第39話 一気に増えるユニットたち
『若い蕾たちの密なる触れ合い。
絡みつく柔肌に震える双丘。
熱い吐息がお互いの口から漏れ出て、その肢体をカメラの前にさらけ出す。
獣耳の少女の体は獣欲に満たされ、幼さ残る淫らな少女の全てを蹂躙する。
艶美な世界が花開く。
咲いた蕾はもう戻らない』
「――という感じの百合テーマで撮ったつもりですが、どうですかね?」
イヌが念動カメラを巧みに操りながら馬鹿なことをのたまってきた。
急に下品なポエムを語り出すから、思考と性癖だけじゃなくて言語もイカれちゃたのかコイツと憐れんでたのだが、そんな事を考えていたのか。
「だから撮影してる時に抱き合えとか注文が多かったんだな」
「ええ。自分もいっぱしのカメラマンですからね!」
今さらだが呪いの装備品らしからぬ発言だ。
こいつはどこを目指しているのだろうか。
「ところで今の撮影で最後なんだよね?」
「はい。これだけの写真があれば大丈夫だと思います」
「だったらすぐにカルシファーを帰らせないとだね。そろそろ洗脳催眠スキルの効果時間が切れる頃だ」
洗脳催眠スキルの効果が持続する時間は1時間だ。
それ以上の時間が過ぎるようなら黒マナカードを使って延長していくしかない。
私はカルシファーがここに来てからの記憶を書き換えた。
その内容は、私の錬金術スキルでカルシファーの土魔法スキルの力が必要だったから部屋に呼び出した……というものだ。
これでカルシファー本人は、私の部屋で本当は何をやらされていたのか自覚も記憶もないわけだ。
それに後催眠暗示スキルで自撮り撮影に違和感なく参加するよう暗示をかけるので、次回の写真撮影会ではカードを浪費することなくカルシファーを使える。
ただし後催眠暗示スキルのトリガーは、相手の弱点部位に触れる事だ。
「本当にココが弱点なの?」
「はい。その通りです」
「……そっか」
「マスター。女同士なら問題になりませんよ」
イヌが堕犬娘の体で弱点部位に触ればいいと助言してくる。
洗脳催眠スキルに掛かった状態で聞いたカルシファーの弱点部位。
そこは彼女の女性的な部位だった。
一応、血の繋がりがある娘なので具体的にどこの部位とは言わないが、果たして親子同士かつ女同士でも気軽に触ってもいい所なのだろうか。
両親との触れ合いを経験したことのない私には分からないことだ。
まあ、もしもって時は洗脳催眠スキルで記憶を書き換えればいいかな。
「……こういう選択肢があるから催眠おじさんも屑になったのかな」
普通とは違うこの力のせいで理性や道徳の枷が崩れたのかもしれない。
この後、カルシファーを自分の部屋に帰らせた私は、おっぱいマウスパッドと複数枚の自撮り写真をオークションに出品待ち状態で出した。
コアパソコンは金属扉の小部屋から私の部屋に移動させてある。
マイルームの増築と改築の時に私の部屋も拡張しといたのだ。
出品待ち状態の商品は、24時間後にオークションが開始されるように予約しといた。
雑談掲示板などでゲリラ告知したので、いつの間にか立てらていた堕犬娘について語る掲示板は大盛り上がりだった。
堕犬娘は、初期から顔出ししているから掲示板内で広く知れ渡っている。
中身は男だけどファンと呼べるだけの知名度が定着しているのだ。
今回のオークションはカルシファーという初顔だしの美少女がいるし、おっぱいマウスパッドまで出品されているので話題性がある。
この反応なら相当なDPが見込めるだろう。
私は掲示板を閉じて宴の時間まで寝ることにした。
数時間後、イヌの目覚まし時計代わりの声で目覚めた私は食堂で宴の準備をしていた。
前回の宴は鍋パーティーだったので、今回は焼肉パーティーにした。
