第29話 ゲームみたいな探索
2階層に降りた私たちは、カルシファーが最も危険な場所だと教えてくれた城に向かった。
城にいるはずの2階層のボスモンスターを速攻で倒そうと考えたからだ。
半日ほどアンデッドモンスターを倒しながら城を目指して進む。
転移陣から見える範囲にあった城などで移動距離はそう掛からなかった。
ただし墓場を横切って進むと、アンデッドモンスターが地中から出現して襲い掛かってきた。
墓場に出現するアンデッドモンスターだけでも1階層とまるで違った。
なによりも出現する回数とモンスターの数が1階層より多かった。
墓場のモンスターの種類はゾンビ系とスケルトン系のモンスターだった。
墓場の奥の方に行けば、出現するモンスターの種類が増えるか変わるかするかもしれないな。
ゾンビ系のモンスターは、ゾンビ、ゾンビ犬、グール、ジャイアントゾンビの4種類。
そしてスケルトン系のモンスターは、スケルトンソルジャー、スケルトンアーチャー、スケルトンナイト、スケルトンマジシャン4種類だ。
城を目前とした所でこの8種類のモンスターが総出で現れた。
まず地面を揺らして私たちの足元からジャイアントゾンビが腕を突き上げて飛び出してきた。
地面の下からの急襲。
出現する予兆で地面が少し揺れるが数秒のみだ。
気付かなければ下から突き出たジャイアントゾンビの手に鷲掴みにされて、あっという間に捻り潰されただろう。
だがそうはならなかった。
「我が眼にかかれば斯様な攻撃を見破ることなど容易いこと」
顔の前に右手をかざしてポーズを決めるカルシファー。
地面が揺れる前から危険を察知していた彼女のおかげで、モンスターの下からの奇襲に対応できたのだ。
「その状態でようドヤ顔できるのう。嬢ちゃん。やっぱり肝が太いようでやすね」
カルシファーの体を黒髪で覆って避けたお菊が呆れ声を出す。
腰から下が黒い繭の様になったカルシファーはお世辞にも格好良くはなかった。
「危険察知は抜群ですけど、カルちゃんはその後の対応力がお粗末ですからね。元の世界が平和な所だったから仕方ないですけど……というかマスター。あの胸、見てくださいよ。際どくないですか?」
「ふむ、ノーコメントで」
黒髪の繭で持ち上げられたカルシファーはお菊に空中に持ち上げられた状態だ。
そのせいで胸元がパツパツだったジャージが際どいことになっていた。
まあ、堕犬娘の体となった今の私が同性相手にどうこう思うことなど無い。
だからイヌ。
そんな何度もカルシファーの胸について聞いてくるんじゃない。
「主殿。ジャイアントゾンビの討伐を済ませましたぞ」
私たちが話している間に、ジャイアントゾンビの脳天から鎖を突き刺して倒したゴリ将がやって来る。
「ご苦労様。他のアンデッドモンスターたちも続々と出てくるようだね」
「生ける屍と亡者の骸たちか」
カルシファーの言う通り、ジャイアントゾンビを倒してすぐに他の7種類のアンデッドモンスターが地中から出てきた。
このアンデッドモンスターたちも私たちの足元から襲い掛かろうとしてきた。
ジャイアントゾンビと違うのは同時に出てきたことか。
敵味方密集した状況を嫌った私は、各自の近くに出現した相手を倒すよう指示する。
私の近くの地面からはゾンビ犬が出現した。
腐った体にしては俊敏な動きで走り寄り、私の喉元目掛けて飛び掛かってきた。
私は右手を振り上げて声を張り上げる。
「イヌ!」
「お任せを!」
阿吽の呼吸で私の声に反応したイヌが、振り上げた右手の先に亜空間の渦を出現させた。
右手に思い浮かべた物を握りしめて渦の中から引き抜く。
渦からその身を出したのは武骨なメイスだった。
ゾンビ犬の腐り落ちて崩れたが眼窩から殺意を感じる。
一瞬、思い出すのは1階層で殺し殺された人面犬の憎い顔。
避けてから倒そうかと思ったが、相手がゾンビとはいえ犬モンスターなのだ。
引ける訳がない。
1階層で使い慣れたメイスを上段から振り下ろし、ゾンビ犬の顔を陥没させて吹っ飛ばす。
地面にバウンドして墓石にぶつかったゾンビ犬が粒子となって消えていく。
「吹っ飛びましたねえ。よほどあのゾンビ犬が気に入らなかったんですか? なんだかマスターがこれまでにない顔をしてましたけど」
「えっ、そうかな?」
犬モンスターが相手で人面犬を思い出したからだろうか。
いつになく力を発揮できた気がしたけど、変な顔でもしていたのかと頬をさする。
「いつも以上に目付きが悪くなって、瞳孔が開いて真っ黒な感じでしたよ」
イヌの例えがよく分からないな。
だけど催眠おじさんと堕犬娘の体の両方でこんな風に言われてるんだよな。
皆からは好意的に受け取られているけど、ただの黒目なだけだと思うのだが……。
「っと、もう皆もモンスターを倒したようだな」
話ながら周囲を確認しているとそれぞれ相対したモンスターを倒し終えていた。
