密偵
模擬戦は、レオンハルトの完敗に終わった。彼の部隊は、レンたちの非効率的で予測不能な動きに翻弄され、完全に崩壊した。
「……信じられん。なぜだ? なぜ私の完璧な戦術が通用しない?」
レオンハルトは、悔しさに顔を歪ませた。彼は、レンの戦術を「データ」として完璧に分析したつもりだった。だが、彼が理解できなかったのは、レンがそのデータに込めた、「遊び心」と「人間性」だった。
レオンハルトは、レンの戦術が、単なる知識の模倣ではないことに気づいた。それは、この世界の常識を破壊する、未知の『概念』そのものだと悟ったのだ。
(レナードを侮っていた…。奴は大人しく飼い慣らされることはないだろう。好きにさせては危険だ!確実に倒せるように奴のことをもっと詳しく知らなければならない…)
その日、レオンハルトは、王都の貴族たちから「狂人」と蔑まれていた一人の女性を呼び出した。彼女は、膨大な知識を持つが、人間的な感情に乏しく、誰もが彼女の心を理解できなかった。
「エレノア・フォン・アークライト。お前は、この王都で最も『理解不能な存在』だと聞く。だが、それこそが、今、私が最も必要としている才能だ」
「お前に命ずる。レナード•アルバートに近づき、奴の全てを分析してこい」
レオンハルトは、エレノアに、レンの戦術の謎を解き明かすよう命じた。彼は、エレノアの「知的な冷酷さ」こそが、レンの「人間的な強さ」の正体を暴き、そして、いずれはレンを打ち破る鍵となると確信したのだ。
(レナード・アルバート……。貴様は、私の完璧な『ルール』を破壊する『バグ』だ。だが、その『バグ』は、私の『完璧なシステム』によって、必ず『デリート』される)
(いまはゼノス公爵が仕掛けている。それで潰れるならそこまでということ。しばらく見ているのも一興。ただもし『本物』だったら…それまでになんとしても上回らなければならない。)
レオンハルトの心に、新たな計画が生まれた。彼は、エレノアという駒を使って、レンの『心の隙間』を突き、彼を破滅へと追い込むことを決意した。それは、もはや単なる模擬戦ではなく、王国という巨大な『ゲーム』をかけた、壮絶な『情報戦』の始まりだった。




