第43話 恐竜と己との戦い
恐竜の群れにばら撒くように撃たれたアサルトライフルの銃弾。
果たしてアサルトライフル1丁から発砲された銃弾のみで、モンスターである恐竜たちにダメージを与えれるのか。
恐竜の外皮に弾かれる銃弾の甲高い音が、その答えを教えてくれた。
「汚い鐘の音みたいですね」
「あの恐竜たちは全身に装甲板でも覆っているのか……」
見た目は恐竜そっくりだが、肉体スペックかスキルの影響なのか大型恐竜モンスターには攻撃が効いた様子はなかった。
中型の恐竜モンスター相手なら小さな怪我と怯ませる効果が見込めるかもしれない。
アサルトライフルの銃撃を何十発か当てれば、ラプトルなどの小型恐竜を倒せるといったレベルだろうか。
森に生息する恐竜モンスターの防御力は、1階層のリザードマンの鱗以上の強度みたいだ。
恐竜の外皮は分厚くて硬い鋼板並みだと思った方がいいかもしれない。
とはいえ放たれた銃弾は、ロイナの生霊スキルの力が込められた特別製だ。
ショップでロイナに買い与えた生霊スキル。
このスキルによって生み出された生霊はもう1人の自分として動いてくれる。
物体を透過して浮遊する霊体なので物理攻撃が効かず索敵に役立ち、生霊はスキル使用者が所持している他のスキルを扱うことまで出来る。他にも敵に憑りつくことで弱体化を狙えるし、剣や盾といった無機物に憑りついて生霊自身が浮遊操作して戦闘に加わることも可能だ。
これだけ聞くと便利なスキルに思えるが幾つかデメリットがある。
生霊はもう1人の自分なので、スキル使用者の意図した動きをするわけじゃないのだ。切り離されたもう1人の自分の意志の統制が取れず、自分勝手に動く生霊に手を焼いたと、愚痴交じりに掲示板で書かれていた。
しかも生霊が扱うスキルの効果は半減されるし、スキル使用者は生霊を出している時間が長いほど弱体化するのだ。
ただし自爆機能付き自動人形として使い捨てられる事を前提に造られたロイナにとっては、これ以上に無いほど相性の良いスキルだった。
ロイナとその生霊は、主である私の為に自爆することになんら躊躇することなくその役割を果たす。
ここに来るまでにロイナの生霊スキルはLv2に上がっている。
スキルレベルの数字と同数の生霊を生み出せるので、2発の銃弾に憑依した生霊は着弾と同時に自爆スキルを発動した。
放たれた銃弾の中に紛れた特別製の2発の銃弾。
ロイナの生霊が憑りついたそれらに命中した恐竜は、半径2mほどの小爆発に巻き込まれて骨肉を露出させるか吹き飛ばすほどのダメージを負った。
その内の1体の首の長い恐竜――正式名称は忘れた――は、その首に大きな風穴を開けて、隣の小型恐竜を巻き込んで崩れる様に倒れてしまった。
「脅威度を試算……判断完了。イチロー様。2点バーストで高い脅威度から順に確実に排除していこうと思うのですがよろしいでありますか?」
「うん、どんどんやっちゃおうか」
「了解であります!」
肉食恐竜と草食恐竜の混成集団は派手な銃撃による攻撃で足が一瞬だけ止まったが、すぐに立ち直って目を血走らせると私たちに向かって突進してきた。
先頭を走るのは灰褐色のトリケラトプスだ。
その体躯と頭部にある三本角の威容から、重戦車が突っ込んでくるとこんな感じなのか考えてしまう。
タタンッという2点バーストの発射音がした。
2連射された銃弾には共にロイナの生霊が憑依済みだ。
着弾と同時に小爆発が連続して起こる。
「ゴアァァア!?」
その効果は劇的だった。
2連続で起こった小爆発が、トリケラトプスの角を粉微塵にして顔ごと吹き飛ばした。
巨体がぐらりと横倒しになって後続の恐竜の障害となる。
ロイナは先に大型恐竜を優先的に狙い撃ち、その死体を足止め用の障害物にすることで後続集団の前後の並びにバラツキを作っていく。
これで歩みを遅らせることに成功したが、確実に恐竜の群れは近づきつつある。
ただしロイナ以外の遠距離攻撃の手段を持った者たちの射程圏内に近づいたことでもあった。
「くっくっく。ついに我が魔法領域に侵入したか」
「ウキ!」
カルシファーと猿山脈の魔歩兵たちの出番だ。
前に突出した足の速い恐竜から魔法攻撃を放ち、できるだけ多くの恐竜モンスターを排除……は厳しいので弓兵は急所を射って足止めし、魔法の集中攻撃で恐竜たちに痛手を負わせる。
