第112話 第3回PVPイベント開幕
PVPイベント当日。【桜花】と【リベリオン】が所属する反乱軍は西側の城を陣取り、数多くのクランが所属する正規軍は東側の城を陣取っている。ユーリたちは事前の打ち合わせ通りに、パーティーを組んで出陣し始める。
そんな彼女たちを遠方で見ていた正規軍所属の忍者部隊が素早く陣地に戻り、軍師であるキングに伝える。
「大半の戦力を南ルートに回しただと?」
「はっ、戦力的には8:1、残りの1は湖側の防衛といったところでしょうか。背後にティアマトと紅蓮、ケイがいますが、中央から動く気配なし」
「極端すぎるな。紅蓮は防衛の指揮だろうが、北ルートはArthurを始めとした少数精鋭の部隊なのか?」
「いえ、気づかれないようにしていたので、全員の顔をはっきりと把握したわけではありませんが、南ルートにArthur、アイリの2名が矢面に立っておりました。ティアマトの召喚獣も付き添っていたので間違いないかと」
「わかった。こちらも相応の戦力で迎撃する。南ルートの迎撃場所はアイリがいる以上、自軍との境界線内だ。君たちは引き続き監視を続けてくれ」
「御意」
忍者ロールになりきっているプレイヤーがどろんと姿を消して任務に就く。いつの時代も戦争を制するのは情報だ。当然、反乱軍側にもこちらの動向を探っているプレイヤーがいるだろう。だが、数と陣地の有利さがあるため、向こうには存在しない後出しの権利がある。今回はその権利をふんだんに使うことにした。
「戦力差は2倍。だが、こちらは俺の指揮に入らず動く輩も多い。その分を考慮すれば油断することはできない。北ルートの攻略には【サンダーバード】を主体、湖ルートの攻略には【にゃんにゃんクラブ】と飛行系スキル持ち、南ルートの防衛には【Noble Knights】主体で向かわせる」
「おいおい、俺たちも南ルートに向かわせた方がいいんじゃないか?」
「そうっすよ。明らかに北はこちらの戦力を減らすための陽動。最低限の人材派遣で十分っす」
「だからこそだ。相手には何をしでかすかわからない【桜花】がいる。万が一に備え、イレギュラーに対応できる人材は欲しい」
「わかった。そういうことなら仕方がねえな。北ルートをサクッとクリアして敵の本拠地に乗り込むか」
「ライチョウさんがそういうなら従うまでっす」
各々の思惑が絡み合う中、南ルートではArthurの前に自分がよく知っている顔が立ちはだかっていた。なるほど、顔見知りであれば本気を出せないかもしれないという心理的な一手かとキングの手腕を内心で褒め称えていた。
「だけど、僕は顔見知り相手ほど燃えるタイプでね。さあ、始めようか!悪逆非道たる圧政を引く政権を打倒し、反逆の意志を見せつけてやれ!」
「「「おおおおおおお!!」」」
「紫電一閃!」
Arthurが敵陣営に突っ込み、無防備な敵を切り捨てていく。そんな中、Lancelotの刃がきらりと光る。
「今日は勝たせてもらうぞ」
「いや、今日はやめておこう」
Lancelotの剣を軽くいなし、背後に立っていたかつての同志を切り捨てる。今はこの戦力差を埋めるために少しでも多くの敵を撃破することが優先であり、強敵と戦い白黒をつけるのはもう少し先だ。
「Aaaaaarthurrr!!」
「おっと、君はクールに見えて熱くなるタイプだから、気を付けないとね。さてと、Tristanはどこにいるかな」
Lancelotの斬撃を闘牛士のようにひらりひらりと躱しながら、近くの敵をどんどんとやっつけていく。この二人の戦いに巻き込まれないようにと移動すれば、人口密集地が自然とできる。
「ヒュドラブレス」
「乱舞の太刀!」
ユーリたちの範囲攻撃が加わり、正規軍のプレイヤーが倒されていく。本来ならば、ヒュドラブレスの毒による追撃もあるのだが、ここは相手の陣地エリア。毒は通用しない。それゆえに、倒しきれずに奥へと引っ込んでいくプレイヤーも中にはいた。
不安になったのか、ユーリはちらりと後方にいる『彼女』の姿を見る。今回は後方からの攻撃に徹してもらっているので、『彼女』の姿は混戦としたこの状況ならば、見づらいものとなっている。
(あとは北ルートの動向次第ね)
一方、そのころ、北ルートで進軍していた【サンダーバード】の面々は境界線内で待ち構えていると、なぜか全員お面をつけている怪しげな姿をした反乱軍を見つける。その意図はわからないもの、反乱軍も正規軍を認識しているのは同じ。互いに【遠視】のスキルを使って発見できる距離で立ち止まる。そこは魔法や技で攻撃するにはあまりにも遠い。だが、後ろを見せれば追撃できる距離と随分といやらしい場所だ。
「どうします? 大分ふざけた格好していますけど」
「どこの誰かは知らんが仕方がない。マサトがいればこの距離からでも攻撃できたが――」
「ハイグラビティ!シャドーミラージュ!」
超重力に縛られた彼らの背後から無数の『アイリ』の分身が音もなく現れる。そのありえない光景に一同が目をむく。
「魔王は向こうにいたんじゃ!?」
(まずい、完全に意表を突かれた!はやいこと、白魔導士にワープさせねえと!)
