第113話 空と湖の戦い
湖のまえでアクアドラゴンのちび太郎と一緒に警戒していたケイの前にちらりと光るものが映る。見間違いか何かかと思うと、それらは高速でこちらに向かってくる。肉眼では視認できぬほどの超遠距離からの無数の矢による面攻撃。避けようもない一打だったが、後方にいたティアマトが竜巻を起こして、攻撃の軌道を変える。
「助かったで、ティアマト」
「強い攻撃にはクールタイムが長く決められているはずや。今のうちに距離を詰めるで、ケイ」
ケイとリュウがアクアドラゴンに乗り、湖の上を渡っていく。再度、超遠距離攻撃がくるも、リュウがアイギスのバリアを張って、アクアドラゴンごと守っていく。
「むっ、貴重な【リロード】を使っても、撃ち落とせぬとは」
「おっさん、次は俺に任せな」
「おっさんではありません。ですが、生半可な攻撃が通用しないとなると、後方支援に回るしかありませんな」
狙撃に失敗したマサトをカバーすべくキッドが飛び出していき、そのあとを【にゃんにゃんクラブ】のテイムモンスターが追っていく。キッドの目の前に移るは殴りがいのありそうな無敵のバリア。ドーピング強化したキッド自慢の一撃で殴るもびくともしない。
「かてえな!あんた、何て名前だ? 俺はキッドっていうんだ」
「ワイか? ワイはリュウや!」
「リュウか、良い名前だな。だが、ここは押し通らせてもらうぜ!ガイアクラッシャー!!」
一発限りとはいえ、ポセイドンの攻撃からも耐えたことのあるアイギスのバリアを打ち砕いて、リュウの目前に迫っていく。
(Chrisみたいな爆弾魔スタイルならわかるが、自ら殴りに行くか、フツー?)
(両手に盾? 変な武器構成だけど、俺も人のことは言えねえか!)
この広いEFOの中でも、型破りなプレイスタイルをしている二人が激突する。まずはキッドがリュウの盾を壊そうと、大降りにはなるが高攻撃力の技を繰り出そうとする。
「そんな大ぶりな攻撃、カウンターシールド!」
「ぐあっ……!?」
カウンター攻撃が決まり、後方へと吹き飛ばされたキッドに向けてアクアドラゴンの咆哮が放たれる。この攻撃を躱せないと覚悟を決めたとき、彼の前に何かが割り込む。キッドの身代わりになったモンスターは消滅するも、キッドは無事であった。
「タイマンバトルもいいけど、今回はチーム戦。ワンフォーオールの精神にゃ」
「ちぇ、わかったよ」
「良いこと言うわね~。だったらあたしも手助けしても良くて?」
「そのオネエ口調は……【リベリオン】のリーダー、紅蓮!」
「昔を思い出してつけた名前だけど、つばさちゃんで良いわよ~」
炎の翼で空を飛んでいるつばさちゃんが軽く火炎放射を放つも、海辺に潜ませていた正規軍の水棲モンスターが放つ水のブレスで消火される。
「ここは湖上。炎使いの苦手な水がわんさかあるにゃ。しかも孤立無援ときた。ここで確実に仕留めるにゃ!」
「あら、あたしって、逆境であるほど萌えるタイプなのよね~」
「どれだけ燃えても乗り越えられない壁を見せてやるにゃ」
「ウチのこと忘れたらあかんで。ちび太郎進化や!」
アクアドラゴンが進化してリヴァイアサンへと変貌する。前のPVPイベントでは水辺がなかったが、今回は周りに水が大量にあり、その真価を発揮できる状況だ。そんなリヴァイアサンの性能を知っているはずのにゃんぞうが薄気味悪く笑う。
「にゃにゃにゃ、教えてやるにゃ。この世の中に自分一人だけの専用スキルなんてにゃいことを!」
にゃんぞうが呼びかけると、湖中から数体のアクアドラゴンが現れ進化し始める。その姿はケイと同じリヴァイアサンであった。
「条件さえわかれば、リヴァイアサン軍団もできるにゃ」
「あら、それで余裕があったのね」
「だったら、元祖の力を見せたるで!ちび太郎、海中ならぬ湖中戦や」
