22 フラグ?
「祖父母共に平民だったが、祖父も父も騎士爵を得ていた」
騎士爵は、基本は一代限りの爵位だ。カイルスさんのお祖父さんもお父さんも、立派な騎士なんだろう。勿論、竜騎士のカイルスさんも騎士爵を得ている。
「彼女とは、特に問題もなく穏やかに過ごせていたと思っていた。でも、学生生活が始まってから、彼女の態度がよそよそしいものになっていったんだ」
竜王国では、13歳から17歳迄の4年間の義務教育がある。特に問題がある場合は別として、貴族平民問わず、最低でも2年は学校に通わなければならない。平民に関しては無料で受け入れられる為、竜王国の平民は他国よりも教養が高いと言われている。
学校のクラス分けも、身分は関係無く実力順で、実力があれば高位貴族の子息令嬢の目に留まり、卒業後の進路にも影響を与えたりもする。だから、竜王国は平民でもそれなりの地位を得ている人が多かったりもする。
「彼女は成績優秀で俺は普通だったから、彼女とはクラスが違っていてね。彼女のクラスには、それなりの貴族の子息が居たから……しかも、彼女の見目がアレだから…」
ジャスミーヌさんは綺麗な上に白竜だ。しかも優秀となれば──
『婚約を解消したいの』
そう言われたのが、学校を卒業する半年前。
『ヴィクター様との子を授かったの』
“ヴィクター=ハイエット”
ハイエット公爵家の嫡男だった。
「まさか、彼女が他の男とそう言う仲になっていたなんて、全く知らなかったんだ。しかも、入学して半年も経たないうちから」
「半年!?」
ー早過ぎない!?ー
しかも、公爵家嫡男と平民女性だから、簡単に事が進む筈は───
「あ……白竜だから?」
「そうだ。竜人にとって、黒竜の次に貴いとされる白竜だから、身分なんて問題にはならないどころか、歓迎される立場なんだ。それに、西の守護竜が不在だったから、彼女こそがその守護竜なのでは?とも言われていた」
西の守護竜は白竜と決まってはいるが、白竜だから守護竜ではない。側衛に選ばれなければならない。そして、その側衛が主を違える事は無い。
「公爵家の子息との子を授かったと言われれば、騎士爵でしかない祖父や父が拒否できる訳もない。直ぐに婚約が解消されて、彼女は卒業後直ぐに結婚して子を生んだ」
それから暫くすると、ヴィクターさんが爵位を引き継ぎ、ヴィクターさんが公爵、ジャスミーヌさんは公爵夫人となった。
「それからも、祖父が俺の為に婚約者を決めようとしていたが、俺はそれを断り続けた。他人に振り回されるのが嫌だった。そんな思いもあって、もう誰にも振り回される事がないように、竜騎士になろうと思ったんだ」
学校を卒業した後、直ぐに竜騎士団の入団試験を受けて竜騎士となったカイルスさん。竜騎士ともなれば、色んな貴族と接触する事も多くなり、そこで色々と知る事もあったそうだ。
『もともと、祖父に言われただけの婚約であって、カイルス様に想いなどなかった』
『何の面白味も無い男性だ』
『白竜の私が、何故鳥獣人と結婚しなければいけないのか?』
「俺も、彼女に対して恋愛感情なんて無かったが、普通に上手くやっていけると思っていた。でも、彼女は違っていたらしい。そんな事に、俺は全く気付かずに………情けない限りだろう?」
どう見ても、ジャスミーヌさんが悪い。お互いに良ければ─と言われていたのだから、嫌なら嫌だと言えば良かったんだから。婚約者が居ながらの浮気も、婚約者が居ると知ってて手を出す男も有り得ない。でも、その男─ヴィクターさんは、数年前に病死し、ジャスミーヌさんが女公爵となったそうだ。何故、2人の子が公爵を引き継がなかったのか?2人の子は女の子で、普通の赤竜だったから。そんな普通の竜よりも、白竜であるジャスミーヌさんが引き継いだ方が良いから──だったそうだ。
「そんな俺に、また近付いて来る理由はただ一つ。俺が竜騎士になって、更に西の守護竜の近衛になったからだろうな」
“カイルス=サリアス”ではなく、“西の守護竜の近衛”に近付いて来たと言う事なんだろう。でも、それだけじゃない可能性もある。2人は美男美女で、並んだ姿はお似合いだった。今の所、カイルスさんがジャスミーヌさんに恋愛感情を抱いていないのは確かだけど、これからどうなるかは分からない。
「これ以上、俺に絡んで来ない事を祈っている」
ーそれ、フラグではないだろうか?ー
あのタイプの女性が、あのまま黙って引き下がるかなぁ?引き下がってくれる気がしない。靡かなかったカイルスさんに執着して来る未来しか見えないのは……私だけじゃない。目の前のカイルスさんも、『祈る』と言いながら微妙な顔をしている。
「そうですね……このまま、平和に過ごせれば良いですね」
そんな訳……ないよね?




