京からの書状
大和守と藤左衛門が下がったのち、義達は改めて命じた。
「――因幡守、弾正忠を呼べ。」
控えていた供の者がすぐに走り去り、
やがて足音が二つ、書院の前で止まる。
「義達様、お呼びと承り参上仕りました。」
武骨な顔つきの因幡守が、太い声で挨拶をする。
その脇には、鋭い眼光を宿した弾正忠が静かに控えた。
義達は二人に座を促し、ただ一言置いた。
「――京兆家より上洛の依頼が来た。」
因幡守の眉がぴくりと動く。
「京の護り、でございますか。」
「左様。大内殿が帰国し、京は急に脆うなった。
細川高国が斯波に助力を求めてきた。」
弾正忠は腕を組んだまま低く言う。
「殿が上洛なされる、と。」
義達はゆっくり頷いた。
「そのつもりだ。今川との和議も成った。尾張の息もつける。
今こそ京へ斯波の名を通す好機よ。」
因幡守が前のめりになり、声音を低くした。
「御所の守りにつきましては、拙者が随行いたせばよろしきはず。
武辺の働きはお任せいただきたく。」
「そのつもりだ。」
義達は満足げに頷いた。
「お主は粗暴に見えながら、京での小競り合いには向いておる。
いざという時、躊躇なく刃を抜ける男が必要だ。」
因幡守は胸を張って頭を下げた。
「御意。」
続いて、義達は弾正忠へと視線を向けた。
「弾正忠。」
弾正忠は静かに膝を正した。
「尾張に残るお主には、二つの務めを任ずる。」
「承る。」
義達の声は静かだが、底に鋼があった。
「ひとつ、清洲を揺るがせるな。津島を押さえ、塩畑の城普請を早めよ。
美濃への牽制は怠るな。」
「それと上洛と在京の費えは任せる。」
弾正忠は深く頷いた。
「心得ております。うまく手綱を引きます。」
「うむ、頼んだ。」
義達は続けた。
「そして――大和守の娘とお主の息子を婚約させよ。
これで尾張の三つの柱が繋がる。
斯波家の基盤は揺らがぬ。」
弾正忠はわずかに瞠目し、すぐに深く頭を垂れた。
「……御意。
家のためならば、いかようにも。」
義達は二人を見渡し、静かに告げる。
「わしが京へ向かう間、尾張はお主らに預ける。
斯波家はまだ沈まぬ――沈ませぬ。
ゆえに、お主らの働きが肝要よ。」
因幡守と弾正忠は同時に額を畳につけた。
「ははっ――」
その声には、緊張と誇り、そして戦国の家を支える男たちの覚悟があった。
障子の外には、夕陽が赤く差し込み、
これから始まる“上洛”という新たな局面を静かに照らし出していた。




