表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/10

プロローグ

プロローグ 終わりの日


空が、泣いていた。


雨ではない。


黒く濁った雲の裂け目から、星の欠片が静かに降り注いでいた。


それは美しく輝きながら地面へ落ち、触れたものすべてを白い灰へと変えていく。


森も。


川も。


街も。


そして、人も。


「もう……終わりなのか……」


老人は崩れ落ちた教会の前で空を見上げ、小さく笑った。


誰もが知っていた。


世界は今日、滅びる。


逃げる場所など、もうどこにもない。



世界の中心には、一つの巨大な塔が立っていた。


その名は《星見の塔》。


塔の最上階では、一人の少年が静かに目を閉じていた。


年は十六、七ほど。


漆黒の髪に、夜空のような深い青い瞳。


その瞳には、長い年月を生きた者だけが宿す静かな悲しみが映っていた。


彼の名は――レイン。


世界最後の魔法使いだった。


「本当に……これしかないんですね。」


背後から、一人の女性が声をかける。


白銀の髪を腰まで伸ばしたその女性は、涙をこらえながら微笑んでいた。


「レイン。」


「先生。」


彼女の名はノア。


人々から”賢者”と呼ばれた魔法使いであり、レインにとって唯一の師だった。


ノアはレインの隣へ立つ。


眼下では無数の人々が最後の祈りを捧げている。


「怖い?」


レインは少しだけ笑った。


「もちろん。」


「でも、誰かがやらなきゃいけない。」


ノアは何も言わなかった。


ただ、震える手でレインの肩に触れる。


「あなたは優しすぎる。」


「そうでしょうか。」


「だから、自分を犠牲にする。」


沈黙が流れた。


塔を揺らす轟音。


遠くで大地が割れる音。


世界が悲鳴を上げていた。


レインは塔の中心に刻まれた巨大な魔法陣へ歩いていく。


古代文字が青白く光り始める。


「先生。」


「うん。」


「もし、生まれ変われたら。」


ノアは微笑んだ。


「今度は普通の学生になりたいです。」


その一言に、ノアの目から涙がこぼれ落ちた。


「叶うよ。」


「きっと。」


レインは静かにうなずく。


「それなら……十分です。」


彼は魔法陣へ手をかざした。


世界中の魔力が、一つの光となって集まり始める。


空に浮かぶ星々が、一つ、また一つと消えていく。


代わりに、世界の中心に巨大な光の輪が生まれた。


それはやがて、一つの建物へと姿を変える。


石造りの校舎。


広大な庭園。


時計塔。


そして、そこに集う若者たち。


「アルカディア学園……。」


世界そのものを包み込む、最後の魔法。


その代償は――。


レイン自身の、すべての記憶。


「さようなら。」


眩い光が世界を包む。


その瞬間、ノアは泣きながら叫んだ。


「忘れない!」


「たとえ世界中が忘れても、私はあなたを――」


言葉は光に飲み込まれた。


世界は静かに、白く染まる。



「……起きろ。」


誰かの声が聞こえる。


「おい、新入生!」


肩を揺さぶられ、少年はゆっくりと目を開けた。


見覚えのない教室。


朝日が窓から差し込み、木製の机を照らしている。


「また居眠りか?」


教師の声に、教室中から笑いが起こる。


少年は慌てて立ち上がった。


「す、すみません!」


教室の壁には、大きく校章が掲げられている。


アルカディア魔法学園。


少年は自分の名前すら、ぼんやりとしか思い出せなかった。


「……レイン。」


その名だけが、不思議と胸の奥に残っていた。


窓の外では、一羽の白い鳥が空高く舞い上がる。


まるで、新しい物語の始まりを祝福するかのように。


――誰も知らない。


この学園が、世界最後の希望であることを。


そして、この少年自身が、その運命の鍵を握っていることを。


第一章「アルカディア学園」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