第五十一話
その女官が見た場所を詳しく聞きたいと気がせいていたが、ここで下手を打つわけにはいかない。そっと後押しをするような相槌で、周りを巻き込んで聞き返した。
「奇妙って?ねえ。みんなもそんなところで見たの?」
「違うわよ。私だけよ。内緒にしようかと思ってたんだけどさ。」
リュートを見かけたというその女官は、商人の娘で、別に働かなくても良いが、王宮に出会いを求めてやってきていた娘だった。少し明るい茶色の髪と瞳をしていて、まあまあ男性うけしそうな雰囲気だ。
「アネット。あんた。また、逢引してたんでしょ?」
「え~。ち、違うわよ。」
「嘘つきなさい!!それならその奇妙な場所ってどこよ。」
「北門の竜門に続く…。」
「な、なんですって!!あれだけ言い含めたのにまだ懲りずにそんなとこで。次に見つかったら兵士に殺されるわよ!!」
「殺されるわけないわよだって…。」
「はっ!もしかして門番の兵士と!!」
アネットは、ぺろりと舌を出して悪気もなく笑って見せた。『この子…。使えそうだな。きっと他にも情報を持っているはず。』新入り女官は、アネットを味方に引き込むことを念頭に入れて、質問した。
「あの~。竜門って?怖いとこなんですか?」
ほかの女官たちが話そうとする前に、アネットが自慢げに話し始めた。
竜門は、古くから閉ざされた門で、扉を開けるためには、大司祭の持つ大鉈の杖が要なことや、その門が開いたのは、もう三〇〇年以上も前である事など『まるで、お伽噺よね?』などと言いながら話し続けた。
この話は、いろいろ、説があって、平民が知っている範囲と王族だけに伝わる話もあるとも話すのだった。
「だからね。ちょっと興味本位で~。門番さんに近づいたってわけ。門番さんもさ~暇でしょ?誰も来るわけない門の前にずっと、交代兵士が来るまで立つのよ?だから、私が話し相手にってね。」
ほかの女官たちは、あきれ顔でアネットの顔を見て言い放った。
「いい加減にしときなさい。こないだも西門の兵士を誘惑してお灸を据えられたばかりでしょ?あんた、本当に死んじゃうわよ?」
「大丈夫だって。今度は、上手くやるから…。」
アネットは、平然と返してからその目撃情報を話すから許してくれと言うのだった。
「貴賓室のお客様は、遠くからでも本当にきれいだったわよ。背がすらっと高くて、細身だけど肩幅もあって、本当に素敵だったわ。声が聞けなかったのは残念だったけど、きっと素敵な声に違いない…。そう思わせるような感じ。」
「それで、それで?そんな辺鄙なところに何しにいらしたのかしらね?」
新しい女官は、目を輝かせて、アネットに聞くのだった。アネットも嬉しそうに更に話を続けた。
「その方は、門番と少し話し込んだ後、すぐに立ち去ったんだけど…。私、その方の後をついて行って見たのよ。そしたらなんと、いきなり消えたの。もう、本当にびっくりしたんだから!!魔法でも使ったのかと思ったわ。この国では、魔法使いは、もう存在していないでしょ?以前は、いたとかって、聞いたことあるけどさ…。まさか、他国の皇子様が魔法使いだなんて思う?」
「まあ、普通は、思わないわよね。アネット。あんた、妖狐?にでも騙されたんじゃないの?いまだにそういうのはいるって言われてるし…。他国の皇子様もその妖狐が化けてたんじゃないの…?」
「そうそう。あーあー聞くんじゃなかった。損したわ。」
新入りの女官以外は、馬鹿馬鹿しいと言いながら、その場から散り始めるのだった。
「嘘じゃないのに…。」
「ねえ。私は、興味出てきちゃった。アネットさん。今度、その消えた場所に連れて行ってくれない?」
「ふふふ。良いわよ~。あんた、何て名前?」
「ランよ。」
「わかった。また暇番の時にね。」
新入り女官は、コクリと頷いて、その場を後にするのだった。