以前購入していたカセットコンロに新たに購入した焼き肉プレートをセットする。メンバーが増えたのでカセットコンロは追加購入しといた。
だから焼肉パーティーは複数の卓を各自が囲んで食事する形式となる。
食堂の前の方に置いた長机に、大皿に載った各種食材を盛って並べていく。
宴の準備を始めた私を見て、ゴリ将たちが手伝いを買って出てくれたのでお願いした。
鍋パーティーの時は安物の肉や野菜だったが、懐に余裕があった今回は日本にいた頃でも高くて食べた事のない高級牛肉などを買いそろえていた。
珍しい物だと、オーク肉や下位竜種の肉といったファンタジーチックな食肉なども用意してある。
イヌの亜空間からジュースや酒、焼肉のたれとサラダとフルーツの盛り合わせを取り出して皆に配らせる。
これら各種食材はゴリ将たちを待っている間に買っておいたものだ。時間経過しない冷蔵庫要らずの亜空間スキルのおかげで、腐ることなく買ったばかりの状態で食べられる。
ちなみにフルーツ盛り合わせは、ゴリ将たちの好みに合わせてバナナ多めにした。
宴の準備が終わったら皆を食堂の席に着かせた。
お腹が減ってきた頃なので早く焼肉パーティーをしたいところだが先にやるべきことがある。
「宴を始める前に、皆に新しいメンバーを紹介したい」
催眠おじさんの体になった私は、サモンマルチバースカードスキルを発動させる。
半透明のウインドウが空中に出現し、手札からユニットカードとマナカードを抜き取った。
今回は1度に召喚するユニットの数が多いので、両手にたくさんのカードを持たなければならない。
未知なる毛玉と自爆機能付き自動人形。そして双子家事妖精シルキーズと蠱島の主人の召喚を念じる。
手にしていたカードが光りだして粒子となって空中に飛び散っていく。
そうして周囲に散った大量の粒子が私の目の前に集まり、5体のユニットたちを形成していった。
レアリティ:C
カード名: 未知なる毛玉
マナコスト:黒×1
カード種類:ユニットカード
戦闘力:攻撃力1/生命力1/素早さ2
スキル
・なんかいる(神出鬼没かつ勝手に増えたり減ったりする)
レアリティ:UC
カード名:自爆機能付き自動人形
マナコスト:黒×2
カード種類:ユニットカード
戦闘力:攻撃力2/生命力2/素早さ2
スキル
・自爆(半径4mの爆発範囲の存在に必ず大ダメージか死を与える)
レアリティ:UC
カード名:双子家事妖精シルキーズ
マナコスト:白×2
カード種類:ユニットカード
戦闘力:攻撃力1/生命力2/素早さ1
スキル
・万能家事(掃除や洗濯、料理といった家事の成果に対してバフ効果を付与する)
レアリティ:SR
カード名:蠱島の主人
マナコスト:緑×4
カード種類:ユニットカード
戦闘力:攻撃1/生命力7/素早さ2
スキル
・蠱島接続(体の一部を蠱島空間に接続し、蠱島生物の召喚と送還ができる)
・菌類操作(菌類を自在に操る)
前回の召喚でユニと火鼠の2体同時召喚をしたが、今回はその倍以上の数のユニット召喚である。
私は食堂を拡張しておいてよかったと場違いなことを考えて安堵した。
「さて、おそらく君たちはこの場所や私についての知識があるはずだけど間違いないかな?」
これまでのユニット召喚で、チュートリアルダンジョンや召喚主に関する情報はユニットに知らされている仕様なのは分かっているが確認は大事だ。
そんな私の質問に対して召喚されたユニットたちが顔を見合わせた後、蠱島の主人が私の前に進み出て跪いた。
灰色髪に浅黒い肌をしたアラブ風の服装。
そして端正な顔つきの糸目が特徴的な青年である。
「はい、その通りございます。召喚主様におかれましてはお初にお目にかかります。僕は蠱島の主人と前の世界で呼ばれていた者です。イチロー様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「それでいいよ。隣の君たちも私の事は好きに呼んでくれて構わないからね」
