第102話 骰子を振るのは…
ヴァルハラを探索していくアイリたちだったが、奴隷と化している人間たちをみると楽しんでショッピングというわけにもいかなかった。まずは彼らの長であるルシフェルと『裏切り者』発言について情報を集めることにした。
ただ、町の住民からの好感度が低いアイリたちは話しかけず、聖女であるミミから住民を話しかけて情報を聞き出そうとする。
「ルシフェル様のことを知りたいって? ルシフェル様の功績は多数あれど、やはりサタンを討伐したことさ」
「そのサタンさんのことについてしりたいです」
「僕は急いでるし、話が長くなるからなぁ……そうだ、天空図書館に行ってみるといい。あそこなら、いろんな書物が読める」
「ありがとうございます、天使のお兄さん」
「裏切り者? それは当然、人間に決まっているわ」
「どうしてですか?」
「私たちは神の御使い。裏切るような真似はしない。もし裏切った天使がいれば、その者の羽は黒くなって堕天使になるの。でも、ここにそんな人はいないでしょう?」
「周りの天使さんはみんな真っ白です」
「でしょう? だから、誰も裏切っていないって断言できるの。つまり、犯人は下等生物の人間よ。可愛らしいあなたは例外だけど」
「ありがとうございます、天使のお姉さん」
道行く人に尋ねながら天使の青年からきいた図書館へと向かう一行。その道中、ライチョウたちとすれ違ったので、ユーリが話しかける。
「ライチョウさん、まだヴァルハラにいたんですね。てっきり、ダンジョンに潜っているものかと」
「ダンジョン攻略もしているぜ。このあたりの敵は弱点攻撃で強化されたり、物理軽減持ちが多くてな。結構苦戦している。地上で通用していた単純な力押しもここで通用しなくなっているから注意しろよ」
「私たちも雲みたいなモンスターに結構ダメージをくらいました」
「クラウドか。あいつは属性攻撃を受けると、その攻撃に応じた形態へと変わる実に厄介だ。火・雷属性の攻撃を受けるとセキラーン、水・風属性の攻撃を受けるとタイフーンになる」
「そこまで言っちゃっていいんですか」
「これくらいの情報、すぐにわかる。ユーリからもいろいろと情報をもらっているし、ギブアンドテイクってやつだ」
「あと耳寄りな情報といえば、Bランク以上のプレイヤーがパーティーにいれば神殿に入れてルシフェルにあえてイベントがあるっす」
「俺たちは失敗したがな。謁見さえすればぼったくりはなくなるみたいだが……」
「あれは運が悪かったというより無理だとしか……それでは私たちはこの辺で」
ライチョウと別れ、図書館に入っていくとただ広い空間に本棚が置かれているのはどこの図書館でも同じだが、この図書館の場合本棚が宙に浮いていた。しかも、本棚から取り出した本はどういうわけかそこらに投げ捨てても、ぷかぷかと浮いて勝手に戻っていくようだ。
「スペースの有効利用かな……」
「いや、探しずらいし、とりずらいでしょ。アレ……」
「天使は空飛べるから気にしないのかも」
「飛行スキルが役立ちそうです」
「私はもっていないから、下の本棚探すよ」
手分けして目当ての本を探し、天界の歴史を簡単にまとめた歴史書を読み解いていく。そこに書かれていたのは……
「サタンってのが大昔にいた堕天使のなれの果てで、魔界と天界の戦争を裏で引き起こした張本人みたい」
「そのサタンを封印したのがルシフェルさんだね」
「サタンを封印した場所を深淵の門、アビスゲートと呼ぶようになったみたいです」
「ということはバエルの目的はそのサタンの復活かしら?」
「おそらくはね。次のレイドイベントはその2体の討伐かな」
「それまでには強くならないとね」
「はい、がんばります」
目標ができたところで、今度はライチョウたちから教えてもらった大理石造りの神殿へと向かっていく。Bランクプレイヤーがいるため、門番のガチムチ天使は彼女たちを神殿の中へととおす。案内人の天使の後をついていき、奥の部屋へと入っていくとそこには白い翼を広げた端正な顔立ちの銀髪の男性が玉座の前に立っていた。
「私の名はルシフェル。神の代弁者なり」
「はじめまして、ミミです」
「主君が認めた幼子よ、この度はどのようなご用件で?」
すごく丁寧な口調でミミに話しかけるルシフェル。天界の長とは思えぬほどの柔らかい物腰は彼女が聖女ゆえの対応なのかもしれない。
「奴隷さんにするのをやめてください」
「すまないが、それはできない相談だ。現に、天界に不満を持つ反乱分子をあぶりだすことができた。近々、この反乱分子を一掃する大きな戦いが起こるであろう」
「それは奴隷にしてきたからじゃないんですか!」
「黙れ、魔に魅入られし者よ!」
口出してきたアイリを一喝するルシフェル。職業によって対応が大きく変わるのはここでも同じようだ。いかに魔界や地上を統べていたソロモンやガウェインがまともな感性を持っていたかしみじみとわかる。
「幼子よ、この者たちと縁を切った方がいいぞ」
「アイリお姉ちゃんは仲間です!」
「そうか……」
