第32話 王冠の捕り方
時間を無駄にするつもりが無かった私は、墓場の主の元まで真っすぐ進んでいった。
途中にあるモンスターの出現ポイントは、カルシファーの邪気眼スキルで看破するので、先制攻撃を仕掛けてアンデッドモンスターを倒していった。
それらの戦闘で、新メンバーのユニと火鼠の戦闘スタイルや癖、それに私たちのとの連携確認もできた。
「ユニ殿が戦いを苦手にしているとは思わなかったですな」
「苦手というより戦い慣れていないだけさ。私がこれまで居たエデンは争いのない楽園だったのだよ。命を懸けた戦いなんて生まれて初めてしたよ」
ゴリ将の言葉にユニが苦言を述べる。
「吾輩たちがいた世界とは全く逆ですな。戦いの無い世界ですか。吾輩には想像も出来ませんな」
「戦い、好き。火、いっぱい、カルシファー、くれる、好き」
火鼠の炎上纏スキルは火を纏い燃え盛るほど攻撃力を上げる。
炎熱無効スキルも合わさって火鼠は、火を浴びるほど強くなる。
ただし火鼠自身で火を起こす術がなかったので、カルシファーに持たせたファイアロッドの火を纏わせて戦わせた。
ファイアロッドは1日30回という使用回数制限はあるけれども、火鼠の強化に欠かせないアイテムだった。
「同じ新入りでも火鼠は頼りになりやすね。火を纏えば攻撃が上がりやすし、硬い毛皮で並大抵の攻撃は耐えられやすからね」
「ククッ。魔なる力が必要ならば任せるがいい。我が火は破壊だけではないと教えてくれよう」
「乙女たちよ。そんなつれないことを言わないでくれ。君たちの為ならこの身を盾にすることも厭わないさ」
隙あらば女性陣に近寄るユニと、呆れた様子で対応するお菊たちを眺めながら、私はユニの今後について考えた。
戦うのが生れて初めてだと言うユニ。
実際、何度か戦わせてみたが及び腰になってしまい、カードに書かれた通りの戦闘力を発揮できていなかった。
カルシファーもここに召喚されるまでそうだったが、戦闘時の彼女は安全度の高い後方から魔法攻撃をする。
それにお菊というガードマンもいるので、接近戦しか戦闘方法を持たないユニと違い、戦いに関する心理的負担も違ってくる。
戦いうに役立てない分、ユニはカードや食事といった面で役立ってくれている。
だから要らない子扱いはしないが、マイルームに戻ったらユニに何かしらのスキルを与えて、ゴリ将たちの訓練に参加させた方がいいだろう。
「イチロー様からの熱い視線。嬉しいはずなのに、なぜか冷や汗が止まらないのだが……」
視線が合ったユニが体をブルリと震わせる。
野生の勘でも働いたか。
「知らぬが仏というやつだよ」
「ユニさんもまだまだですね。マスターが笑顔になるなら、どんな目に合う予定でも喜ばないといけませんよ」
私の思惑を読み取ったイヌが実に嬉しそうにしていた。
本気で言っているのか、冗談で言っているのか。
相変わらずこいつだけは読めない奴だな。
私たちは墓場の主と戦う前に最後の休憩をすることにした。
班の皆の怪我をイヌの再生スキルで治し、ユニの生命の一角スキルで出来た生命の木の林檎で全員の疲労回復をさせた。
墓場のアンデッドモンスターもここまで来ると、当然の様に10体以上で出現するようになっていた。
個で圧倒する骸骨大百足やゾンビレックス。そして集団で襲ってくるゾンビラプトルの群れやスケルトンメイジまでいるスケルトン兵部隊など出現するアンデッドモンスターの種類が豊富だ。
まだ数と質の上で私たちが勝っているが、無傷で倒し切るのが厳しくなってきた。
大物となるとゴリ将とお菊が相手をしなければならない。
私もなんとか食い下がれるが、危なそうなモンスターを相手にしたら、後方にいてくれと皆に言われたので大人しくしている。
私は休憩場所から離れた位置で、離れた位置で椅子に座ったままでいる墓場の主を見る。
墓場の主の元までおよそ100mほどだろう。
墓場は殺風景な場所だ。視界を遮る物は墓石程度しかないし、それだって身を隠せるほど大きな物でもない。
堂々とここまで来て休んでいるというのに相手に動く気配はなかった。
こちらから見えているという事は、あちらからも十分に私たちの姿が見えているはずなのにだ。
「全く動きがみられませんね。なにか罠でもあるのでしょうか」
イヌの懸念はもっともだ。
「念のためカルシファーに確認してもらったけど、やっぱり王冠を被った骸骨から危険な赤色が見えるそうだぞ」
「カルちゃんがそう言うなら信じられる情報ですね」
イヌがカルシファーへの謎の信頼を見せる。
とはいえこれはそこまで不思議な話じゃない。
カルシファーの邪気眼スキルの効果を怪しむ者は私の班にはいない。
ここに来るまで結果を出し続けてきたので、彼女の危険感知能力が外れないことは周知の事実となっていた。
王冠を被った骸骨を墓場の主と呼んでいるが、ああも全く動きが見られないとモンスターなのか怪しくなってくる。