リヴァイアサンと共にリュウとケイが湖中へと飛び込み、その後を追うようにリヴァイアサンや水棲モンスターを使役しているテイマーたちが飛び込んでいく。その場に残されたのは飛行系スキル持ちの人々のみ。
「ずいぶんと寂しくなったわね~」
「はっ、余裕をかましている場合はないぜ。死の宣告!」
つばさちゃんの頭の上にカウントダウンされる数字が表れる。陸上ルートと比べれば、正規軍の数は阿東的に少ないが、それでも1人で戦うには数が多すぎる。圧倒的に不利な状況にもかかわらず、つばさちゃんは焦りを見せない。
「ふふっ、確かジョーカーちゃんだったかしら。それを使うってどういう意味か分かっているのかしら」
「はっ、決まっている。ここにいるのはクリティカル率の高いメンバー。10回攻撃当てれば、確実に仕留めることができるってことだ」
「いいえ、違うわ。このあたしに10回も当てないといけないのよ!」
啖呵を切ったつばさちゃんが湖上で激しく燃え上がっているころ、湖中ではケイが複数のリヴァイアサンから攻撃を受けていた。
「ちょいと強い個体のようだが、1vs3を覆すほどではないようだにゃ」
「くっ……」
ケイのリヴァイアサンが音波のブレスを放つも、2体のリヴァイアサンがそれを相殺。残る1体のリヴァイアサンの攻撃が直撃し、ケイとリュウの身体を大きく揺らす。
「奥の手を温存しすぎて、このままやられる方がまずいで」
「わかった。予定より早いけど、切り札を使うで!」
「切り札?」
「ちび太郎、超進化や!」
ケイのリヴァイアサンの身体が青く光り輝き、黄金の鎧が装着されていく。メタル化したことで、一回り大きくなったメタルリヴァイアサンが軽く泳ぐだけで、リヴァイアサンを引き離せるほどだ。
「お、追いつけにゃい」
「スピードだけやないで。ちび太郎、トライデントエッジ!」
メタルリヴァイアサンがポセイドンのトライデントの力を宿した角に力をこめ、リヴァイアサンの体皮を容易に切り裂いていく。その圧倒的な力の差を見せつけられても、【にゃんにゃんクラブ】のメンバーの戦意は衰えない。なぜなら、【海竜神の加護】を手に入れたことで時間制限があることを彼女たちは知っている。それゆえに習得しているメンバー5人の内、2人はまだ温存させてある。
つまり、この勝負は粘れば勝ちなのだ。
血で赤く染まっていく湖を見たつばさちゃんはケイを心配する必要もなさそうだと考え、目の前の敵の処理に集中する。
「ちょこまかと逃げやがって!」
「あら、Arthurほどは逃げてないつもりだけど」
致命打どころか1発も攻撃を当てられず、冷静さを欠いているジョーカーに炎の拳をカウンター気味に叩き込む。死の宣告でHPが大きく減っている彼女に対し、一撃とはいかずもひん死には追い込めたようだ。だが、すぐさまキッドがポーションを取り出してジョーカーのHPを回復させる。
「このパーティーの回復役は可愛らしいボウヤかしら。なら、彼を落とせば、大分と有利にすすめそうね」
「なんかぞわっとしたぜ」
「いいわね~、その表情。お着換えさせたクロウちゃんといい、おねえさん、ゾクゾクしちゃう」
「なんかやだ!」
拒否するかのように殴りかかってきたキッドを炎をまとった右足で蹴り上げる。HITした股間を痛そうに抑えているキッドに対し、追撃しようとすると遠方から邪魔をするように矢が飛んでくる。
「あらまあ、あたしのアプローチが気に入らない彼氏さんがいるのね。ますます好きになっちゃいそう」
「お・こ・と・わ・り・だ!」
マサトがほんのわずかでも時間を稼いでくれたおかげで、キッドは態勢を戻すを取り戻すことに成功した。とはいえ、キッドのパンチを軽く躱してくるつばさちゃんをとらえることができない。
