58 後片付け
お風呂に入った後、部屋で俺はデータを全て別の媒体にコピーをして、本体を壊した。
そして、絵梨に電話する。
絵梨は3コールで電話に出た。
「海斗さん、どうしました」
電話だと話し方が森下そっくりだった。
「1つだけお願いしたいことがあるんだ、手伝ってくれるかな」
なるべく冷静に、落ち着いて絵梨に言った。
「…何を、そしてなぜ手伝う必要があるのですか」
何も言う前から絵梨は突っ込んできた。
俺は絵梨の前のめりな姿に反応しないようにし、落ち着いて話した。
「見ていて思ったでしょ。秘書の中には話を誘導するような人もいるんだって。ただ絵梨さんは見る目がある。中村さんについていけば問題ない。」
俺は木下の話を名前を出さずに比喩した。
「何も答えになっていませんけど…誘導する人には気をつけろということですか?」
絵梨は言っている意味がわからないと言いながら、俺の言いたいことをくみ取ろうとした。
「そう、絵梨さんの感覚は鋭いね。自分の心地よい空間にするためには、大きく2つあるんだ。一つ目は絵梨さんが言う通り、気を付けるつまり避けるという方法だ。もう一つはね、そもそもその問題となるものを除く、という方法もある。つまり権力者である父にね除いてもらうということだ。」
あの中で生きていくための、手段を絵梨に伝えた。
今日、本来であれば、俺は中村さんにあの場で木下に辞めるように提案し、絵梨を代わりに秘書にしてほしいと父は言ってほしいと思っていたはずだ。だから木下は察して、それは俺がここにやってくることが前提であるのかどうかを俺に聞いた可能性もある。
それをせずに絵梨を秘書にする話だけしたので、父も中村さんも困惑しているに違いない。
その上に資料がなくなったら、森下があの時の状況や事情を関係者に聞くに決まっている。
そう、狙いはそこだ。
資料を木下が紛失すれば父は対応せざる負えなくなる。
俺や絵梨が、例え、それを仕組んでいたとしても…だ。
それが父があの場を仕切る議員であり、第1側近である娘の権力なのだ。
この壊したハードディスクと資料を絵梨からあの場にあったと証言してもらい、木下の指紋しか残っていないケースをもってして、全て木下の問題となる。
木下は何があってもあのケースを手から離してはいけなかった。
あの場で中に入っていることすら確認しなかった彼の落ち度だ。
「とあることをやった人の証拠を持っていってほしいんだ。それを持っていけば全ては進むから。でも、俺が証拠を渡したことと、その方法を教えた、ということは内緒にしてほしい、いいかな」
俺は依頼事項を伝えた。
これだけでは絵梨は動かないかもしれないと俺は付け加えた。
「もちろん、これは交渉だ。これから君が困った時にはそして内部から破壊したいと思った時には俺も君の相談にのる、どうかな?」
電話の向こうで絵梨は少し考えているようだ。
しばらくして、やっと返ってきた。
「そうですね、そういうことであれば。あの中の話にこれからも時々、付き合ってくれるのであれば私としてもありがたいです」
俺は絵梨にいつどのように受け渡するのか、その方法を伝えて電話を切った。
そして次に先ほど着信のあった森下に電話をかけた。
森下は電話に出なかった。
俺は携帯を部屋のベット脇にあるテーブルに置いた。
ふと横にハードディスクとともに、ケースに入っていた資料が目に入った。
マスタデータが入っているハードディスクの方ばかりに集中し、他に資料があることをすっかり忘れていた。
俺はその資料(A4の封筒)を開けた。
中には手紙のような封筒ものが入っていた。
封筒の表面の宛先を見ると、「蒼真さん」と書かれている。
裏を見ると、そこには…母の名前が書いてあった。
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