第38話 屑の始まり
催眠おじさんのスキルでマナカードの色変えを済ませた私たちはマイルームに戻ってきた。
手札の白マナカード9枚を、黄マナカード7枚と緑マナカード2枚に色変えした。
その過程で、洗脳催眠スキルの効果について詳しく調べることができた。
これまで使用頻度が少なくて洗脳催眠スキルの検証が出来なかったのでいい機会だった。
おかげで洗脳催眠中やその後の相手の状態、外部刺激による催眠解除の可能性など。
後催眠暗示スキルと合わせてかなり有用な情報を得られた。
魂の汚辱スキルでマナカードの色変えにも役立ったし、実験台となったモンスターには少しだけ感謝してやってもいいぐらいだ。
魂の汚辱スキルに関してはあれ以上騒がないようゴリ将たちにも周知させるよう言っておいた。有用なスキルに変わりないので使用は止めないが用心だけしとくつもりだ。
「今日は皆ありがとう。休日に付き合わせた礼は必ずあとで返すよ。それじゃあ今夜の宴までゆっくり休んでくれ」
お菊たちにそう言った私はあることを急に思い出した――という演技をする。
「……カルシファーはあとで私の部屋に来てくれ。ちょっと頼みたいことがあるんだ」
頼み事の内容は自撮り写真についてだ。
とはいえこの場でその事は口に出せないので自然な流れで話す。
「ふっ、了解した。この身に帯びた穢れを洗い流してから向かおう」
どうやら風呂に入って汗を流したいみたいだな。
私の方も先にやりたいことがあるから時間が空くのは都合がいい。
今回の探索に付き添ってくれたお菊たちに再度お礼を言った私は、自分の部屋に入るとサモンマルチバースカードスキルを発動した。
ユニットカードは今夜の宴まで召喚待ちしないといけないが、オブジェクトカードは今すぐ召喚しても問題ない。
無地のおっぱいマウスパッド2個と異空間バッグ、転移門の鍵束、複製機を早速召喚した。
丸机の上に置かれた異空間バッグ、転移門の鍵束。そして床に置かれた複製機。
名前通り凄いアイテムばかりなのだが、無地のおっぱいマウスパッドだけ卑猥な印象を与えてくる。
私はイヌと一緒に各アイテムの性能チェックをしていくことにした。
異空間バッグは、イヌの亜空間スキルの鞄バージョンだ。
見た目は黒のショルダーバッグで、その中は畳1枚分の異空間が広がっている。
教室1つ分の広さがあるイヌの亜空間スキルと比べたら狭く感じるるが、入れた物体は時間経過しないしレア度:Rの物だと考えれば割と良い性能だろう。
「このバッグを全員に配れたら探索中の荷物や水問題は解決するな」
異空間バッグで食料や水や持ち物などを個々で管理してくれれば、今まで荷物持ち役をしていた私の負担が減る。
それに1階層でDP稼ぎをする歩兵たちの班もこれで楽が出来るはずだ。
「けど1個しかないんですよね」
「だからこれから増やすんだろ」
転移門の鍵束は、銀色のリングに同色の5本の鍵が繋がっている。
鍵を手に持つと使い方が頭の中に入ってきた
念動カメラや運命のサイコロやファイアロッド。そして異空間バッグもそうだったのだが、オブジェクトカードから召喚した物は触れるとその使い方が頭の中に入ってくるので確定だろう。
カードから読み取れない使い方を教えてくれるのはありがたいが、その度に頭を弄られているいるようで気持ちの良いものではないな。
鍵を1本手に持ち右に回すと鍵先に2mほどの門扉が出現した。
門扉は木製だったが触った感じだとそれ以上の硬さがあるように感じた。
鍵を右回りさせると門扉――転移門が出現する。
転移門とは、いわゆるSF作品でお馴染みの亜空間ゲートみたいな物……らしい。
入り口となる転移門をA地点として、地点登録したB地点の出口までの距離をショートカットできる。
どれだけ遠く離れていても、これがあればマイルームから2階層へすぐに移動できるようになる。
移動に便利なアイテムだ。
「けど先に地点登録しないといけないのが難点だな」
鍵1本で出口のB地点を1カ所しか登録できない。
この転移門の鍵束には5本の鍵があるので、5カ所の出口をそれぞれ決めて地点登録しないと使えない。
実際、出現した転移門をくぐろうとしても、出口の地点登録をしていないので門扉はびくともしない。
「今度の探索で地点登録して行くしかありませんね」
「チュートリアルダンジョンは広いからな。地点登録はいくらしても困らないし、単転移門の鍵束は班の数だけ確保しときたい」
「これも増やすんですか」
「デッキを組む時に話した通りだよ。《《これ》》があれば幾つでも増やせるからね」
私は丸机から視線を下げて複製機を見た。
見た目は数人の人間が入れそうな大きさの鳥籠型のカプセルだ。
この機械的なカプセルの中に複製元を入れるとどんな物でも複製してしまう。
1度試してみるか。
複製機の扉を開き、その中に異空間バッグを置いた。
カプセルの扉横にはON/OFFのボタンがあり、私は迷いなくONボタンを押した。
キィィーンという耳障りな稼働音が鳴り響き、私が眉をひそめると複製機が静かになった。