ライチョウが指示を出す前に浮足立っている【サンダーバード】のメンバーにヒュドラブレスなどの魔法をお見舞いしていく分身たち。その混乱に乗じて、反乱軍も突撃して遠距離からの魔法攻撃を与えていく。混乱が収まるまでのほんのわずかな時間、この時間だけは数で劣る反乱軍が有利な時間だ。
「ダーク師匠、【精霊の加護】!」
『はいよ!』
「一気に行くよ、カースインフェルノ!連続魔法でもう一度!」
フィールドが漆黒の炎に飲み込まれ、上級のプレイヤーでさえ無視できないほどの手傷を負っていく。無論、それはライチョウも例外ではない。攻撃に極振りしたことで、防御の低いライチョウはこの炎はただでさえダメージが大きい。
だが、この超重力を無理やり突破できるのも彼だけだ。目の前の炎を突っ切った先にいるのは、炎のリングの奥にたたずんでいる魔王アイリ。超重力でも動いてくるライチョウを視認した彼女はハイグラビティを解き、彼と対峙する。
「こちらの戦力を大幅に削られたからな、その落とし前はつけさせてもらう」
「そう簡単には負けませんよ!」
「俺もだ!」
アイリを含め魔導士職は接近戦が苦手と考えているライチョウは【加速】を使い、アイリに肉薄する。
「ダークフラッシュ!」
「っ……!目つぶしか!」
超重力を突破してきたライチョウがいるのは境界線の外。状態異常軽減装備を身に着けていない彼にとって、アイリは最悪の相手であった。だが、目をつぶされようとも気配でそれを察知し、アイリに向かって拳を振るう。
「うわ!? 【黄泉がえり】」
「残機はつぶせたな。流星拳!」
無数の拳が襲い掛かるのを見たアイリはシャドーダイブでライチョウの影に飛び込み、背後へと回る。だが、それを読んでいたかのように回し蹴りがくる。
「ミニマム!」
「躱された!? 今度はどこへ行った!」
「急成長!」
アイリの身体が小さくなろうと、植物の成長は変わらない。地面が割れるような音がしたライチョウはすぐさまその場から離れるが、後ろには炎の壁。リング際に追い込んだアイリはさらに追い打ちをかけようとする。
「アビスレイン!」
ぽたりぽたりと今度は黒い大雨がライチョウたちに襲い掛かる。微ダメージを継続的に受けるこれはPSがいくら高くても避けようがない。彼に取れる選択肢はもはやイノシシのように突っ込んで彼女に拳を叩き込むしかない。だが、彼にその選択肢を取らせまいと、後方から何かが突っ込んでくる。
(アイリちゃんのHPは風前の灯。だけど、相手にしたら間違いなくライチョウさんはやられる。だけど、俺っちのフェンリルならライチョウさんを魔法の効果範囲から逃げ出せるかもしれない)
イーグルにライチョウを助けてアイリを見逃すか、ライチョウを見殺しにしてアイリを倒すかの2択が迫られる。ライチョウさえ助ければ、挽回できるチャンスはいくらでもあると考えたイーグルはライチョウに手を伸ばす。
「ライチョウさん、逃げるっすよ!」
「ああ!」
「行かせないよ!ダークストーム!」
それはかつてアイリがファフニールにやられたことの再現。彼女によって乗騎を打ち消されてしまったイーグルが回復アイテムを使って体勢を立て直そうとしたとき、木の枝が突如伸びて後方にいるアイリ軍団の中に叩き込まれる。
「万が一に備えて【急成長】はまだ使用途中だったんだよ」
天高く伸び続けていた木を見ながら【急成長】を解く。アイリの分身の影に隠れてライチョウたちの姿は見えないが、とにかく今は一人でも多くの正規軍を減らそうとありったけの魔法を逃げていく正規軍へと叩き込んでいく。
そして、アイリの分身軍団の中に放り込まれたイーグルとライチョウは、目の前の分身を倒すも、火傷に毒・呪いのオンパレードでHPは風前の灯だ。
「回復アイテム使っている暇ないくらいにめちゃくちゃ撃ってきまっすね!MP、常人の倍くらいあるでしょう、あれ!」
「こんなことになるなら油断せずに状態異常対策しとくべきだった」
「まったくっすね」
「最初の攻撃で前列にいたヒーラーや魔導士は壊滅。ホークは後列の指揮に当たらせていたから無事だろうが……せめて、どのみちやられる俺たちが犠牲になって生き残っている連中を一人でも多く帰すか。どれだけいるかは分からんが」
「俺っちが突っ込む前に生き残っているタンクにファランクス使わせておいたから、全滅は免れてはいるとは思いますよ」
「なら価値はあるな」
彼らの尽力により、生き残っていた正規軍はライチョウ、イーグルを始めとする主戦力を失いながらも半数ちかくは帰還に成功する。
反乱軍も深追いすれば、より多くのプレイヤーを倒せたかもしれないが、アイリの存在がばれたことで援軍が来るかもしれないこともあり、程よいところで反乱軍も次の一手を撃ちながら撤退していく。




