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第30話 墓場の最奥を目指して

「この墓場はどこまで続くんだろうな」


 出来上がったばかりかのように熱々のグラタンを口に入れながら目を凝らす。

 視線の先には墓場がどこまでも広がっていた。

 雑草が生えた柔らかい地面に幾つもの墓石が不規則に置かれている。そんな光景がずっと続いていた。


 左方向に視線を向ければ遠くに森が広がってるのが分かる。

 墓場もそうだが森の広さも相当だ。墓場と同等かそれ以上の広さがあるはずだ。墓場の次は森の探索をする予定なので今からその事を考えるとため息をつきたくなる。


 ちなみに城があった右方向には墓場が広がっていた。既に城が見える範囲を通り過ぎていて、そこから先はここと同じような墓場となっていたのだ。

 この2階層の墓場は横幅はそう長くないが、奥の方が地平線となるぐらい縦に広がっているようだ。


 2階層に到着してから5日が経った。

 私たちは1日目でボスモンスターがいるだろう城に入るには王冠と杯が必要だと決めつけて、2日目以降から本格的に墓場の最奥を目指した。


 それでも墓場の最奥とやらには未だに到着していない。


「なにか不満でもあるのですかな、主殿」


 夕食のため今日の睡眠場所を決めた私たちは、ブルシートを何枚か地面に広げて思い思いに座って食事をとっていた。

 そんな時に呟いた私の言葉に、近くに座っていたゴリ将が反応した。

 私は外に向けていた視線を、箸を器用に使って天丼を食べるゴリ将に向けた。


「不満というか不安かな。食料は多めに買い込んでいたんだけど、あと10日もしたら食料が尽きるんだよね。余裕を持っての計算だし、すぐに無くなるわけじゃないけど、帰りのことも考えるとそろそろ戻る選択も考えないといけない」


 あいにく墓場に出現するモンスターはアンデッドモンスターばかりで、1階層のように捕まえて食料にするわけにはいかない。

 来た道を戻るにしても、その間の食料を確保しとかないと飢えて死んで全滅する結果になってしまう。

 単調な景色が続く墓場の探索で、ちゃんとした食事は数少ない楽しみだ。


 墓場の探索に5日。そして1階層の移動に5日と考えると、食券の残数が10日分というのはギリギリの枚数だ。

 1階層の食事をモンスター肉にするなら食券の枚数が5日分浮いて、まだ5日は大丈夫な計算になるが、それで不安が無くなるわけじゃない。


 私とイヌ。それに従魔のお菊はマイルームに死に戻りできるが、他の奴らはそうはいかないので引き際を見誤ることはできない。


「食料の心配でしたか。生体兵器である吾輩たち猿山脈の者は、少量の食事でも長期間の戦闘が可能ですが、補給無しの状態でも戦えるかというとさすがに厳しいですな」


 図体に対して大人1人分の食事で済ませていたゴリ将が腕を組んで難しい顔をする。


「嬢ちゃんが見えとる危険ってのはこの先で間違いないんじゃろ?」


「そうね。遠くからでも見えた大いなる邪気がこの先にある……はず」


 お菊の問いに、オムライスを食べていたカルシファーが尻すぼみに答えた。

 2階層に来たばかりの時はこの先だと墓場の奥を指さしていたが、先の見えない道のりに自信が無くしかけているようだ。


「カルちゃんの言葉を疑うわけじゃありませんが、どこかの段階でマイルームまで戻って仕切り直した方がいいかもしれませんね」


「そうだな。あと2日進んでも何も見つからなかったらそうするか」


 やけにカルシファーを庇うなと思いながらイヌの言葉に同意する。

 思えば同性のお菊には手厳し発言が多いのに、カルシファーに対しては略称でちゃん付けで呼んだり変に絡んでいかないんだよな。

 カルシファーにはイヌがそうする何かがあるのだろうか。

 だけどイヌに詳しく教えろと聞いてもはぐらかされてるのか、ちゃんと答えないんだよな。


「なんたってカルちゃんは、私とマスターの愛の結晶みたいなものですからね」


「そうか」

 

 うん。聞いてみたけど、やっぱり意味わからん。

 私とイヌの愛の結晶ってことは娘ってことだろ。

 まともな答えになっていないぞ。


 カルシファーにこのことを聞いてみると、イヌとは召喚されて初めて会ったそうだし、両親は元の世界で健在だそうだ。

 余計にイヌの発言の謎が深まるばかりだった。


「謎が謎を呼ぶ……か」


「ウッキ―」


 ポーズを決めて物憂げな顔をするカルシファー。

 その背後には、最近仲良くなったらしい猿山脈の歩兵たちが同様のポーズを決めていた。

 私より仲良くなってるなあ。

 カルシファーの方も気にした感じじゃないようだし、私が気にしすぎるのだろうか。



 その次の日の探索も空振りで終わった。

 ただし今ではアンデットモンスターの種類が増え、1度に10体以上で出現するようになってきた。


 これではDP稼ぎをしに来ただけで終わってしまうと考えた私は、雑草や墓石が錬金素材かショップで売れないかとイヌの亜空間に突っ込んでいった。

 カルシファーが墓石を勝手に持ち帰るのは罰が当たるかもしれないと、常識的な発言をしてたので笑って流した。

 出現するアンデッドモンスターに生前があるか知らないが、モンスターに容赦する必要なんてない。

 顔を近づけてそう説明するとカルシファーもちゃんと分かってくれた。


 墓場の探索開始から7日目。

 これまで墓場で見たことない物を発見した。

 堕犬娘の優れた視力で見えるという、遠く離れた場所に骸骨が椅子に座っていたのだ。

 それは墓石と雑草があるだけの無味乾燥として墓場において異質な存在だった。

 私はすぐにそれが求めていた相手だと気付いた。

 

