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(28)作戦

〇大空洞内の上陸地

自分を囲むように立っているみんなを見回してから、大泉さんは口を開いた。

「今回の件、そもそもはこの地底湖の水位低下に端を発している。水位低下に伴って現れた第2空洞を調査したところ、宮殿のような場所にこの三角錐が設置されていたのを発見したのが前回の調査だ。特調チームを編成して、今日改めて調査に臨んだところ、三角錐がそこに移動していた」


そう言って大泉さんは地底湖に浮かぶ三角錐を指さした。

「自然に移動したのか、それとも何らかの力で移動したのかは不明だが、三角錐と宮殿の刻印はサンスクリット語であることが判明し、かつて平安京の時代に、都を天変地異から守るために、地脈の結節点であろうこの地に、陰陽師が三角錐を設置したのではないか、というのが木下の考えだ」


大泉さんが続ける。

「そして今日、特調チームが持ち込んだ様々な機器による観測結果をAIに分析させたところ、やはり木下の言うように地脈が乱れているという結果が出た」


そこまで言うと、大泉さんは「木下」と呼び、一度頷いてから一歩下がった。


「防衛省の木下です。二十一世紀の今、しかもサイエンス集団のみなさんにこんなことを言うのは非科学的と笑われるかもしれないが、それを覚悟で言えば、今の現象はまさに陰陽の技」


木下さんはペットボトルの水を一口飲んで、続ける。

「この場所はやはり、京都、いや平安京を成立せしめた地脈の結節点です! 三角錐の刻印は、それを安定させるため、天変地異を抑えるための陰陽律で書かれた呪文に違いないと思いました。設置されたのが、平安京開設の頃と考えれば、あれから1200年余り。呪文の力も徐々に弱まり、京都を震源としない地震の揺れや、河川による浸食などにより、結節点が少しづつ移動してしまったと思われます」


三角錐が地脈を安定させるためのものだとしたら、それを振動させてしまうちくわは、まずいんじゃないかと思ったオレは、

「ちくわが三角錐に近づくと振動が激しくなるから、ますます地脈が乱れちゃうんじゃないですか?」

と聞いてみた。


しかし木下さんは、そうではない、という風に手を挙げて、

「それはおそらく逆です。ちくわちゃんが近づくと三角錐が激しく振動するのは結節点を元に戻そうと大地を揺るがしているからです。ちくわちゃんには、弱まった呪文の力を元に戻す力があるのではないでしょうか」


さらに続ける。

「三角錐にも第2空洞の神殿みたいな壁にも、文字のような刻印があります。あれはサンスクリット語です。地脈の乱れや結節点の移動を抑えるための陰陽の呪文が書いてあるんだと思っていました。ただ一文字一文字の並びはでたらめで、どう読んでも意味のある文章にならず、それが私を悩ませていました。ですが、ちくわちゃんが三角錐に近づいて振動して、刻印が光った場所の文字を順番につないでいくと、それは陰陽師の呪文、急々如律令きゅうきゅうにょりつりょうでした」


「きゅうきゅう、にょ・・・ん?」

若井さんがちゃちゃをいれるが、木下さんは真面目な顔のまま、

「きゅうきゅうにょりつりょう、つまり、直ちにことを成せ、と言う意味です。私は、直ちに結節点を戻せ、と理解しました」


「では、あのままちくわちゃんが三角錐のそばにいればいいと?」

大泉さんが質問する。

「いえ、急々如律令の前には「中」という文字と「入」るという文字が光っていました」

「つまり「中に入り、直ちに結節点を戻せ」ってことか?」

「はい」


木下さんはそう返事をして、三角錐を振り向きながら、

「おそらくあの三角錐のどこかが開いて、中に入れるはずです。その中心で力を発揮する必要があるのではないでしょうか」


「力を発揮すると言っても、どうやって・・・」

そう言って、オレはちくを見る。


「確かに、ちくわちゃんが近づくと、なぜ三角錐が反応するのかの原因はわかっていませんが、先ほどの現象を見る限り、ちくわちゃんが三角錐に近づけば近づくほど、光が強くなり、振動も激しくなっていました。なので、三角錐の中に入ったときこそ、その現象が最大になるはずです!」