どうやらもう複製が完了したみたいだ。
複製にかかった時間は5秒ほどだろうか。
複製機の扉を開けるとそこには2個の異空間バッグがあった。
持ち上げて見比べるとどっちが複製された物か見分けがつかなかった。
その後、どちらとも中身が異空間となっていることが分かり性能チェックを終えることにした。
「どちらが複製した物なのか本当に見分けがつきませんね。原理は全く不明ですけど、レア度URのカードだけあって規格外のアイテムですよ」
「まあ、複製回数が1日1個までっていう制限付きだけどね」
それに生物は複製できないようだ。
「それでもこれを他人が知れば持ち主を殺してでも奪い取ろうとしますよ。悪い使い方なんて幾つでも思い付きますからね」
「だからこの複製機を使って異空間バッグや転移門の鍵束を複製するんだろ」
今日と明日。そして探索当日の複製回数も含めて3回の複製をするつもりだ。
これで異空間バッグを3個も複製すれば班の数分は確保できる。
複製機はイヌの亜空間に入れて持ち運ぶので、1階層の探索中も異空間バッグや転移門の鍵束を複製し続けるつもりだ。
性能チェックを終えてから15分ぐらい経つとカルシファーがやって来た。
複製機などの召喚した物は既にイヌの亜空間の中に仕舞っておいた。
「待たせてすまない。同胞よ。地獄の窯の底から舞い戻ってきたわ」
入室して早々、風呂上りの上気した顔で軽く謝るカルシファー。
そっか。お風呂、熱かったんだね。
「いや、そんな待っていないから大丈夫だよ。私の方もやることがあったからね」
むしろ女性は長風呂だと聞いていたので、もっと時間が掛かると思っていたぐらいだ。
というか風呂上りでもゴスロリ服なんだな。
「……むぅ」
そんなフォローをする私を、カルシファーがなぜかむくれた表情で見つめてくる。
「えっと……なにか気に障るようなことでもしたかな?」
はて。まだ私は何もしていないつもりなんだが。
もしかして女の勘で私がこれからする事に気付いたのかな。
「……忘却されし言語」
カルシファーがポツリと言葉をこぼした。
困惑する私にイヌが小声でアドバイスしてきた。
「マスター。たしかカルちゃんを召喚した時に、2人きりの時は中二セリフで話すって言ってませんでしたか」
「あぁ~」
そういえばそんな事を言った記憶があるな。
昨夜の生理用品を頼んできた時も2人きりだったが、あの時はカルシファーがテンパっていたから気にしなかったのだろう。
「遂に来たか。運命に導かれし者よ!! 汝に我が望みを叶えられるかな」
発言と同時に両腕を横に広げてポーズをとった。
こうなりゃヤケだ。
私の我がままにカルシファーをこれから付き合わせるのだから、この中二ムーブに先にノッてやろうじゃないか。
私は風呂上りでもないのに顔が赤くなるのを自覚する。
「ククッ。同胞の望みか。なにやら同胞から邪気を感じるがその事についてかな。いいだろう! 地獄の責め苦を終えた我に任せるがいい!」
めっちゃ笑顔になってる。
嬉しいんだろうな。こんなノリノリに付き合ってくれる奴に元の世界で出会わなかったんだろう。
邪気眼スキルで私の邪気も察知してるみたいだけど、それで私が困っている状態だと勘違いしてくれているようだ。
だから先に心の中で謝っとくぞ。
すまない。娘よ。
父《私》は悪い大人なんだ。
――洗脳催眠スキル発動――
カルシファーの視界に入らない位置まで横に伸ばしていた右手。
その手中に白マナカード2枚を出現させて洗脳催眠スキルの発動を念じた。
スキルの光が至近距離のカルシファーに当たりその眼の光が失われる。
視界の外からだったので何が起こったかカルシファーは分からなかっただろうな。
「やっちゃたなぁ」
「やっちゃいましたね」
「ならもっとやるしかないよな」
「ええ。マスターが望むままに」
娘だなんだと言いながらカルシファーに洗脳催眠スキルをかました私とイヌ。
誰がどう来ても屑の所業である。
これがカルシファーをおっぱいマウスパッドと、エッチな自撮り写真の被写体にさせる方法を思い浮かばなかった私たちによる苦肉の策だ。
だけどこれが売れれば、もっと良い施設や物が手に入る。
そうすれば探索の効率が上がり、地球に戻れる可能性も高くなる。
私はどうしても地球に戻りたいのだ。
人間関係はまともに構築していなかったし、孤児でこの歳になってもいい思い出の方が少ない人生だったけど。
焦がれる程の郷愁が私の奥底にあった。
理屈なんてない自分本位の気持ち。
初めてカルシファーに中二セリフで自己紹介した時。
私は自身を傲慢の化身と名乗った。
あの時はぱっと思いついた言葉を口に出しただけだったが、どうやら私はその通りの奴だったみたいだ。
カルシファーの洗脳催眠が解除されるまでの1時間。
性能チェックの後、ゴリ将たちには私がいいと言うまで誰もこの部屋には近づかないよう言ってある。
私とイヌは今までで一番熱の入った写真撮影会をしたのだった。




