちゃんの言った通り待っていたら元気になった、と?」

「えぇ、昨日から普通に食事もトイレも。そして、今朝、です」

「潜水艦が来るから行くぞ、と?」

「はい」


「ふーん、不思議なこともあるものだ。しかし、ちくわちゃんが特殊能力を得た可能性があるとしたら・・・秘密基地にあった鉱石の塊に頭とか身体を擦り付けたことくらいか・・・確か、ここで採取したモナザイトを仮置きしてあったはずだが・・・」

「モナザイト? 特殊な鉱石ですか?」

「レアアースだよ」

「レアアース? 半導体とかに使う、あれですか?」

「そう」


「それにすりすりしたくらいで特殊な能力が身に着いたりするものでしょうか。放射能とか宇宙線とか、何か特殊なものが出てるんでしょうか?」

「私もレアアースには詳しくないんだ、すまない。でもちくわちゃんに他に変わった行動がなかったとすると、モナザイトが何か影響を与えた可能性は否定できない」

オレは、ですよね、という感じで頷いた。


「話を戻すけど、ちくわちゃんが潜水艦か来るぞと言うからここに来て、そして我々と遭遇した、そういうことかな?」

「はい。で、大泉さんと若井さんが二人で話してるときに、ちくが潜水艦に乗り込むよと言ってきたんです」


「それはつまり・・・」

「潜水艦に触れさえすれば、その目的がわかると思ったんだと思います。そして実際、東亜共和国に先制攻撃するための原潜だったと、ちくは知った」


すると大泉さんは少し苦笑しながら、

「確かに、政府からは、明確に我が国に攻撃を仕掛ける兆候がある国に対しては先制攻撃も可能、という見解は出されている。でもこの潜水艦は先制攻撃をするために造られたわけじゃないよ。それに我が国の基本はあくまで専守防衛だ。ちくわちゃんだってさっきはそう言ってたよ」


「そうでしたね。にしても日本が原潜を持っていたなんてちっとも知りませんでした」

「この艦はね、元々は米軍の依頼で秘密裏に建造が開始されたものなんだ。米軍が費用を負担するし、武器などの艤装品に関しても米軍が提供する。今回は実は完成後の試験航海なんだよ」

「試運転ってことですか?」

「そういうことになるね。けれど機能と性能の大方の検証はつつがなく完了している」


「もう一つ聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「さっき、この潜水艦はアメリカの依頼で、費用もアメリカ持ちで作ったって言ってましたけど、それでアメリカにはどんな見返りがあるんですか?」


「東亜共和国だよ。日本海だけでなく東シナ海まで海洋進出している東亜共和国軍の動きを日本側に監視、抑制させるのが目的だ」

「でもそれならアメリカの原潜がすればいいのでは?」


「その通り。だが、日本海での隠密行動となれば日本がやるのが自然だ。海図も我々の方が詳細なものを持っている。それに万一東亜共和国軍に発見された時、日本の自衛隊が日本海で原潜の試運転をしていただけだ、それの何が悪い、と堂々開き直れるからね。アメリカとしても、どうしてアメリカ原潜が日本海をちょろちょろしてるんだと東亜共和国に変に勘繰られることもない」


なるほど、と言う感じでオレが頷いていると、大泉さんは、座り直して、背を伸ばし、オレの目を真っすぐに見つめ、続けた。

「ちくわちゃんのことを話してくれたし、私からもちゃんと話しておこう」

オレも慌てて背を伸ばして、姿勢を正した。


「舞鶴湾沖の日本海のEEZ内に巨大なレアアース鉱脈があることは昔から知られていて、日本政府はその鉱脈の規模と埋蔵量を官民合同で調査を進めていたんだ。ところが数年位前から東亜共和国もその鉱脈調査を目的に日本のEEZ内に入り込んできた。我々は政府筋を通じて何度となく抗議を申し入れたが、東亜共和国側の調査が止まることはなかった。それどころか、海上の調査船の護衛に駆逐艦まで帯同するようになった。我々としてはEEZ内の鉱脈を絶対東亜共和国に渡すわけにはいかない。そこで総理は海自の一部の隊員に特命を付し、日本の海底鉱床の調査船団を護衛することとなった」


「それで海自の潜水艦に内閣情報調査室まで乗ってるわけですね」

「そういうことだ。そして、その何回目かの航海の時に、舞鶴湾沖の海中に非常に大きな洞窟を発見したのだ。今では我々は舞鶴海道と呼んでいるのだが、それはこの潜水艦が通れるほどの大きな洞窟で、しかも内陸側につながっている。八瀬君、ソナーってわかるかな?」

「えぇ、潜水艦についてる海中のレーダーみたいなものですよね」


「そう。そのソナーを使って、どのくらい奥に深い洞窟なのかを探っていたんだ。そうしたらどんどん奥へ続いている。もしかしたら琵琶湖まで続いているんじゃないかと思ったんだが、この場所で行き止まりになってね。浮上したらこの大空洞だった、というわけさ」


