21 元婚約者
ジャスミーヌ=ハイエットさんの白竜は、とても綺麗だった。人の姿でも綺麗だ。そんな人が、カイルスさんの元婚約者。
ー私とは何もかもが違うー
「ジェナ、貴方も子供ではないのだから、今から1人でも大丈夫よね?カイルス様と話がしたいから、貴方は遠慮してくれるかしら?」
綺麗な微笑みだし、物言いは優しいけど、平民を見下しているのは明らかだ。お貴族様のあるあるだ。これが普通の世界だ。公爵様にそんな事を言われれば、下の者が逆らったり反抗する事はできない。
『私は守護竜で、カイルスさんは私の近衛だから嫌です』
と言えば、公爵であっても守護竜には反抗できない。でも、今はお忍びのプライベートで来ているから、権力を振りかざす事はしたくない。
「それじゃあ、カイルス様……」
「権力を盾にするのは嫌なんですが、ハイエット公爵が盾にするのなら仕方ありませんね。私は守護竜様の近衛騎士です。私が従うのは守護竜でる白竜マシロ様だけです。例え、貴方が公爵であろうとも、私が貴方に従う必要はありません。もし、それが気に食わないのであれば、直接西の離宮に苦情を申し立てて下さって構いません」
「なっ……」
「ジェナ、行こう」
「でも……はい………」
大丈夫かな?と思いながらも、キッパリと断ってくれた事が嬉しくて、また手を繋いで歩き出した。
「あの……大丈夫ですか?まぁ……何か言って来たとしても、何とかなるとは思うけど…」
相手が公爵だろうと、私は守護竜だし、何と言っても聖女由茉が居るから。
ーお母さんは、最終手段だけどー
「大丈夫だ。ハイエット公爵が俺に苦情を申し立てて来る事はない。プライドが高いから、自らフラレたからと騒ぎ立てる事はしないだろう。取り敢えず、先に食べよう」
「そうですね」
あれからやって来たのは、今日のお出かけの目的のお店だ。店内飲食のみの販売のスイーツ。生クリームチーズケーキだった。トッピングにレモンのアイスが付いている。生クリームチーズが熱で溶けやすいから、持って帰るには難しいから、店内飲食のみの販売になっているそうだ。
「確かに、口の中に入れるとすぐに溶ける!美味しい!」
「良かった………くくっ………」
今の自分の顔が、だらしなくへにょっているのは分かっている。そんな私の顔を見て、カイルスさんが堪え切れずに笑みをこぼした。
「本当に、ジェナは甘い物を食べている時が一番可愛いな」
「んぐ─────っ」
思いがけ無い言葉に、思わずケーキを吹き出しそうになるのを、何とか飲み込んだ。
ー食べている時に爆弾を投下しないで欲しいー
「可愛いは別として、甘い物を食べている時は、幸せです!」
「ジェナと可愛いを別にするのは無理だな。俺の目には、どうしたってジェナが一番可愛らしく見えるから」
「へあ?」
「………その声は、どこから出ているんだ?はははっ」
「誰のせいで───っ!!」
生クリームチーズケーキよりも、カイルスさんが甘い!甘過ぎる!これは……少しは期待してしまっても良い……のかな?
「何の後ろめたい事も、隠す必要も無いから、ジェナには話しておきたいと思っているんだけど……ハイエット公爵との話を、聞いてくれるか?」
「カイルスさんが、本当に話したいと言うなら……」
気にならない──と言えば嘘になる。カイルスさんの年齢を考えると、過去に恋人も居ただろうし、婚約者が居たとしても不思議じゃない。婚約者が居たからと、嫌いになる訳でもない。
「彼女は、祖父同士が決めた婚約者だったんだ」
カイルスさんの祖父が竜人で、その妻である祖母は獣人だった。そんな2人の間に生まれた子─カイルスさんの父親は獣人で、その父親の妻も獣人だったけど、カイルスさんは、竜人の祖父の血を濃く受け継いだそうで、獣人でありながら、竜人並の力があったそうだ。
「見た目の成長も、竜人並の緩やかさだった」
獣人の子供の成長は比較的に早い。でも、竜人は長寿が故に子供の成長は比較的に緩やかなんだそうだ。人間は寿命が短いから、この3種族の中にでは一番成長が早い。
「竜人の血を引いて長寿となった俺を心配した祖父が、親友だった竜人と相談して、その友人の孫娘と俺との婚約を交わしたんだ」
カイルスさんには、お姉さんも居るそうだけど、そのお姉さんも両親と同じ獣人で、人間よりも長寿と言ったところで、10年から20年ぐらいの差だ。竜人ともなれば100単位で違って来る。そうなると、カイルスさんは独りぼっちになる───と、心配になったんだろう。
「勿論、当人同士が嫌がれば婚約を交わさないと言われてたけど、まぁ……お互い初めて会った時の印象は良かったし、嫌ではなかったから、そのまま婚約を交わしたんだ」
きっと、お祖父さんはホッと安心しただろう──と思う反面、胸が少しだけ痛くなった。




