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第99話 Wレイドボスを攻略せよ!(後編)

 いよいよ、レイドイベントも折り返しの3日目。夜中組も頑張った結果、キャスパリーグはHP30%を下回り、日中の撃破も視野に入るほどだ。ゲート間近まで迫ってきているキャスパリーグのところへと向かおうとすると、アモンではなく巨大なエイが空を飛んでいた。


「アモンから仕事を引き継いだフォルネウスだ。俺のアクティブソナーがあれば見えない敵を瞬時に見つけることができる。臆病者のバルバトスなんざ、すぐに見つけ出してやるぜ」


 フォルネウスがパーティーメンバーに加わり、キャスパリーグへと挑んでいく。昨日と同様、ロビンフッドを引き離して戦っていると、突如キャスパリーグが棒立ちする。


「はっはっは、消えようとしたか。残念だったな、俺がいる限り、お前らの姿は丸見えだ!」


「消えようとした瞬間も攻撃チャンスになるのはありがたいな」


「ああ、すばしっこいからね。通常はカウンター気味の攻撃しかできない」


 これは思ったよりも早くキャスパリーグを討伐できるかもとプレイヤーたちが思い始めたころ、ロビンフッドを追う側も変化が起こっていた。


「消えてないから強力なテイムモンスターを優先して出せるで!」


「ほんとうにゃ」


「狙われるこっちは、ほんと勘弁してほしいですけどねえ!」


「だったら戦わなければいいのに」


「仕事はやり遂げるタイプ!ほら、朝の狩猟領域展開だ」


 まるで餌付けでもするような気軽さでロビンは自身のフィールドを展開していく。狩猟領域内まではフォルネウスのソナー能力が届かないのは残念ではあったが、再展開までの時間までに与えられるダメージ量は増えており、結果としてはロビンフッドのHPゲージは昨日よりも減りが早くなっていた。


「これで終わりにする。カリバーン!!」


 そして、その日の晩、ついにキャスパリーグが討伐されるのであった。


 3日目(夜中時点)

 キャスパリーグ撃破

 ロビンフッド:残りHP53%



 4日目。夜中組はキャスパリーグがいなくなったことで、全勢力をロビンフッドに向けることができ、日中組と同等の速度で削れるのではないかと考えられていた。だが、日中組が朝確認するとロビンフッドのHPは48%も残っており、あまり減っていなかった。


「というわけで第4回レイドイベント攻略会議を始めるよ」


 ホワイトボードには夜中組が残してくれた情報がきめ細かに書かれていた。そこに書かれていた内容とは――



 夜中プレイしていた【リベリオン】のアークたちは日中組の情報をもとにロビンフッドのHPを半分まで減らしていた。


「キャスパリーグもやられちまったし、こりゃあ王都攻略は厳しくなったか」


「降参するのか?」


「まさか。俺は狩人。お行事の良い兵士や騎士じゃないんだ。というわけでここから先はバルバトスとしての権能を使わせてもらうぜ」


「なに!?」


 これまで手抜きをしていたのかとアークは焦り、周りにどんな攻撃が来ても大丈夫なように微弱ながらも全体防御アップのバフをかける。勝手な判断ではあったが、見てからでは間に合わないこともあるため、一概に非難されるようなことではない。


「バルバトスには連れがいるっすよ。そいつらを呼び出せるのが俺の権能だ」


 バルバトスがホルンを持った悪魔4体を呼び出し、一斉に演奏をする。すると、バルバトスに攻撃力と防御力アップのバフがつき、プレイヤーのバフがはがされていく。


「獣は獣らしく本能で戦いな!」


「先に音楽隊を倒せば……なっ、矢が!? どこから!?」


 キャスパリーグの時よりもさらに頻度が上がったどこからともなく飛んでくる状態異常の矢も復活し、ロビンフッドの矢をまともに受けることになったプレイヤーたちは反撃もろくに通らないまま、次々と倒されていき、地上への侵攻を許すのであった。



