独り占めしたいお兄様と、誇り高き妹
ダンジョンでの魔物討伐を成功させただけでなく、公爵をも失脚させたレナード・アルバートの名は、もはや王国中に響き渡っていた。
かつて「役立たず」と蔑まれていた兄が、今や英雄として称賛されている。
リシアは兄の活躍を心から誇りに思っていた。
街を歩けば、人々が「あれがレナード様の妹君だ」と囁く。その度に、彼女の胸は温かい光で満たされた。
だが、同時に彼女の心には、小さな寂しさが芽生えていた。
「お兄様……」
リシアがそっと部屋を覗くと、レナードは今日も誰かと話し込んでいた。王都の貴族、王国の騎士、そしてあの「炎の姫騎士」セリナ様や、王族の遠縁にあたるエレノア様。以前は、誰からも見向きもされなかったお兄様が、今ではたくさんの人に囲まれている。
リシアは、いつも一人で寂しそうに庭で石を並べていた、あの頃のお兄様を思い出した。あの「秘密の物語」を、自分だけが知っていた、あの特別な時間を。
(もう、お兄様は、私だけのお兄様じゃなくなってしまった……)
彼女は、小さく唇を噛んだ。
その日の夕食後、リシアは意を決して、兄の部屋を訪れた。ノックをすると、レナードが「入れ」と優しい声で答える。部屋に入ると、彼は書物ではなく、小さな木片を削っていた。
「お兄様、何をしているのですか?」
リシアが尋ねると、レナードは微笑んだ。
「リシアに、プレゼントを作っていたんだ。この前の模擬戦で、うまく指揮が取れたのは、リシアが昔話してくれた、あの森の地形を思い出したからなんだ。ありがとう」
レンの言葉に、リシアの瞳から涙がこぼれ落ちた。彼は、英雄として称賛されても、少しも変わっていなかった。いや、むしろ、以前よりももっと優しく、彼女の心を深く理解してくれていた。
「お兄様……! 嬉しい……。でも、もうお兄様は、私だけの秘密のお兄様じゃなくなってしまった……」
リシアは、素直な気持ちを口にした。レナードは、驚いたように目を見開いた後、優しく彼女の頭を撫でた。
「馬鹿だな、リシア。俺は、いつだってリシアのお兄様だよ」
そう言って、彼はリシアの肩をそっと抱き寄せた。その瞬間、リシアの心を満たしていた寂しさは、温かい愛おしさへと変わっていった。
(そうか、私は、お兄様がたくさんの人に知られてしまうのが、寂しかったんだ。でも、お兄様が、こんなにたくさんの人から必要とされて、愛されている……それは、私にとって、何よりも誇らしいことなんだ)
リシアは、兄の胸に顔を埋めた。彼女にとって、レナードが、そして彼の「秘密の物語」が、世界中で知られる英雄となったことは、寂しさよりも、大きな喜びをもたらした。
「いつか、お兄様が作ったお話を、私も一緒に作ってみたいです」
リシアの言葉に、レナードは嬉しそうに頷いた。
「ああ、もちろんだ。今度は、リシアの物語を、俺がみんなに語ってあげる」
リシアは、顔を上げて兄の顔を見つめ、満面の笑みを浮かべた。彼女の心は、もう「独り占めしたい」という寂しさではなく、世界で一番のお兄様を、みんなに自慢したいという、純粋な愛と誇りで満たされていた。
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