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あなたに捧げる愛はもうありません。  作者: 神宮寺 あおい


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リカルドとの面会

 リカルドと会うことになったのはアルバートが経営するレストランの個室と決まった。


「あなたがレストラン経営までしていたなんて知らなかったわ」

「アルバート商会の信条は商売になるなら何でも、だからな。もちろん法に反することや倫理に反することはしないが」


 そんな軽口を叩くアルバートにエスコートされながら個室へと向かう。


「いくら元夫婦とはいえ、リカルド卿と二人きりにするわけにはいかないから俺とルドヴィック卿が同席するが、口は挟まないから安心してくれ」


 貴族社会の女性の立場はとにかく窮屈だ。未婚の令嬢であれば男性と個室で二人きりでいたらすぐに醜聞として広められてしまう。個室に二人でいても許されるのは親兄弟などの家族か婚約者、もしくは夫とだけだろう。

 もちろん、侍女や護衛を同席させれば二人きりにはならないのだが、あいにく今のミラベルには専属の侍女などいなかった。


「あなたには面倒ばかりかけているわ」

「俺が好きでやっていることだから気にすることはない」


 そうは言われても、ミラベルはアルバートの好意に未だ胡坐をかいている気がしてならなかった。


「……今日で決着をつけるんだろう?」

「ええ、そうね」


 アルバートにはあらかじめミラベルの決意を伝えていた。リカルドが何と言ってこようとも、今日で彼との縁を切ると。

 幼い頃から数えればリカルドとのつき合いはもう何年になるのか。マリエッタとも同様だ。しかし彼らとはもう道を違えたのだ。


 これからも今までのようにつき合っていくことはできない。


 そう決意を新たにしたミラベルの前に個室の扉が見えた。


 コンコン。

 ノックの音に中から応えがある。この声はルドヴィックだろう。


「失礼します」

 そう声をかけてアルバートが開いた扉をミラベルはくぐった。


 ガタンッ!

 マナーとしては行儀悪く、リカルドが椅子の音を立てながら席を立つ音が聞こえる。


「ミラベル! 今までどこにいたんだ! 心配したんだぞ」


 リカルドの顔にはいかにもミラベルのことを心配していたと書いてあった。以前であればそれほどまでに気にかけてくれたのかと思ったのだろうが、しかし今のミラベルの心に響くものは何もない。


 サッと室内を見回せばテーブルが一卓と椅子が四脚置かれている。先に手配してあったのかテーブルの上にはティーセットとお茶菓子が載せられ、注文をするために店員を呼ぶ必要が無いようになっていた。


 入り口から向かって右側にリカルドが、左側にルドヴィックが腰掛けている。ミラベルは促されるままリカルドの正面の椅子に座りその隣にアルバートが腰を下ろした。


「私たちは離婚したのだからあなたに居所を知らせる必要はないと思うけど?」

「……え?」


 自分が心配すれば喜ぶとでも思っていたのだろうか。それともリカルドの言葉にミラベルが喜ぶのを当たり前だと思っていたのか。

 今までと比べて明らかに素っ気ない返事にリカルドが戸惑ったような表情を浮かべた。


「何かおかしなことを言った? 私たちはすでに何の関係もなくなった他人でしょう」

「他人だなんて……たとえ離婚したとしても俺たちは幼馴染じゃないか」


 ある意味リカルドの中では妻であっても幼馴染であってもミラベルの立場は変わらないのだろう。書類上の肩書きが変わっただけで、彼が今までミラベルに取ってきた態度は結婚の前も後も同じだったのだから。

 だからこそ離婚することも重要に考えていなかったに違いない。


「たしかに私たちは幼馴染だったけれど、ずっと同じように親しくできるとは限らないのよ。だから今日みたいに会いたいと言われても困るわ」

「そんな……」


 愕然として言葉に詰まるリカルドを見つめながら、ミラベルは自分の心が以前のように揺れ動くことがないのを感じていた。今までどれだけ頑張っても捨てることのできなかった初恋と、これでやっとお別れができる。


「そうだ! ミラベルは拗ねているだけだろう? 突然追い出す形になって悪かった。反省するから、戻ってきてくれないか?」


 普通に考えればあり得ないと思うようなことをリカルドが言った。そしてその言葉を聞いた途端、ミラベルの隣に座っているアルバートから不穏な空気が醸し出される。対面にいるリカルドは気づいていないようだったが、その空気に驚いたミラベルは咄嗟にテーブルの下でアルバートの手を握った。


「……!」


 不意の接触にアルバートがまとう不穏な気配が霧散する。と、同時にミラベルも自分がアルバートの手を握っていることに気づいて動揺した。


(私はなぜアルバートの手を握ってしまったのかしら)


 そう心の中で自問しながらもミラベルはすぐに手を離し、若干慌てながらリカルドへ答えた。


「なぜ私が戻らないといけないの? マリエッタを迎え入れるから出ていってくれと言ったのはリカルドでしょう?」

「だから、それが間違っていたんだ。考えてみればマリエッタとミラベルも幼馴染なんだし、一緒に暮らしても問題ないだろう? それに家の中のことはやっぱりミラベルじゃないと難しいと思うんだ」


 リカルドの言葉に視界の端に映るルドヴィックが渋面を浮かべる。今この場にいる者たちの中でリカルドだけが彼の言っていることのおかしさに気づいていなかった。


「これからマリエッタと結婚するんでしょう? それなら当然家の中のことはマリエッタに担ってもらうべきよ」

「いや、それは……」

「……それは?」

「その……マリエッタでは無理だと思って……。それに、マリエッタと結婚するとは決まっていない」


(え? マリエッタとの結婚が決まっていないですって?)


 リカルドの言葉にミラベルは驚きに目を見開いた。


「どういうこと?」

「マリエッタのことはもちろん大事に思っている。でも……その……夫婦としてやっていくのは違うんじゃないかと思って……」


 リカルドの言葉にミラベルは呆れた思いが心の中に広がっていくのを感じた。

 そして『自分のことを一番に考える者同士では上手くいかない』と言ったルドヴィックの言葉が頭の中に響く。


 だから、ここではっきり伝えておく必要があると思った。


 リカルドとの、決別の言葉を。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
いつの時代もアホ男へ言われることは変わらないんかもね! 「嫁は家政婦じゃない」
離婚した元妻に家の中の仕事をやらせようとするとか、恥という概念を母親のお腹の中に忘れてきたの?
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