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エピローグ 君を忘れても
春。
柔らかな風が草原を渡っていく。
滅びたはずの世界には緑が戻り、小鳥がさえずっていた。
子どもたちが笑いながら走り回る。
戦争も。
魔物も。
終焉も、もう存在しない。
街外れには、小さな石碑が建っていた。
そこには名前は刻まれていない。
ただ、一文だけ。
「世界を救った、名もなき学生たちへ。」
一人の若い女性が花を供える。
長い黒髪。
澄んだ青い瞳。
エリシアだった。
「……不思議。」
石碑を見るたび、胸が締めつけられる。
誰かを思い出しそうになる。
でも、その顔だけが浮かばない。
そこへ、一人の青年が通りかかった。
黒髪。
青い瞳。
優しい笑顔。
青年は立ち止まり、石碑を見つめる。
「ここ、初めて来たはずなのに。」
「懐かしい。」
エリシアは思わず振り向く。
二人の視線が重なる。
春風が吹く。
どこかで、小さな鐘の音が鳴った。
青年は照れくさそうに笑う。
「どこかで、お会いしましたか?」
エリシアは少し考え、首を横に振る。
「……いいえ。」
少しだけ間を置いて、微笑んだ。
「でも。」
「また会えた気がします。」
青年も笑った。
「僕もです。」
名前は知らない。
思い出もない。
それでも、心だけは覚えていた。
二人は並んで歩き出す。
その頭上には、澄み渡る青空がどこまでも広がっていた。
そして空には、一つだけ。
昼間でも消えない、小さな星が静かに輝いていた。