木下さんが力強く言う。


「大泉さん、確かに三角錐の中は空洞みたい。どこが開くのかはわからないけど」

イヤフォンにかけるの声が響いた。


どこが開くのかわからないけど、と聞いて木下さんは、それなんだよ、という表情で、腕を腰に当てて上を向く。


「それならおそらく、ちくは自分で探して開けられると思います」

とオレは答えた。


するとみんなが一斉にオレを振り向くので、オレは慌てて手を振りながら、

「根拠はないんです、根拠は! ただ、ちくは時々何だかわからない能力を発揮するので、そういう場面になれば、自分で開けられるかな、と」

ちくを見ながら言った。


「確かにな」

大泉さんと若井さんが頷いている。


それを見て木下さんが心配そうな表情で言う。

「ただ一つ懸念しているのは、あれ以上三角錐の振動が激しくなって、さっきみたいな衝撃波がまた発生したら、この空洞自体が破壊されてしまわないかと・・・」


「三角錐を振動させないために、ちくわを近づけずにこのまま放っておいたら・・・どうなる?」

怖いことを若井さんがしれっと聞く。


「おそらく地脈の乱れが今以上にひどくなり、断層の活性化を招き、この山体は崩壊し、ひょっとしたら京都地方に巨大な地震をもたらすかもしれません」

木下さんも、ゆっくりと上を見ながら、怖い答えを言った。


山体が崩壊すると聞いて、皆が上を向く。

その時、微かに地面が揺れた。

「また地震だ!」

揺れは小さく、長く続かなかったが、木下の地脈が乱れつつあるという説をみんなに信じさせるには十分だった。


大泉さんが言う。

「なのでやはり、オレたちはちくわちゃんの力を借りて、地脈の乱れを戻したうえで、その結節点上、おそらくは元あったあの宮殿の中心にこの三角錐を戻す必要がある」


みんなを見回して、続ける。

「木下の言うように空洞の崩壊という事態も考えられる。なので、若井、木下以外のメンバーは全員「かみかぜ」に避難」


意を決したようにさらに続ける。

「そして中野。もしこの空洞に崩落の危険を感じたら、躊躇せず、潜航してくれ」

そう言う大泉さんに、しばらく間が開いてから、

「わかった」

との中野艦長の返事がイヤフォンに届いた。


躊躇せず潜航しろ、という言葉を聞いて困惑の表情を見せる一同。中野艦長からの返事が遅かったのも、それが原因だろう。


大泉さんは、うんと頷いてから、

「かける、めぐる。もしこの空洞が崩落したらボルデメもそのまま巻き込まれる。危険を感じたら、君たちもためらうことなく、迷うことなく退避しろ」

大泉さんは、ボルデメのビューティペアにも声を掛けた。


おそらく同じことをオレにも言うつもりだったのだろう。大泉さんがこちらを見た瞬間、

「オレは残ります!」

と先手を打った。

「だって、オレがいないとちく語を訳す人がいなくなっちゃうし、言うことを聞かなくなるかもしれませんよ!」

そう言いながらちくを見ると、彼女はスフィンクスのように座りながら、じっと三角錐を見つめていた。


大泉さんは困ったような顔をしながら、

「ちくわちゃんの通訳は確かに八瀬君の言う通りだが、しかしこれ以上君を危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」

「それは大泉さんだって、若井さんだって同じじゃないですか!」

「俺たちは国家公務員。国民の安全を守るのが仕事さ」

「オレだってちくの飼い主です。ちくと一緒に行くのが務めです!」

駄々っ子みたいだし、支離滅裂だとは思ったが、オレは思ったことを言った。


大泉さんは苦笑しながら若井さんの顔を見て、

「わかった。その代わりヘルメットに安全ベストの着用、そして・・・崩落が発生しそうな緊急時には、我々の指示に従って欲しい」

「わかりました、約束します」


「よし、作戦決行だ!」


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