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第42話 戦う前のひと時

 森から少し離れた位置に立ち並ぶ8体のリザードマン。

 映画のゾンビじみた様子と異なり、その佇まいはしっかりとしたものだった。


「それではイチロー様。これから森の中を様子見してきます。さあ兄弟たち、行ってきてくれ」


 蠱島ことうの指示で、リザードマンたちが森へ向けて走っていく。

 その動きは1階層を徘徊するリザードマンと遜色なかった。


「普通に走れるんだな」


 あの状態でこれだけ動けるとは思わなかった。


「肉体の支配権は既に寄生菌の菌糸とカビで獲得済みですからね。あれぐらいなんでもありません」


 暗い森へと侵入していく蠱島ことう生物たち。


 蠱島ことう生物の体を支配する菌類は、蠱島ことうの一部から派生したことだけあり、蠱島ことう生物の数を幾ら増やしても操作可能らしい。


 同じ菌類操作スキル持ちの奴がいても、人間の脳では8体も寄生元の肉体を操作できないはずだ。

 意思を持つ菌類である人間じゃない蠱島ことうだからこそ可能な芸当だった。


 イヌが蠱島ことうに対して疑問を口にする。


「あれ? 蠱島ことうさんは行かないんですか?」


「僕自身は弱いですからね。今のこの体だとリザードマン1体にすら勝てませんよ」


「なるほど、そうなんですか。でしたら、あの蠱島ことう生物たちはどれくらい強いんですか?」


 イヌの疑問はもっともだった。

 危ない薬をやっちゃった後みたいな顔に、菌糸と黒カビがこびりついた体。

 背格好や武装は同じでそれなりに動けるみたいだが、あの状態でちゃんと戦えるのだろうか。


「あの兄弟たちは成りたてですから見た目通りの強さしかないですよ。それに私の兄弟になったら元々あったスキルは使えませんしね」


「なるほど。つまり肉盾として扱えばいいんですね」


「こら、イヌ。言い方ってもんがあるだろ」


「ですがマスターもそう考えたのではありませんか?」


「……そんなことないよ」


 本音としては、元がモンスターだから使い倒す気満々である。

 だけど蠱島ことう生物に対して、兄弟と呼ぶ蠱島ことうの前で、そんなことを言うのは憚られた。

 私はTPOを少しだけわきまえている大人だからね。


「気を遣っていただかなくても構いませんよ。減った分の兄弟は、また増やせばいいだけですし。それに長い付き合いの兄弟たちなら、それなりの働きをお見せできますよ」


 どうやら兄弟になった時間が長い奴ほど体を弄りまわされているらしい。

 詳しく聞いてみると、肉体の大部分を菌類で補完・代替して多少の損傷も気にせず行動できるそうだ。

 更に菌類と肉体の適合率が上がると、脳のリミッターを外して身体強化したり、筋繊維や神経と融合して肉体改造を行っている兄弟もいるらしい。


「今回はその兄弟たちは出さないのかい?」


「様子見が目的ですから短い付き合いの兄弟たちに頑張ってもらいます。僕たちが本領を発揮するのは相手と接触した時ですからね。敵の強さとかあまり関係ありませんよ」


 私の問いに朗らかな様子で答える蠱島ことう

 敵に勝つのではなく、敵を取り込むことで生きてきた蠱島ことうらしい答えだった。


 ゾンビ映画のゾンビは噛むことでゾンビ仲間を増やすが、蠱島ことう生物は接触するだけでアウトだ。

 蠱島ことう生物の体表面にある菌糸やカビに触れると、菌類操作スキルで寄生菌を相手に潜ませて肉体の支配権を奪ってしまう。


 とはいえ蠱島ことうにも弱点はある。

 距離を取られた戦いだと菌類による敵の肉体を奪う手段が取れないし、体に接触する暇もなく倒されたら意味がない。

 初見殺しの菌類操作スキルによる肉体支配だが、タネが分かれば対策はいくらでも立てられる。


 だが今回の森への侵入はその心配をする必要ないみたいだった。


「ところで森の中の様子はどうなっているのでありますか?」


 蠱島ことうと同時期に召喚された自爆機能付き自動人形。

 製造番号L-017――ロイナと名付けたユニットが、蠱島ことうの隣に並んで質問する。


 菌類操作スキルでリザードマンたちの脳内にいる菌類と繋がっているおかげで、蠱島ことうは遠隔地の蠱島ことう生物が見聞きした情報をダイレクトに得ることができる。

 これもまた操作する菌類が、蠱島ことうから派生した物だからこそ出来る芸当だ。


「外より周囲の目視確認が大変ですね。背の高い木々から伸びた枝葉が、月と星明りをほとんど遮ってるせいでしょう。見通しも足場も墓場より悪いですから、移動や戦闘をする時は注意すべきだと思います」


 2階層はいくら時間経過しても夜のままだ。

 墓場は遮蔽物が少なく見通しが良かったし、星と月明りのおかげで探索する上での支障は少なかった。

 だが暗い森は、その明かりすらあまり差し込まないようだ。

 薄暗い視界に慣れた私たちでも、自前で光源を用意しないと森の中に入るのは危険かな。


「くっくっく、完全なる闇の世界か。だが、我が魔眼には数多の邪気が見えるわ!」


 カルシファーが自信満々な様子で決めポーズをとる。


「それでお嬢の目には具体的に幾つの邪気が見えるんでやすか?」


「……いっぱい、かな?」


「……」


「くっ、邪気が重なり合って詳しい数が分からないだけだから! 我、悪くないもん!!」


 言わなきゃ良かったと羞恥するカルシファー。

 そんな彼女を慰める様に猿山脈の歩兵と、知り合ったばかりの弓兵たちがドンマイと背中を叩いてくれる。


 猿に慰められる娘の姿に内心涙を禁じ得なかったが、私はカルシファーの先ほどの発言が気になって思考を切り替えた。


 危険なものほど赤く見える邪気眼スキル持ちのカルシファーが、数が確認できないほどに森の中は危険だらけってことだ。


「イチロー様。よく考えたら森の中で馬が走るのは危ないと思うのです。ですから私はここで待機――ではなく、乙女たちと共に後方支援に努めようと思うのですがいかがでしょうか?」