ミミの拒絶にしょぼくれるルシフェル。どうにもきっぱりと断られるとは思っていなかったようだ。最初にあった威厳はどこかへと吹き飛び、ソロモン達と同格の存在とは思えぬほどだ。
「それならば仕方あるまい。貴公らがこの地にふさわしいものか一つテストしてやろう」
「6つの巨大サイコロ……?」
「骰子は神によって振られるもの。すなわち、骰子とは運命を決める道具である。互いにこの骰子を振り、目の合計が大きい者が勝者となる」
「同じ場合は?」
「貴公らの勝利で構わぬ。いくぞ!」
カランコロンと子供くらいの大きさを持つサイコロが転がっていく。そして、やがてサイコロが止まるとその目はすべて6。このゲームで最大の数値をルシフェルは叩き出したのだ。
「これって私たちが勝つには6のぞろ目しかないってこと!?」
「そうだね」
「どれくらいの確率なのよ」
「Aoi、今、計算しましたが、1/46656、0.002%です」
「狙った星5がすり抜けで出てくるような確率じゃない。無理っしょ」
狙って出せないような確率、1回限りのチャンス、そこにルシフェルのプレッシャーに飲み込まれて沈黙を保っている中、アイリが一歩前へと出る。
「私が振るよ、いいよね」
「わかった、アイリに任せる!」
「アイリお姉ちゃん頑張ってください」
「私たちの分もです」
「よかろう。好きなタイミングで骰子を振るがよい。その結果こそが主神の御導きなのだ。もっとも、魔に魅入られ、しかも貴公の運の低さでは到底不可能であろうがな」
「さっきからサイコロの目は神が決めるって言っていますけど、私たちの世界にはこういう言葉があるんですよ。神はサイコロを振らない」
「いいや、違うな。神がすべて決めるのだ。そして、闇の力を持つ貴公に神は微笑まない」
「それは違うよ。心の強さで決まるんだよ」
そして、画面に表示されたボタンを押してサイコロを1つずつ振っていく、まずは1つ目は6。ルシフェルは平然としている。
2つ目も6。これを見てもルシフェルはまだ平然としている。
3つ目の6。オカシラとのギャンブルでも引いた1/216の確率を再び引き、ルシフェルの表情が少しゆがむ。
「むっ……」
「どうしたんですか、まだ半分ですよ。それとも怖いんですか」
「はやく振るがよい」
「4つ目……6!」
「ぐっ……」
1/1296。ルシフェルの表情から余裕が消えうせていき、周りにいる仲間たちも手に汗が流れ、固唾をのんで5つ目のサイコロの目の行方をみる。
「5つ目も6!」
「馬鹿な!?」
1/7776。ルシフェルが出した奇跡的なぞろ目まであと1つ。彼の喉元まで差し迫ったサイコロという名の刃を見て、慌てふためくような声が出る。プレッシャーに押されたルシフェルの目にはアイリが出すまがまがしい闇のオーラが見え始め、おもわず1歩下がる。
「今、下がりましたよね」
「それが……どうした」
「ギャンブルは心の勝負。どんな確率であろうと少しでも動揺すれば、パックリと……喰われますよ。それで破産した人を知っています」
「私が……魔導士ごときに動揺しているだと……!?」
「ほら、隠せていない。だから負けるんですよ」
そう言ってサイコロを振ると出た目は当然のごとく6。サイコロという刃がルシフェルの喉元を貫き、彼に片足をつかせるのであった。
「ありえん……このようなことが……」
「私たちの勝ち!」
「神の導きならば仕方あるまい。私からスキルを伝授したいところだが……このスキルを使いこなせるのは幼子だけのようだ」
「わたしですか?」
「そうだ。このスキルを使えば文字通りの奇跡が起こるであろう」
ミミはスキル【神の奇跡】(自身以外のパーティーメンバーが存在し、なおかつ半分以上戦闘不能状態で、パーティーメンバー全員の最大HPと最大MPを半分にし、自身の命をささげることで奇跡を起こす。1日1回)を覚えた
「使い時がよくわかりません!」
「ピンチな時に使えってことなんだけど、余計ピンチになりそう」
「奇跡には代償が必要ということだ」
「がんばります」
「天使たちには貴公らの仲間をこの地にふさわしいものとして扱うように勅命を出す」
奴隷問題は解決していないものの店での購入やぼったくり価格がなくなるようだ。そして、ユーリがまだ探索を続けようとしたとき、アイリが彼女の首根っこを摑まえる。
「ユーリちゃん、今日はここまで!」
「ええ~!せっかくいいところじゃない」
「中間テストに向けてみっちりと勉強だよ。GWにゲーム合宿した分、しっかりやらないと」
「ゲーム合宿?」
「うん、あのレイドイベントって時間かかりそうだったから、アイリを私の家に呼んで一緒にあれこれ言っていたんだ」
「一緒にご飯作ったりしたよ」
「楽しそうです」
「Chrisたちも今度のレイドイベントのときやってみる?」
「夏休みかシルバーウィークの長期休みだったらいいわね」
「はい、楽しみにしてます!」
同じ県に住む女子高生4人は次のレイドイベントがいつになるのか、待ち遠しくしながらもログアウトするのであった。