「バルバトスの連れがそれぞれ攻撃力アップ、防御力アップ、強化解除、弓矢攻撃を司っているみたい」


「どの悪魔が担当しているかはわかるの?」


「見た目では判断不可。HPもそこそこ高いうえに全員倒したら即時復活したみたい」


「つまり1体だけ残してロビンフッドを倒せばいいってことだ。最悪は強化解除悪魔が残ることだ。この場合はもう一度悪魔ガチャをした方がいいだろうな」


「まだ時間は残っているし、それが無難かな。矢対策は初日と同じように状態異常耐性を幅広くつけよう。あとはあるかどうか分からない助っ人NPC次第」


 作戦も決まり、あとは出たとこ勝負だと気合を入れたプレイヤーたちがゲート前へ行くと、ゲートからロビンフッドが現れる。それと同時にプレイヤーの背後から馬に乗ってガウェインがやってくる。


「王様じきじきのお出迎えとは。俺も大分と出世したみたいだ」


「勘違いしないでもらおう。そこに悪があるのであれば、それを裁くのが私の使命。プレイヤーたちよ、私も共に戦いましょう」


 ガウェインがパーティーに入ったところで、戦闘が始まる。飛来してくる矢を聖剣から生じる炎で薙ぎ払いつつ、音楽隊の悪魔を歯牙にもかけず切り払う。次から次へとバフ・デバフがついたり、消えたりとステータス画面が忙しそうだ。


「夜な上にこれで腕が落ちたとか冗談じゃねえ!」


「ガウェインさん、1体だけ残すとかはできますか」


「それがあなたたちの作戦ならば付き合いましょう」


 3体をあっさりと葬ると、音楽隊の悪魔の背後に回ったガウェインが柄でコツリと殴り、昏倒させる。残ったバフは防御アップバフでダメージが通りにくくなるものの、強化解除よりかはマシといったところだ。


「ちっ、狩猟領域展開!」


 ガウェインとプレイヤーたちを闇のドームに閉じ込めるも、祭司たちが光魔法を使ってその場をパッと明るくして、ロビンフッドを闇に潜り込ませないようにする。防御アップや状態異常の矢のせいで平均的なダメージは小さいものの、昨日よりかは多くのプレイヤーがロビンフッドにダメージを与えており、相対的には昨日の日中とほぼ変わらないペースといったところだ。


「このままいけば、明日の朝で25%切るかどうか。最終日は午後6時終了だから、ちょっと時間的にきついかも」


「だが、ユーリ。攻撃力アップバフを残せばタンクは2発。アタッカーは確殺される。どっちが良いかは判断に迷うところだ」


「わかっているけど。もっと何か根本的な解決しないと負ける!キング、何か秘策はない?」


「考えている。だが、現時点ではこれが最適解だ。頭脳役の俺が言うのもアレだが、明日のNPCがガウェインよりも強力なユニットであることに期待するしかない」


「円卓でガウェインより強いっていえば、ランスロットとかアーサー王くらいしかいないでしょ」


「円卓以外かもしれないがな!」


 文句を言いながらも、ロビンフッドにこつこつとダメージを与えていくプレイヤーたち。だが、時間は残酷にも過ぎていく。



 最終日の朝。夜中組も頑張ってはいるが、日中組と比べると攻撃人数も少なく与えたダメージは少ない。それゆえ、ロビンフッドのHPは22%も残っていた。


「昨日の約半分。私たちは残された10時間で24時間相当のダメージを与えないといけない」


「結局、対策らしい対策は何もできなかったな」


「ロビンさんの領域内だとサンクチュアリが張れません」


「想定はしていたが……厄介だな」


 そして、王都の城下町を取り囲む白亜の壁とその門までたどり着いたロビンフッドと対峙する。昨日と同じくガウェインがパーティーに参列するが、肩で息をしており満身創痍。とてもじゃないが、まともに戦える状況ではない。