「吉田山があんな大空洞の地底湖につながっていただけでも驚きなのに、その地底湖が舞鶴までつながってるなんて・・・」

「舞鶴湾沖に洞窟があって、そこを進んできたらここに浮上したなんて話、俄かには信じがたい、私もだ。だが今君の目の前にあるこれが真実であり事実。基地司令でさえ実際に自分の目で見るまでは全く信じていなかったからね」


大泉さんの話を聞いて、オレは素朴な疑問を口にしてみた。

「舞鶴海道といい、大空洞といい、オレが通ってきた地下トンネルといい、一体誰がいつ、どんな目的で作ったのでしょうか?」

「実は、若井によると舞鶴海道と大空洞は、少なくとも戦時中には知られていたらしい」

「え、ホントですか!」


「あぁ、我々は偶然発見した舞鶴海道を通ってこの大洞窟にたどり着いたが、こんな戦争にもってこいの地形、大日本帝国海軍が気づかなかったわけがない。そう思って、政府の力を存分に発揮して、舞鶴基地内に今でも保管されている、当時の極秘資料を調べたんだ。そしたら見事に出てきたよ。舞鶴海道を通って、イ号潜水艦が大洞窟に到達したことも記されていた。どうやって測量したのか定かではないが、そこが如意ケ岳山頂直下に位置することも知っていたようだ」

「なんと・・・すごい」


「京都は比較的空襲を受けなかった地域ではあるが、終戦直前、連合軍の本土上陸に備え、この京都でも如意ケ岳山頂にレーダー施設、比叡山や吉田山に高射砲を設置する計画があったらしい。資料には残っていなかったが、その施設に物資や人員を輸送するために地下道を掘ったのではないかと考えている。それに、この大空洞、イ号潜水艦なら2,3隻は同時に停泊できるだろうから、連合軍に知られない秘密基地的役割を果たせただろうし、あるいは、東京から天皇を避難させるための極秘大本営的な役割の計画もあったのかもしれない。当時の海軍は、ここを拠点に壮大な大どんでん返し計画を練っていたかもしれないね」

「そんな計画が・・・」


「いや、あくまで私の想像だよ。それに結局、レーダー施設も高射砲も、計画段階で終戦を迎えたので実現することはなかったが、掘った地下道などは、米軍に知られることもなく戦争遺構としてそのまま残ったのだろう」


「それを偶然、オレとちくが発見してしまった」

「そういうことになるね。ちなみに廃屋の撤去工事は内閣府の発注でね。撤去した後はダミーの電波中継棟風の建屋を立て、周りをフェンスで囲って立入禁止とする予定だよ」

「え、じゃあもうすぐあのトンネルには入れなくなっちゃうんですか! 残念過ぎる! 今のうちに別の入り口を掘っておこうかな」 

オレが本気でそう言うと、

「ははは、我々の手を煩わせるようことは慎んでくれよ」

と大泉さんは笑った。


「あ、思い出しました! 入り口と言えば、あの地下道、もう一つ別の入り口がありました!」

「え?」

と言って大泉さんの顔から笑顔が消える。

「廃屋の地下室からトンネルに入って、5分くらいかな、進んだ右手に鉄の扉があるのを今朝発見したんです。で、その扉を開けると、同じように真っすぐな道があって、進んでいくとまた鉄のドアが出て来て、そこを開けたら・・・」

「開けたら?」

大泉さんが身を乗り出して聞く。


「大文字山の天の原と呼ばれる場所に出たんです」

「大文字山って、あの送り火の?」

「はい。送り火は火床でやるのですが、その天の原は火床からもっと奥に進んだところにあります。で、扉は天の原の外れの草で覆われた場所にありました。なんかまた新しい大洞窟にでも繋がってると思ったら、地上、というか天の原だったのでちょっと拍子抜けでしたけど」

「ふーん・・・大文字山の天の原ねぇ」


「そこは山の中とは思えないくらいすっごい広いんですよ! もちろん山の中なので傾斜はあるんですが、広さ的にはサッカー場くらいある感じです」

「なるほど・・・もしかしたら戦時中、高射砲設置計画があったころ、砲弾庫や兵舎建設のために掘ったトンネルかもしれないね。ちょっと舞鶴の基地に戻ったら、また調べてみるよ。何か、新しい発見があるかもしれない」

そういって大泉さんは何やら手帳にメモを始めた。


「手帳って・・・。意外と大泉さんはアナログ派なんですね」

と聞くと、大泉さんは、

「あぁ、よく言われるよ。まぁでもバッテリーやら電気やらに頼らずに済むからね。結構重宝するんだ」と苦笑いした。


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