スケルトン系のモンスターたちは、前衛がスケルトンソルジャーとスケルトンナイト。後衛をスケルトンアーチャー、スケルトンマジシャンという安定したパーティー編成でゴリ将が率いる猿軍団と戦っていた。
とはいえ戦いの決着は早かった。
歩兵5体がサポートに回ってゴリ将の突破力であっさりとスケルトンパーティーは崩壊したのだ。
ゾンビとグールを相手取っていたお菊とカルシファーも問題なく倒せたようだ。
動きの遅いゾンビと動きの速いグール。
グールの方は速いといってもゾンビと比べたらのことだ。
成人男性程度の動きの速さと毒爪攻撃をするグールは、お菊の黒髪で編まれた大槌に押し潰されていた。振り下ろす時に重硬化スキルを掛けた大槌がグールをミンチにした。
ゾンビの方はカルシファーがファイアボールを当てて倒していた。避ける知能もないゾンビはいい的だな。
2発も当てれば頭部が炭化して倒されていた。
1発目が外れてしまったのは見なかったことにしとこう。
お菊が注意しているようだし、これからに期待だ。
「ご無事でしたか、主殿」
「あの程度の相手なら問題ないよ。それより先に進もう」
墓場のモンスターに苦戦することなく進んだ私たちは遂に城の前に到着した。
そして堀に囲まれた城の前で私は呆然となる。
なんと堀の深さは底が見えないほどで、私たちが立っている場所から城までの距離が何百mも離れていた。
丘の上に建てられた城だったので、こんな堀があるとは近くに来るまで気づけなかった。
ジャンプすれば届く距離じゃない。
念のためカルシファーに堀の底を覗いてもらった。
「深淵に繋がる先に赤き悪魔が潜んでいるわ」
この発言が本当なら堀を下りるのは得策ではないな。
モンスターか罠か分からないが危険があるのは確実だ。
それにこの距離を飛んで渡れる方法は今の私たちにはない。
「ということは、あの跳ね橋を通らないといけないんだよなあ」
城の正面。
門へと通じる位置に跳ね橋が引き上げられているのが見える。
跳ね橋という正規ルートを通れということなのだろう。
どうにかしてあの跳ね橋を下ろさなければいけない。
なにか無いかと堀を挟んで反対側のこちら側をしらみつぶしに探す。
すると石の台座を発見した。
苔むした石の台座の上には2つの窪みがあった。
杯と王冠の形の窪みだ。
「ここに何かをはめ込めってことでやすかね」
お菊が首をかしげる。
「間違いなくそうだろうね」
ゲーム的な考えだが杯と王冠は、カルシファーが危険だと言っていた墓場の最奥と森のどこかにあるのだろう。
2階層に初めて来た時にホラーゲームみたいだと思ったが、つくづくゲームみたいな作りだと実感する。
そもそもチュートリアルダンジョンそのものがゲームじみたシステムやモンスターなのだ。
今さらと言えば今さらか。
このことを皆に説明して、ひとまず墓場の最奥を目指して移動することにした。
そこに杯か王冠を見つけることができれば、私のこの考えが当たっていることになるだろう。
早く城のボスモンスターを倒そうと、あまり休まずにここまで来た。
腹も減っていたので丘の上で食事を済ませ、この日はこの場所で野宿して明日に備えて早めに休むことにした。
この2階層は月と星空が広がる夜の世界だ。
半日以上経っても太陽は顔を出さず夜空のままだ。
1階層のような閉塞感はないが時間間隔が取りづらい。
だから本当に半日掛かったのかも実は怪しい。
見張りを順番に交代しながら睡眠を取る。
皆が十分な睡眠を取れた後、ゴリ将の配下召喚スキルと私のサモンマルチバースカードのスキルで、ちゃんと1日が経っているのを確かめた。
墓場の探索を初めて2日目。
メンバーが増えた。
ゴリ将の配下召喚スキルの効果で、猿山脈の歩兵を新たに召喚したのだ。これで歩兵の数は5体から6体になったのだ。
あとデッキからカードをドローして、黒マナカード1枚を手札に加えた。
残念。
黒マナカード1枚ならブラックアウトというスペルカードなら召喚できるが、今この時に使うカードではないな。
また明日に期待しよう。
朝食を済ませた私たちは丘を下りて墓場の最奥を目指して移動を開始した。
私にはマップスキルがあるので、転移陣の位置から真っすぐ進んだ先を目指して進んでいけばいい。
これまでの事から、墓場のアンデッドモンスターは出現ポイントに私たちが近づくと反応して地面から出てくると分かっている。
これも一種の罠みたいなモノなのだろうか。
モンスターを倒した所はしばらく安全地帯となり、数時間ほどして再びアンデッドモンスターが出現する。
私たちはカルシファーの邪気眼スキルのおかげで出現ポイントが分かるので休憩場所の確保には困らなかった。
出現するアンデッドモンスターは全て倒した。
急ぐなら無駄な戦闘は避けるべきだが、モンスターの出現ポイントを避けて進むと余計に大回りするので真っすぐ墓場を通ることにしていた。
DP稼ぎにもなるし、今のところ苦戦する相手はいない。




