表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/47

(10)若井と大泉

「ところで、この潜水艦にはスーツ姿の人が何人か乗っているみたいですが?」

「あぁ、気が付いたかい、よく見てるね。スーツは役所組だ。若井の防衛省と、私の内閣府からの乗船組だ。私は今でこそ内閣府の総理特命補佐だが、元々は防衛省の出身でね、若井と同期なんだよ」


「へぇ若井さんと・・・」 

それはご愁傷様、と言う感じの表情だったのか、オレの顔を見た大泉さんが、

「アイツは取っつきにくいところがあるかもしれないが、根は真面目なんだよ。仕事にも上司にも忠実だし、出世欲もある。だからと言って不正はしない。ま、私よりはずっと役人向きかな」


「でも、なんかまず人を疑ってかかるというか、見下す感じがあるというか・・・」

「うん、そこがちょっとアイツの誤解されやすいところかな」

「若井は防衛省防衛政策局日米防衛協力課と言うところにいた。そこで東亜共和国が日本海沖EEZ内のレアアース交渉を狙っていることを知ったらしい。日本の国益を、軍事力を盾に強奪しようとする東亜共和国のやり方が相当腹に据えかねたらしく、レアアース調査隊を防衛するための任務をこの「かみかぜ」が担当すると決まった時、あいつは乗船させてくれ、と大臣に直訴したらしい」

「大臣に、直訴・・・!」


「「かみかぜ」に乗れたところで、こちらから魚雷を打てるわけでもなく、東亜共和国がやってることに警告を発する海自の船を海の底から見守るだけだから、歯がゆい思いはし続けることにはなるんだぞと、あちこちから言われたらしいんだけど、それでも机の上で頭を掻きむしって悔しがるよりは、相手のいる現場で、あわよくば刺し違えてでも護衛艦は守ってみせると啖呵を切って、乗艦を認めさせたらしい」

「へぇ、若井さんが・・・」

「うん。日本を守るってことに関しては熱い男なんだよ」


「大泉さんは?」

「私は国際政策課という部署にいたんだ。出世欲は人並みにはあったけど、若井ほどじゃなかったかな。これからの日本の自衛隊をどうすべきか、ということよりも、むしろ、日本が軍隊を持っていたころ、大日本帝国の陸軍や海軍の思想や政策を調べて、なぜ当時の軍は戦争に突き進んだのか、回避できる術はなかったのか、現代の自衛隊にも通じる政策はなかったのか、なんてことを調べることの方が好きだったし、性にあってた。だから舞鶴基地の公文書を夜な夜な調べるのは苦にはならなかった」


「まぁそんなふうに当時の政策なんかを調べていたころ、日本が初めての原潜「かみかぜ」を作ることになって、アメリカに留学してた時の上司が、私を乗艦させるよう海上幕僚長に推薦してくれたんだよ」

「アメリカに留学?」

「あぁ、アメリカ海軍だ。日本とアメリカは合同演習などを行っていることは知ってるだろ? そういった防衛交流は現場の隊員たちだけでなく、我々のような、有事の際に現場には出ない事務官同士でも行われているんだ。私が行ったのはバージニア州のノーフォーク海軍基地で、ここは世界最大の海軍基地なんだ。アメリカ艦隊の総司令部もあるところだ」

「すげー」


「組織は確かにすごいんだけど、私が派遣されたのは、その総司令部の中で、これまでの米軍の戦闘の歴史を分析、解析する部署でね。当時でも数人しかいなかったよ。そこで私の上司になった人が私の仕事ぶりを気に入ってくれたんだ」


そこで大泉さんは、当時の上司に言われた言葉を噛みしめるように言った。

「お前は振り上げたこぶしの降ろし方を知っている軍人になれそうだ、と褒められたことがあった。


その人は、今は対東亜共和国軍事政策を統括する部署にいて、「かみかぜ」建造の際に、私の乗艦を進めてくれた、というわけだ。東亜共和国が振り上げたこぶしを、戦争をせずに、死人を出さずに降ろさせてみろ、と言われている気がして、引き受けることにしたんだ」


「今の東亜共和国相手に、無事に振り降ろさせることができますか?」

「どうだろうね。私は本来現場に出て何かをするのではなく、現場に出る前に、つまり相手がこぶしを振り上げる前にそれを抑える政策を作らなくちゃいけない立場なんだ。そういう意味では中野艦長は考えの近い人だし、ずっと現場にいる分、振り上げられてしまったこぶしの降ろし方は、彼の方が詳しいかもしれない。私も微力ながら力になる所存だよ。中野とは防衛大時代の同期だしね」


そこまで聞いて、

「人に歴史ありと言うか、若井さんも大泉さんもすごい人だなぁ。ちゃんと日本のことを考えてるんだ」

と心から感じたことを言った。


「役人なんてみんな政治家の小間使いだと思ってました。そして政治家は自分の金の心配ばかりしてる連中だとしか思えなくて、オレなんて、選挙にすら行ったことありませんよ。なんていうか、こう、本気で国益考えてます!って感じの政治家を見たことないし。あの人たちが見てるのは目の前の当選だけって感じがします。大泉さんのような人たちが政治家になればいいのに、と思いますよ」

と、いかにも残念そうにオレが言ったら大泉さんは苦笑していた。


そのとき、ふいに大泉さんの部屋の呼び出し音が鳴った!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