蠱島の主人――糸目の青年の隣のユニットたちにも声を掛けると、3体のユニットたちが跪いた。
白いドレスを着た双子の女性ユニット2体と、人間味のない中性的な顔と体つきをしたユニット1体である。
女性ユニット2体の方は、女優顔負けの容姿をした双子の美女だった。うり二つの顔に服装も同じ白の絹ドレスだが、髪色が金髪と銀髪で違うので見間違う心配はないだろう。
肩まで伸びた金髪の女性が顔を上げて微笑みかけてくる。
「初めましてご主人様。私たちは双子家事妖精シルキーズ。私が姉のユフィでございます」
「妹のソフィ。よろしくです」
柔和な表情ののユフィに比べて、銀髪の女性のソフィは口数が少なく表情に乏しいようだ。
「「ご主人様の身の回りの全ての世話は私たちにお任せください」」
タイミングを見計らった様子もなく同時に喋り出す双子たち。
それでも音がずれていないのは双子ゆえ繋がりのおかげなのだろう。
双子家事妖精シルキーズの自己紹介が終わると、その隣で跪いたままだった中性的な姿形をしたユニットに目を移した。
そのユニットは患者服のような簡素な服を着ていた。
「初めましてイチロー様。自爆機能付き自動人形。製造番号L-017であります。潜入及び破壊工作を目的に作られた身でありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく頼むよ。ところで自爆機能付きなのは、君が潜入と破壊工作を目的に作られたからかい?」
「はい。このボディも人工知能もそれらを目的として設計製造されております」
人間味がないのは、そもそも人間ではないからだった。妖精であるユフィとソフィたちの方がよっぽど人間らしい外見だ。
性別不詳な見た目なのもそういった目的だからこそだろうな。
最後に私は、未知なる毛玉に顔を向けた。
未知なる毛玉――見た目は黒毛のモコモコとした毛むくじゃらの小さな生物らしきユニットだ。
毛玉の名の通り、埃が固まって出来たのかと思ってしまうサイズで、手足らしき部分が針金みたいに伸びてそわそわとしている。
「君も初めまして」
私がそう挨拶すると未知なる毛玉は極細の手足を折り曲げてお辞儀をした。
目も口も鼻も耳もないので前後の区別さえつかないはずだが、私の言葉はきちんと伝わった様子だ。
そんな考察をしていると、未知なる毛玉の体が細胞分裂するように少し膨れ上がった。
すると一瞬で未知なる毛玉が1体から2体に増えていた。
目を疑うような光景はまだ続いた。そうして増えた個体がサッと姿を消してしまったのだ。
「これが、なんかいるスキルなのか」
増えたり減ったりしては、急に現れては消える謎の毛玉。
よく分からないユニットだ。
戦闘力も低いし、スキル名からして他と違う。
たしかこのユニットを選んだ理由は非常食にならないかと思ってのことだ。
初めてデッキを組んだ時は食事も満足に出来なかったからな。そういう目的のユニットとしてデッキに組んだっけか。
まあ、今は食事場も改善されたからそんなことをするつもりはない。
今の所、チュートリアルダンジョンでの使い道が思い浮かばないが、モコモコとした毛玉の感触はたまらないので愛玩用に愛でるぐらいしか用がない。
いや、けどこれ本当に気持ちい感触だな。
癖になるぞ。
口や肛門も見当たらないから、餌の必要も排泄の世話の心配もなさそうだしペットとして扱うならかなりアリだ。
「っと、こんなことをしている場合じゃないな」
いかん。
このモフモフは中毒になりかねんぞ。
気を取り直した私は各自の自己紹介を行わせて、焼肉パーティーを始めるのだった。