こうしてロイナとカルシファーたちの活躍のおかげで、恐竜の群れの進行が更に遅れるのだった。
さて、そのロイナの顔には恍惚とした表情が浮かび、よく見れば小さく口を動かしていた。
怒りや痛みで上がる恐竜の鳴き声と足音。それに銃声と爆発音という喧騒の中で、堕犬娘の優れた聴覚でロイナの小声を聞き分けた。
「自爆、自爆、自爆……あぁ、良いであります。ロイナがどんどん消えていくでありますよ」
うん。召喚時の人間味の無さがすっかり払拭されてるな。
良い傾向だと思っとこう。
生霊スキルやアサルトライフルを渡す時に、こっそりロイナに洗脳催眠スキルを掛けておいて良かったな。
「おおう……流石マスター。自分が行った事に関して微塵も罪悪感を抱いてませんね」
ロイナの変化を喜ぶ私にイヌが感心してきた。
「おいおい、何言ってくれるんだ。私はなにも悪いことはしていないからね」
宴の最中の会話でロイナが召喚される前の世界の愚痴をこぼしていたのだ。
どうも自爆機能付き自動人形として製造されたのに、平和協定やらのせいで稼働されることなく廃棄処分されるところだったそうで、その時に本懐を遂げたいとう言葉を私はしっかりと聞いている。
「私はちょっとロイナの背中を押してやっただけだよ」
ただ一言、自爆好きになるよう言っただけだし。
ロイナの本懐がどういった内容かまでは聞けなかったけど、今の幸せそうな顔を見るとやってよかったと思うのだ。
私は遠い目をして爆殺されて数を減らす恐竜の群れを眺める。
おっと、そろそろ前列の恐竜たちと接敵しそうだな。
蠱島にモンスタートレインの中止を命令していないから、未だに大量の恐竜たちが続々と森から出てきているのだ。
森の外縁部が騒がしくて自分から近づいてくる恐竜もいるだろうし、これが入れ食い状態ってやつなのかな。
「もしヤバくなったら転移門の鍵束という逃走手段がある。やれるだけやって森中を騒がしくしてやれ」
そうすれば龍の成り損ないとリッチが呼んでいた強モンスターが出てくるかもしれない。
おそらくそのモンスターが、跳ね橋を下ろすのに必要な杯を持っているはずなのだ。
「あっ、でも森を燃やすのは駄目だからね。墓場と違って採取できる物がいっぱいありそうだからさ」
「ムゥ、残念」
私の言葉を聞いて火鼠がうな垂れる。
「恐竜同士で争ってる所もありますな。あれは仲間割れ……ではないようですな」
ゴリ将の視線の先を辿ると、たしかに何カ所か恐竜同士で争っている所があった。
「気づかれましたか。片方は私の兄弟ですよ。あの群れに混ざった兄弟たちが、足止めと兄弟づくりをしている最中です」
兄弟づくりってなんか卑猥な言い方だな。
いやまあ、間違った言い表し方じゃないんだけども。
襲われた側の恐竜が遠目からでもわかるぐらい、次第に菌糸とカビに体が侵食されているのだ。
もう少しすれば蠱島生物である蠱島の兄弟たちが増えることだろう。
「兄弟づくりですか。マスターも私と一緒にやってみませんか?」
「……」
素直にどうやってだよとツッコもうか迷った。
聞いたら具体的にどうするか言ってきそうだから聞かないけどね。
「おい、イヌっころ。お喋りする時間はもう終いじゃ。恐竜さんらがすぐそこまで来とるんじゃからのう」
お菊の言う通りだった。
お喋りをしている間に、10数体の恐竜モンスターたちが近づいていた。
「敵、いっぱい。カルシファー、火、ちょうだい」
火鼠がファイアロッドを所持しているカルシファーに火をねだった。
火炎を纏うほど攻撃力が上昇する火鼠が持つ炎上纏スキル。
アサルトライフルの銃撃の結果を考えれば、一定以上の攻撃力がないと恐竜モンスターにダメージを与えられないと思ったようだ。
「ふむ。吾輩とお菊殿。そして火鼠殿ならば攻撃が通るでしょうな」
恐竜の防御力を考えて、ゴリ将が近接戦闘の中でも攻撃力の高い面子を選ぶ。
言外に大将から近接戦闘チームへの加入拒否を受けて、騎兵たちががっくりしていた。
リスザルが四つん這いになって落ち込んだ様子を見せているので可愛いという感想しかなかった。