 ユニが呆れるような提案をする。

 カルシファーの発言から森の危険性に気づいて日和ったみたいだ。

 ついでに処女信仰も満たそうとするあたり、ほんといい性格をしていると感心する。


「ユニ、正直者。けど欲望、正直すぎ、駄目な奴。(苦笑)」


 火鼠かそが、やれやれと言った感じで首を振る。

 というか(苦笑)の言葉をどこで覚えたんだ。

 たぶんだけど火鼠かそが元居た世界で覚えた言葉じゃないと思う。

 誰かが教えたのではないか。


 そう思っていると火鼠かその背後に、羞恥発言からもう立ち直ったカルシファーがドヤ顔で立っていた。

 問いたださないけど誰かの正体が分かった気がした。

 まあ、なんだ。

 私の娘ってばメンタル強いなあ。


「うーん。誰か森での戦闘経験とかしたことあるか――」


 班のメンバーに森での探索の仕方を相談しようとした時。


「あっ、敵に襲われました」


 この蠱島ことうの言葉に反応して瞬時に班員の空気が変わった。

 それぞれが私の周囲を固めて森を注視しつつ周囲の警戒を密にする。

 私に隠れて練習でもしてたのか動きは固いが、誰もが足取りを乱さずにあらかじめ決めていただろう配置に着いた。


蠱島ことう殿。敵の数と姿は見ましたかな?」


 ゴリ将が森に一番近い位置で油断なく立ち、蠱島ことうから敵の情報を得ようとする。


「イチロー様の予想通り多数の恐竜モンスターが協力して襲ってきました。茂みからの奇襲で兄弟が1体。その後、すぐに左右から同時に襲われて2体やられました。応戦中ですが押され気味です。既に何体かの敵には寄生済みですから、肉体の支配権を奪って兄弟を増やしてもよろしいでしょうか?」


 話を聞いたゴリ将が私に顔を向ける。

 決定権は私にあるからそのお伺いってわけだ。


「うーん。生きた恐竜の姿をこの目で見てみたい気持ちもあるし、蠱島ことうは敵をこの場所まで引き連れて逃げてくれ」


「イチロー様は恐竜を見てみたいのですね。それでしたらもう少し森をうろついて、より多くの恐竜をお見せしましょう」


「それはいい考えだけど……ゴリ将たちは大丈夫かな?」


 試すような感じでゴリ将たちに問いかける。

 ここに来る恐竜モンスターたちは、私たちにターゲットを移してその勢いのまま襲ってくるだろう。

 モンスタートレインされたその集団をこちらの被害なく倒せるかな。


「お任せを。主殿に近づく暇も与えず全滅させてみせましょう」


 班員を代表して答えたゴリ将に続いて他の皆も自信がある様子だった。

 これだけ堂々と言い張るのだ。

 私は彼らに戦闘を任せて高みの見物をさせてもらうとしよう。


 それから30分ほど経つと、森の外縁部が騒がしくなってきた。

 蠱島ことうにモンスタートレインを任せた結果のお披露目だ。


 獣の甲高い遠吠えとは違う、重低音の腹に響く鳴き声は轟く。

 木々が揺れて、時にはなぎ倒されながら森の奥から幾つもの足音がここまで聞こえてきた。

 どうやら蠱島ことう生物という名の釣り餌に、多くの恐竜モンスターが釣れたようだ。


 すぐに森から1体のラプトルが逃げてきた。

 そのラプトルの体表面には、蠱島ことう生物となったリザードマン同様の黒と白の菌類が広がっていた。

 リザードマンたちは全滅したみたいだが、ラプトルの体を奪って逃げて来たのか。


 そう判断してすぐだった。

 蠱島ことう生物のラプトルの後ろから、恐竜モンスターたちが雪崩の如き勢いで飛び出てきた。

 ラプトルやティラノサウルスといった墓場でアンデッドモンスターと化していた恐竜モンスターや、有名どころの恐竜やぱっと名前が思い出せないようなのまで揃っている。

 

「まさかチュートリアルダンジョンで生きた恐竜を見れるとはなあ」


 結構うろ覚えだが孤児時代に恐竜図鑑で見たのや、映画で見た恐竜の動く姿に軽く感動を覚えた。

 やはり墓場のアンデッドモンスターとなった恐竜とは迫力が違う。


「それでは開始の合図はロイナがするであります」


 自動人形のロイナはそう言うと、複製機で複製して預けていた異空間バッグからアサルトライフルを取り出した。

 ロイナの戦力アップのために、ショップでスキルチケットとアサルトライフルと銃弾を購入しておいたのだ。


 恐竜モンスターたちが私たちを視認して吠え声を上げた。

 相当、苛立った様子である。


「装填済みの弾薬に生霊スキルで憑依――完了。射撃に演算処理を集中。オールグリーン。これから楽しい自爆祭りであります!」


 銃声と爆発音が森の外縁部に鳴り響く。

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