モンスターなのか罠なのか。もしくはそれ以外の危険が待っているのか。
とりあえず行けば分かるか。
「さて、皆。墓場の主はすぐそこにいる。だが私は進む前に皆に言うべきことがある」
「言うべきことでやすか?」
お菊が小首をかしげる。
「知っての通り、モンスターは倒すと消えてしまう。これはモンスターの持ち物も例外じゃない」
2階層を様子見した時に、墓場に出現したスケルトンソルジャーが装備ごと消えていたのだ。
これまで出現したアンデッドモンスターには武器防具や装飾品を纏った奴らもいた。
そうしたモンスターから装備品を戦利品として奪えないか試行錯誤したのだが、そのほとんどが失敗で終わった。
もしモンスターの装備を奪えてたら、墓石なんかをイヌの亜空間に入れることも無かっただろう。
唯一の方法として、モンスターを倒さずに装備を奪い取ってしまえば手元に残ることが分かった。
だがこの方法は、2階層の墓場において非常に面倒くさい方法だった。
侵入者である私たちを見つけたモンスターは、倒さないと追いかけてきて襲い掛かってくる。
1階層のような曲がり角や小部屋といった隠れる場所が多い階層なら、逃げ隠れしてやり過ごすことができるが、2階層の墓場は腰の高さ程度の墓石ぐらいしか隠れる場所がないのでまず隠れることができない。
それに体力の限界が無いアンデッドモンスターなので、体力勝負だとこちらが疲れて足を止めたら追いつかれてしまう。
1階層を日帰りした時のようにモンスターを振り切るほど全力疾走すれば逃げ切れるだろうが、この班はあの時と違って少数精鋭ではなく、班員が多くなり各自の移動速度のばらつきが激しくて全員で逃げ切れる可能性が低い。
階層移動してしまえば問題ないだろうが、1階層まで戻れる転移陣ははるか先にある。
3階層へ行くのはもっと無理な話だ。
「なるほど。墓場の主がモンスターでしたら、王冠は装備品扱いになりますからな。それで倒してしまったら、城の跳ね橋を通る手段が無くなってしまいますな」
「ゴリ将の言う通りだ。念のため墓場の主に遠距離攻撃してみるが、罠だったりしたら即撤退するよ。だけど、もしモンスターなら私の洗脳催眠スキルで操るつもりだ」
私はゴリ将と猿山脈の歩兵たちを見てそう言った。
1階層のボス部屋の出来事を知るメンバーたちだ。
前回、洗脳催眠スキルを使用した時は彼らに迷惑を掛けてしまった。
だからといって洗脳催眠スキルを使わないでいる気はない。
ゴリ将が鎖が巻かれた腕を組み合わせると頭を下げた。
続いて、思考共有スキルで記憶もある程度共有している歩兵たちが跪く。
「吾輩たち猿山脈一同は主殿の将兵であります。主殿が決めたことならば喜んで従いましょう」
「ウキー」
やはり元の世界で軍人だけあって、彼らは他のユニットよりも忠誠心が高い。
とはいえ、さすがに墓場の主も攻撃されれば何かしらのリアクションがあるだろう。
ただの死骸なら効かないが、モンスターなら催眠洗脳スキルが効くのはストーンゴーレム戦で実証済みだ。
洗脳催眠スキルが効かない場合の保険として、戦力も前以上に充実させたから不測の事態にも対応できるはずだ。
「イヌ。催眠おじさんの体にしてくれ」
「了解しました」
イヌの心身置換スキルによって瞬時に体が入れ替わった。
私はサモンマルチバースカードスキルを発動させ、手札からスペルカードのヒールと白マナカード1枚を抜く。
イヌの再生スキルとユニの生命の一角スキルで、怪我も状態異常も治療可能になったので、使いどころが無くなったヒールのカードをここで使うことにした。
「カルシファー。私が合図を出したら土魔法で墓場の主に攻撃してくれ」
私はすぐに洗脳催眠スキルを発動させるため、カードを片手から離せないので毒液ボールでの全力投球ができない。
だから私を除いて、この班で遠距離攻撃手段を持つカルシファーの出番だった。
「クックック。任せるがいい。同胞に我が魔弾の真の力を見せてやろうではないか」
土魔法スキルLv1で使えるサンドボールは目潰し程度の威力しかない。
だからあまり期待していないのだが、なぜだかカルシファーが自信ありげな様子だった。
「うん? サンドボールは砂玉じゃろ。魔弾と言うからには、威力が低くすぎやしやせんかね」
「心配無用。ククッ、我に秘策あり!」
お菊の疑問にも態度を変えずに答えるカルシファー。
人生で言ってみたいセリフを言えて嬉しいのだろう。
墓場の主の元までおよそ50mの所まで来た。
ここまで近寄っても王冠を被った骸骨は椅子に坐したままだった。
周囲のモンスターの出現ポイントはあらかた潰したので、未だに動きが見られない墓場の主のみに注意する。
前衛に盾を構えた猿山脈の歩兵たちを並べてゴリ将に指揮を任せ、中衛に私とイヌと火鼠、後衛にユニとお菊とカルシファーというメンバー構成で一歩一歩進む。
そしてカルシファーのサンドボールの射程圏内に入った。
「撃て! カルシファー!!」




