表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/47

(22)新しい冒険の始まり

最近、京都では地震が多い。多いといっても震度は1とか2なので、気づかないことも多いのだけれど、元々あまり地震のない場所なので、不安といえば不安だ。ニュースでは、専門家の話として、南海トラフとは関係ないので過度に心配することはない、とは言っていたけど。


ニュースと言えば、舞鶴湾沖での東亜共和国との戦闘について、政府が「舞鶴湾沖防衛出動」と名付けたと言っていた。その防衛出動から2か月。ちくは喋らなくなり、オレもすっかり元の生活に戻っていた。


吉田山には何度か散歩に行ったけど、ちくは大空洞へ続く地下道への扉があるはずの中継基地には目もくれず、あっちでバッタ、こっちでトンボと、追いかけっこに熱中していた。


もう一つ、大空洞に続く扉がある天の原には、あれ以来一度も行っていない。

何だろう・・・天の原の扉に行って、もし吉田山の中継基地のようにコンクリートで固められていたら、大空洞へ行く手段が、「かみかぜ」のみんなに会う手段が、もうなくなってしまったという現実を突きつけられるのが、怖かったからだろうか。


大泉さんたちからも連絡はない。オレも、みんなも舞鶴海戦の前の生活に戻ったのだ。


そんな風に過ごしていた、ある日の夜明け近く、健太郎起きて、と声がした。

誰かが腹の上を踏み踏みする。ちくだ。するともう一度、健太郎起きて、と。

間違いなくちくだと思い、オレは飛び起きて、腹の上のちくを見つめる。


「聞こえるんだね、健太郎」

「へ? また喋るようになった!?」

「行くよ」

「え?」

「あの洞窟。地下の大空洞だよ。今日は彼らの船が来るよ!」


マジか! オレはちくがまた喋り始めたことにもびっくりしたけど、「かみかぜ」が来るってことにもびっくりした。だって「かみかぜ」が来るってことは、大泉さんも来るってことだ。なら行くしかない!


「うるさいなぁ・・・まだ4時じゃん・・・何やってるのぉ・・・」

と隣に寝ているハナちゃんから苦情が来たけど、オレはちくと早朝散歩に行ってくる、と言って、例によって宇宙飛行士のヘルメット型ケージに入れたちくを背負って出発した。


でも今日は吉田山じゃない。天の原に向かうため、大文字から登らなくちゃだからその分時間が掛かる。


銀閣寺脇に自転車を止め、速足に登り始める。


朝4時半。

さすがにまだ誰もいない。火床に着くと、おそらく毎朝登っていると思われるおじいさんが一人でラジオ体操をしていた。普段ならここで眼下の京都市街を眺めて一服するところだけど、今日は先を急ぐ。明るくなって、天の原にも人が来るようになっちゃうとマズイ。休憩は地下道に入ってからいくらでも取れるからと、オレは三角点でも休まず先を急いだ。


三角点の先には四辻があるのけれど、その手前を左に曲がる。そこからはもう登山道はない。枯れ葉の溜まる道なき道を、GPSだけを頼りに天の原を目指した。


15分も下ると天の原に到着。小川の脇のうっそうとした草むらをかき分けるように進むと、あった! あの扉だ!


深呼吸をしてドアノブに触れる。少しだけ冷んやりする。

そして、ゆっくりとドアノブを回すと、ガチャンと音が響いて、扉が開いた。真っ暗な道の先から、冷たい風が流れ出てくる。

暗い地下道に身を滑りこませてから、明るくなってきた辺りを見回して誰もいないことを確認してそっとドアを閉めた。


背中でちくがにゃあと鳴いた。人間の言葉じゃなかったけど、オレには、新しい冒険の始まりだ、と言っているように聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