義達、佐久間・丹羽に上洛の伴を命ず
翌朝、冬の名残を含んだ冷気の中、
清洲城の一角に静かな呼び声が響いた。
「――佐久間、丹羽。武衛様がお呼びだ。」
二人が書院に通されると、義達は既に起座していた。
その面差しには昨夜の決意が固く宿っている。
「参りました。」
佐久間が膝をつき、続いて丹羽も控える。
義達は二人を見回し、柔らかく、しかし迷いのない声で言った。
「そなたら二人に、上洛の伴を命ずる。
来春には京へ向かうつもりだ。」
佐久間は目を瞬いた。
「……上洛の伴、でございますか。」
丹羽は驚きを抑えつつ、静かに頷く。
義達は続けた。
「在京は一年、長くとも二年は越えぬ。
京兆家よりの依頼に応え、御所を支える。
斯波家にとっても好機である。」
その声音は落ち着いていたが、
言葉の端に確かな昂りがあった。
「進物の用意も必要となる。
京の公家衆は細かいところに目が行く。
――椎茸など、尾張らしき品を揃えておけ。」
佐久間が一瞬「えっ」と目を剥きかけ、
あわてて頭を下げた。
「し、椎茸でございますか……? か、かしこまりました。」
育てているのは“内密”である。
義達が微妙に口元を緩めているのを見て、
丹羽が悟ったようにうなずいた。
「進物は、程よく驚きがあり、かつ品のあるもの。
確かに椎茸はうってつけにございます。」
佐久間は返答しながらも内心で頭を抱えていた。
(……いや、それはそれとして、問題はあれだ。
上洛だの一年だの言われたら、姉の婚期が……また遠のくではないか!)
義達が視線を向けた。
「佐久間、何か言いたげだな。」
「い、いえ、なんでもございません。」
佐久間は慌てて平伏したが、丹羽が横目で小さく笑った。
「武衛様。佐久間は最近、志段味で保護した姉弟の姉の方の嫁ぎ先で悩んでおりまして。」
「おい丹羽! 余計なことを……!」
義達はふっと笑みをこぼした。
「嫁ぎ先探しか。……弾正忠に頼んでいたな?」
「は、はい。ですが弾正忠殿にも“良い相手は少ないぞ”と言われまして……。
このままでは、京へ行く頃には“いかず後家にする気か!”とまた叱られます。」
「見事な心配だな。」
義達は愉快そうに笑った。
「だがまあ、そなたの身内なら、相手を見つけきれぬ方が悪い。
一年や二年、遅れたところで縁が逃げるほどの器ではあるまい。」
佐久間は複雑な顔で肩を落とした。
「励ましとして受け取っておきます……。」
丹羽は隣で静かに笑いを堪えている。
義達は改めて二人を見つめ、声を落とした。
「……上洛は始まりだ。
斯波家にとっても、尾張にとっても。
お主たちは、わしの目であり耳である。
京での一年、決して無駄にはせぬ。」
佐久間も丹羽も、姿勢を正して深く頭を下げた。
「御意。」
書院に差し込む朝光の中、
三人の影が重なり、
これから始まる新たな“京の章”の幕開けを静かに告げていた。




