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(13)潜航

〇原子力潜水艦「かみかぜ」ブリッジ

大泉さんを追って、着いた先はブリッジだった。

両手を後ろ手で組んで立っていた艦長と思しき人がこちらを振り返って、オレとちくを認めると眉をひそめて言った。

「大泉?」


大泉さんは艦長の言葉を手で制しながら、

「わかってる。が、ちょっと聞いてくれ」


大泉さんはブリッジ内を見回してから、

「周級が1隻いる!」と言った。

え? とブリッジの全員が大泉さんを振り返った。


「どういうことだ、大泉」

艦長と若井さんが同時に大泉さんに詰め寄る。


「彼が、そう言ったんだよ」

と大泉さんは足元のちくわを指さした。


「・・・彼女、です」

とオレはすぐに訂正したが、ちょっと空気を読まない発言だったようで、皆からジロリと睨まれたので、

「あ、すいません・・・」

と2、3歩後ずさりながら謝った。


「猫が? ・・・大泉、お前」

気でも違ったかと艦長が言いかけた時、艦長の顔を見上げていたちくがうにゃにゃにゃにゃにゃ~と鳴き声を上げた。大泉さんが、何て?という表情でオレの顔を見るので、

「えぇっと、ボルデメ、でしたっけ? 上の秘密基地。そこが起動したらイロハのデータから音紋不明の潜水艦が1隻確認できるはずだ、とちくが言ってます」


とちくの鳴き声を通訳したら、艦長は、何を言ってるんだ君は、的な表情でオレを見て、それから大泉さんに視線を移すと、大泉さんは、その通りなんだよ、と言わんばかりに、うん、と大きく頷いた。


それを見て、艦長はマイクを取って呼びかけた。

「ボルデメ、こちら「かみかぜ」。取れるか?」

「中野艦長、こちらボルデメ。感度良好です」

「かける、起動は完了したか?」

「はい、ちょうど今完了しました、これから・・・」

「イロハからのデータ解析を最優先で頼む」

「はい?」


「イロハが舞鶴沖の状況を偵察したデータが届いているはずだ。それを大至急解析し、東亜共和国側の艦隊の詳細を知りたい。急げ!」

「あぁ、はい。なんだかわかりませんけど、はい」


中野艦長は喋り終えたマイクを握りしめたまま、大泉さん、オレ、そしてちくの順で顔を見まわした。ちくは後ろ足で耳の後ろのところを掻いている。


「そもそも君たちはなぜこの艦に乗っているんだ?」

と中野艦長がオレに質問したとき、

「「かみかぜ」、こちらボルデメ、かけるです」

と秘密基地から連絡が入ったので、大泉さんが、後で説明する、と艦長に耳打ちした。


「データ解析完了しました。東亜共和国艦隊は掘削船1、南昌級ミサイル駆逐艦2、唐級原潜1、そして・・・」

「そして?」

「音紋不明の原潜がいますね、数1。唐級の後ろに潜んでます。新型ですか?」


中野艦長は目をつむりながら、うーんと言う感じで上を向いてしばし沈黙した。

「・・・了解した。かける、イロハと連携して監視継続。何か動きがあればすぐに知らせろ。それと状況を内調にも共有。場合によっては空自の出動も検討するよう要請しておけ」

「了解です」


「中野?」 

この猫のこと信じてもらえたか、と言った表情で大泉さんが尋ねると、

「音紋不明の原潜だ、周級かどうかはまだわからん」


「お言葉ですが中野艦長。ボルデメには周級以前の東亜共和国潜水艦の音紋は全てあります。それでも確認できないってことは最新鋭型ってことで間違いないんじゃないでしょうか」

とスピーカーの向こうでかけるが言った。中野はマイクを胸元で握りしめたまま、大泉を見据え、

「周級かどうかはまだわからん。が、周級と思って行動すべきだな」

大泉は黙って頷いた。


それからオレは大泉さんに促され、ちくの特殊能力について、艦長はじめ、ブリッジのみんなに説明した。


「俄かには信じがたい・・・」 

はぁっとため息をついて中野艦長が呟いた。


「けど、さっきの周級の音紋の件は、今の八瀬君の話の通りでないと説明がつきませんね」

と言ったのはヘッドホンを付けている男性。ソナーの担当だろうか。


「にしても、掘削船はともかく、ミサイル駆逐艦と原潜がそれぞれ2隻? しかも最新型? 護衛じゃねーだろ、これ」


と若井さんが言うと、

「力づくでレアアースを分捕る気だな」

と副艦長と思しき人が言った。

「それとも目的は別にある、とか」

と意味深な発言は大泉さんだ。


「三上、出港準備は?」

と中野艦長が副艦長に言うと、

「いつでも行けます!」

との返事だった。


「・・・八瀬君、君たちの安全は我々が保証する。ついては、このまま同行してもらえないだろうか」 

意外にも中野艦長から同行の依頼であった。


「オレたちが、あ、いや、ちくがお役に立てそう、ということですか?」

と聞くと、艦長はオレの足元のちくを見ながら、

「少なくとも現時点では、この猫が、ちくわちゃんがいなければ周級原潜に気づくのは難しかったろう」

そう言われて気がよくなったのか、ちくは中野艦長の前にある戦術卓にぴょんと飛び乗って、艦長の顔を見てにゃあんと鳴いた。


艦長はちくを一撫でして、ブリッジの前方に向き直り、伝令を伝える。

「エンジン始動、潜航用意」

「エンジン始動、潜航用意!」


それからマイクを取り、

「艦長中野だ。本艦はこれより目的を変更。試験航海から実戦航海に切り替える。繰り返す、実戦航海に移る! 準備完了次第、潜航。舞鶴に戻り、我が国EEZ内のレアアース鉱床探査船の護衛を任務とする」


実戦航海!と聞いて、ブリッジの皆の背筋が伸びた気がした。中野艦長が続ける。

「知っての通り、現場海域には既に東亜共和国艦船が展開している。大型の掘削船を除けば、ミサイル駆逐艦2隻、唐級原潜1隻、そしてもう1隻の原潜、未確認だがおそらくは最新鋭の周級だ。戦闘は我々の望むところではないが、こちらの警告はおそらく無視され、そして攻撃を受ける可能性も否定できない。我々は専守防衛に徹するが、それは、発射されたミサイルを打ち落とすことだけを意味するものではない。戦況によっては、こちらからも・・・敵艦を撃つ! 総員、心して準備をぬかりなく頼む」

と艦内乗組員に伝えた。


乗組員のみなさんだけでなく、オレにもピリッとした空気が伝わってきた。


三上副長が、

「艦長、潜航準備オールクリア」

と伝える。中野艦長は静かに頷き、

「潜航」

と一言返事をし、副長が復唱する。

「潜航―ッ」


ブリッジ内が一気に緊張する。船が動き始めたのはわかったが、思いのほか揺れない。海のように波がないからだろうか。


この時のオレは、これから戦闘に巻き込まれるかもしれないという怖さよりも、TVでしか見たことのない潜水艦に乗れて、しかも潜航まで体験して、ドキドキとワクワクの方が勝っていた。


艦長の中野さんに代わって、副長の三上さんが乗組員に声を掛ける。

「藤本、帰りはAIじゃないんだからな、操艦ミスるなよ」

「お任せください!」

「音無、水田、湾まではまだあるが、お前らの耳だけが頼りだからな、頼むぞ!」

「了解。ちくわちゃんより役に立つってとこをお見せしますよ」


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