「よし、そのまま釘付けにしやがれ」
「カウンター使いでも挟み撃ちなら!」
「ふ~ん、悪くない一手ね。あたし以外なら!フレイムボディ」
身体全体か炎が噴出し、キッドとジョーカーを燃やし尽くそうとする。炎が噴き出た瞬間をみたキッドたちが距離を取ろうとすると、キッドに向かって突進してくる。マサトの遠距離攻撃をうっとうしそうに手ではじき返し、さらに距離を詰める。
「ここからがあたしの距離よ。フレイムチェーン!」
「炎の鎖!?」
「つかまえた。あとは燃やすだけよ」
「そうはさせるか、デスビーム!」
「ジョーカーちゃん、女と男のやりとりに口出しはダメよ。カウンターショット!」
ジョーカーに炎の弾が当たり、デスビームがキャンセルされてしまう。マサトの矢も先ほどから飛来しているが、先読みでもしているかのようにそれが当たることはない。
「というわけでフィナーレよ。フレイムチャージ!」
捕まえたキッドに炎をまとった体で突撃し、確実に仕留めにかかる。そして、キッドのHPが0になったことで、あたりにいる敵を見渡す。
「これで回復役はなし。時間もちょうどいい。フレイムレイン」
「こいつは逃げられねえな、湖の中に逃げるぞ」
降り注ぐ炎の雨から逃れるために正規軍が湖の中へと潜っていく。潜水系スキルはなくとも、ごく短時間ならば問題はない。さらにいうならば、メタルリヴァイアサンの存在を知らない彼らは湖中の戦いは有利に進んでいると思っているからだ。
だが、現実はそうでもない。ただの水棲モンスターは戦力外と言わんばかりにひき殺され、虎の子のリヴァイアサンはすでに2体倒されており、たった今、3体目が倒れた。そして、温存していたリヴァイアサンもすでに出撃して懸命にメタルリヴァイアサンに攻撃を加えている。
「あの金ぴかリヴァイアサン、硬すぎる!」
「タンクがいるからだろ。それにそろそろ息継ぎしねえとやべえぞ」
「仕方ない。浮上にゃ」
息継ぎするそぶりを見せない二人を疑問に思いながらも、テイマーたちが浮上していくと湖上から人影がこちらに向かっていく。どぼんどぼんと飛び込んでくる同志たちが邪魔をして、湖中メンバーの息継ぎができなくなってしまう。
「今、湖上に出ると危険だ!」
「と言われてもこっちも息継ぎしねえとおぼれ死ぬ!」
制止を振り切ってガバッと顔を出した正規軍に対して炎の弾が襲い、その身を焼き尽くしていく。
「まるでもぐら叩きね。スコア100点めざそうかしら」
制空権を握られた正規軍にもはや湖上を取り戻す余力は残っていない。このままおぼれ死ぬか、一か八か顔を出して逃げ切るかのどちらかだ。
「一斉に飛び出して逃げるぞ」
「それが良いにゃ」
正規軍が一斉に飛び出したところをつばさちゃんが用意していた広範囲攻撃が待ち受ける。
「これがあたしの切り札よ、フレアストリーム!」
炎が湖面を焼き尽くし、辺り一面を文字通り火の海へと変えていく。死の宣告でHPを減らしていたジョーカーを含め、中堅以下のプレイヤーがその火力で焼かれていく。生き残った手練れのプレイヤーに背後から攻撃を仕掛けるも、一目散に逃げる彼らに当てるのは徐々に難しくなり、つばさちゃんの追撃はあきらめこととなった。
「周囲に敵影無し。つばさちゃん、ありがとうな」
「ふふふ、そのレアスキルありきの美しくない作戦だったけどね。あたしの好きな作戦は貴方たちのサブリーダー発案のクロウ女装作戦ね」
「はじめて聞いたときはトチくるったかと思ったで」
「でも、空から見る限りはうまくいってそうよ。さてと、向こうの様子も気になるけど、あたしたちも退却しましょう」
湖ルートの初戦は正規軍の戦力の8割以上を失わせた反乱軍側の勝利をおさめ、彼女たちは城へと戻っていく。