「そう落ち込むでない。騎兵たちには吾輩たちの戦闘の補助役をしてもらう。主殿、毒液ボールを使わせてもらってもよろしいですかな?」
「いいよ。いくらでもあげるよ」
暇なときに錬金してたが、使う機会が少なくて毒液ボールが余っている状態なのだ。
毒液ボールの酸毒なら恐竜の防御力を無視できるだろう。
「ウキー」
すんませんといった感じに後頭部をかきながら毒液ボールを受け取る騎兵たち。
作り置きしていた毒液ボールを入れた2つの異空間バッグを彼らに渡す。
異空間バッグを複製しといてよかったと過去の自分を内心褒めた。
その場その場の判断だが、前衛の戦闘配置はゴリ将、お菊、火鼠。そして猿山脈の騎兵たちと、現地調達した蠱島生物たち。
後衛は、遠距離攻撃組のロイナ、カルシファー、猿山脈の魔法兵と弓兵たち。回復係の私とイヌとユニ、後衛の守りと予備兵力として蠱島が配置することになった。
「そんじゃまあ、ウチから先に行かせてもらいやすね」
黒髪鬼となったお菊が力強い跳躍力で接敵する恐竜に向かっていく。
重く硬い髪を縦横無尽に操って複数の恐竜を相手にし始めた。
「敵、いっぱい、倒す!」
「それでは吾輩たちも行きますぞ」
ゴリ将と火鼠も走りだした。
火鼠の攻撃方法は単純だ。
馬鹿みたいに体当たりを敵が倒れるまでし続ける。
馬と同程度の大きさの火鼠がラプトルにぶち当たる。
まるで自動車事故でも起こったような光景を目にすることになった。
「吹っ飛んだな」
「吹っ飛びましたねぇ」
イヌが私の言葉を繰り返す感想を述べるがそれぐらいしかいう事がない。
火鼠よりも体格が大きい恐竜の横っ腹にも体当たりをして、物理的に倒していく。
攻撃力が上昇した状態の火鼠の体当たりは敵に強烈な衝撃を与えて内側から蝕む。
内臓か骨にダメージを食らったのか起き上がれずにもがき苦しむ恐竜。
逆に、その横ではお菊が全方位に髪を伸ばしてあらゆる方法で攻撃している。
黒髪針による急所からの串刺し攻撃。
ミサイルの如き大きさと重さを持たせた右腕拳の振り下ろし。
工夫した戦いに目を見張るものがあった。
騎兵たちはそうした戦闘で弱った相手を嗅ぎ分け、毒液ボールを投げて止めを刺していく。
10数体の恐竜モンスターはすぐにその数をお減らしていった。
「ウッホーー!!」
そんな中、ゴリ将は圧倒的な暴力で恐竜たちを蹂躙していた。
配下召喚スキルと大将の器スキルのコンボで、弓兵たちを配下召喚してからゴリ将たち猿軍団の戦闘力は上がった。
ゴリ将なんて攻撃力・防御力・素早さの全てのステータスが、召喚されたユニットの中で最高値に達している。
ゴリ将だけ無双ゲーをているみたいだった。
ティラノサウルスの顎を頭が引きちぎれる勢いで殴り飛ばし、両腕の鎖を絡めて捕まえた恐竜を鉄球投げみたいに投げ飛ばすのだ。
「あの様子だと、恐竜たちはここまでたどり着けないな」
「ええ、ゴリ将さんだけでも敵を全滅できそうです」
イヌもそう判断したようだ。
だが誰かが怪我や疲労で戦線を離脱する時があるだろう。
「まぁ、私たちは回復係だからね。……だからユニ。今の内にできるだけ生命の木を生やして林檎を収穫しとこうか」
戦いが始まってから自ら空気となっていたユニの背を軽く叩く。
「えっ!?」
「ユニは戦う前に後方支援がしたいって言っていただろ。大抵の怪我はイヌの再生スキルで治すし、疲労や状態異常はユニの林檎があれば問題ない。あれ? これって永久に戦い続けられるってことかな」
死なない事とあとは根性だけあればなんとかなるんじゃないか。
私はこの事実を知らない皆を想いつつ、皆なら共にやってくれると信じて徹底抗戦の気持ちをかためた。
「えぇぇ!?」
「生命の一角スキルを使うと負担があるのは分かるけど、これならユニも限界を超えてやれるよね」
ユニの背中をさすりながら耳元で優しく囁く。
イヌの再生スキルと生命の木の林檎があればどこまでもやれると――ユニのやる気を信じる。
他力本願ここに極まれり。
しかも勝手に方針決定しちゃった。
「皆さん戦いを頑張っています。一緒に頑張りましょうね、ユニさん」
戦場の後方。
その安全地帯で悲壮な覚悟をもって己との戦いに挑む白馬がいた。
そしてその横で応援する悪魔たちが居たと、後にカルシファーが語っていたとかいないとか。