 灰色のローブを羽織った骸骨は、その白骨化した頭部に王冠を被っていたのだ。


「王冠を被った骸骨を発見した。おそらくあの王冠が跳ね橋を渡るのに必要な物だな」


「その骸骨ってモンスターなんですかね?」


「いや、ピクリとも動かないから分からないな」


 イヌの疑問はもっともなんだがここからでは判断できない。

 まあ、モンスターならこちらが近づけば何かしらのリアクションがあるだろう。

 もしそうならこれまでの墓場のモンスターとは違い、地上に姿を現しているので特殊個体――ユニークモンスターかもしれないな。


同胞はらからが教示した場所に禍々しい気配を感じるわ。あれこそ我がこれまで感じていた赤き存在の一つ」


「嬢ちゃんがそう言うってことは、危険な存在があそこにいるってことでやすね」


「となれば、こちらも出し惜しみせず全戦力で立ち向かう方がいいでしょうな」


 ゴリ将の言う通りだ。

 あの骸骨はボスモンスターではないだろうが、人面犬と同じユニークモンスターなら油断はできない。

そうじゃなくてもあの辺りに危険があるのなら万全の態勢で挑むべきだ。


 私たちの今の戦力は、私、イヌ、ゴリ将、お菊、カルシファー。そしてゴリ将が毎日、配下召喚していた猿山脈の歩兵11体だ。


 ここで更に駄目押しで戦力アップする。


 2日目以降、サモンマルチバースカードで私は5枚のカードをドローしていた。

 その5枚の内訳は――赤マナカード1枚、白マナカード2枚、黒マナカード2枚だ。

 これで私はユニットカードを召喚する条件を満たした。

 しかも2体もだ。


 これまで食料の問題ですぐに召喚できなかったが、ここまで来たら遠慮することはない。


 イヌに催眠おじさんの体に変えてもらい、サモンマルチバースカードの半透明なウインドウを呼び出す。

 手札からユニットカード2枚と赤と白マナカードを必要枚数のみ抜き取る。


「火鼠と信仰篤きユニコーンを召喚!」


 光る粒子が吹き荒れて夜の世界に光明を生み出す。

 粒子が弾け合い流星の如く宙を舞っていく。

 ユニットカードの2枚同時召喚だからか召喚がいつもより派手な気がするな。


 そうこうしていると召喚が終わり、私の目の前に新しいユニットが現れた。


 静謐な気配を漂わせた一角獣。

 ゴリ将と同じレアリティ:SRのユニットカードの白馬が、力強く大地を踏みしめる。



 レアリティ:SR

 カード名:信仰篤きユニコーン

 マナコスト:白×4

 カード種類:ユニットカード

 戦闘力:攻撃力4/生命力3/素早さ6

 スキル

 ・生命の一角(角が刺さった対象に生命の木の欠片を宿らせる)

 ・信仰の証(1日1回、信仰心を深める事で白マナカード1枚を得る)



 その隣にはユニコーンと同程度の大きさを持つ火を纏う赤鼠。

 四肢に絡みつくようにうねる火は夜闇を薄っすらと照らしている。



 レアリティ:R

 カード名:火鼠 

 マナコスト:赤×3

 カード種類:ユニットカード

 戦闘力:攻撃力3/生命力2/素早さ3

 スキル

 ・炎熱無効(火炎と熱の攻撃を無効化する)

 ・炎上纏えんじょうてん(その身に火炎を纏い燃え盛るほど攻撃力を1アップしていく)



 2体のユニットの内、先に動いたのは信仰篤きユニコーンだった。

 その見事な馬体を軽やかに動かして私に近づき……そのまま通り過ぎるとカルシファーの元まで行ってしまう。

 召喚主である私には目もくれなかった。


「おぉ、麗しの乙女よ。私が来たからにはあらゆる敵から貴女を守りましょう。まずはお近づきの印に誓いの口づけを私の角にどうですか?」


「っ……」


 カルシファーにすり寄るユニコーン。

 彼女は初対面の相手に固まって動けないでいた。

 元の世界でも邪気眼少女だったのを思えば、ゴリ将たちを紹介した時のように

私が間に入って仲を取り持たないで誰かと接するのはキツイだろう。

 肝が太いとお菊に評価されているが、内弁慶なのでいざという時以外はこうなってしまっても仕方ない。


「おい新入り。召喚されたからには、おやっさんに先に挨拶するんが常識じゃろうが。それに嬢ちゃんが怯えてるのが見て分からんのか?」


 ここでお菊がユニコーンに待ったをかけた。

 カルシファーにすり寄ろうとするユニコーンの前に髪盾を出して彼女を守っている。


「その声から察するに女性の人形さんのようだね」


「あぁん? ウチが人形なのに文句でもあるんか」


 お菊の声に苛立ちが含まれる。

 私を無視したのとカルシファーを怯えさせたのがよほど腹に来たようだ。


「そんな怒らないでくれ。別に女性の君に含む所はないんだ。ただ私は教えに従って行動しているまでなんだ」


「教えだぁ?」


「そうさ。処女信仰の教えに従っているだけなのさ」


 おっと、これはまたとんでもない信仰心を持ったユニットだな。

 他の世界から来たゴリ将や従魔のお菊たちには意味が通じていないようだ。

 皆、こいつ何言ってるんだという感じだ。

 

 ユニコーンの言っている意味が分かるのは私とイヌと……カルシファーも分かっている顔だな。

 照れてるのか顔が赤くなっているぞ。

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