「さすがの王様も昨日の激戦でしばらくは動けないようっすね」


「貴様の眷属を倒す程度であれば……」


「それくらいならできるでしょうね。だけど、俺には届かない」


「くっ……」


 ガウェインが悔しそうに歯噛みしているとき、花びらが宙を舞う。荒野に似つかわしくない色の花が飛んで行った先にたたずむは一人の白魔導士。


「遅れてすまない。初めましての人には初めまして。僕は通りすがりの白魔導士。真名は故あって明かせないが、アンブローズと名乗らせてもらおうか」


「マーリン!」


「ガウェイン!だから君はいつまでも脳筋呼ばわりされるんだ。今の僕はアンブローズ。それ以上でもそれ以下でもない」


「……わかりました。マ……アンブローズ」


「というわけで、そこの脳みそが筋肉でできていてリスクヘッジもできない王に代わって僕が君たちを支援しよう」


「一言多いのは変わらずだ」


「少しは素に戻ってくれたかな。君は太陽に近づく前にもう少し足元を見た方がいい」


「……肝に銘じておきます」


「いくら伝説の魔導士といえども、俺の領域を突破することは不可能!」


「いくら僕でも領域に入った後にどうこうするのはできない。だけど、君はその魔法を多用しすぎた。ゆえに対策も講じやすい。その準備に時間は買ったけどね」


「何をしようとも無駄だ!狩猟領域展開!」


「星の加護を君たちに――」


 マーリンの放った光に包まれたプレイヤーに対し、狩猟領域を張っていくロビンフッド。だが、領域内にいるはずなのにテイムモンスターたちが消えない。


「いったい何をした!?」


「僕は白魔導士だからね、一定時間弱体無効状態を付与させてもらったのさ。さあ、あとは思う存分にやればいいんじゃないのかな」


「よし、みんな行くぞ!」


「テイマー殺しのクソ領域張りやがって!俺のゴリラでぶん殴ってやらあ!!」


「てぃらにゃん、おもいっきりやるにゃん。ゴーゴー」


 今まで苦しめられてきたうっ憤が爆発し、ロビンフッドに上級の魔法や技が飛んでくる。それどころか、息継ぎをするかのようにポーションをがぶ飲みしている。


「あ~、領域内で飲むポーションってこんなにうまいんだな」


「最高にハイってなりそうだ」


 あまりの恨みに頭のねじが外れたのか、目の焦点が合っていないプレイヤーもちらほらいる。ボコスカ殴られ、ロビンフッドのHPが急激に減少していく中、アイリはどの攻撃にしようかと迷っていたが、テンションがハイなプレイヤーたちが彼を羽交い絞めにする。


「ダーツしようぜ。お前、的な」


「はあっ!?」


「わかりました!ロンゴミニアド!」


「ちょっ、それ使う意味あるううう!?」


 絶叫するロビンフッドの腹部にまがまがしい槍が突き刺さり、彼のHPを0にした。



 HARDクリアおめでとうございます。

 通常報酬:スキルポイント100ポイント、ランダムスキル書1個、その他アイテム

 特別報酬:スキルポイント150ポイント、ランダムスキル書・上1個、その他アイテム

 を入手しました



「あ~いててて、参った。降参だ。あんたらには二度と逆らわねえよ」


「その言葉を信じるとでも?」


「そういうと思いましたよ、王様。だから、取引と行きましょうや」


「よほどの情報でないと取引するまでもなくその首が飛ぶと思え」


「怖い。怖い。こっちが教える情報は旦那……バエルの潜伏場所」


「なに!?」


 今までソロモンやガウェインが探しても見つからなかったバエルの居場所をロビンフッドは知っているという。それが本当ならば、彼を見逃すというのも一考に入れるほどの値千金の情報だ。


「どうっすか?」


「だが、それがでたらめかもしれない」


「この期に及んで噓を言う度胸はねえよ。どうだい?」


「わかった」


「取引成立で。旦那の居場所は魔界の最深部、アビスゲート。大昔に天界に住む天使によって封じられた深淵の悪魔サタンがいる場所だ」


「だが、あそこは大天使ルシフェルによって封印をし続けているはず。それにそこの封印が解かれたのであれば、ソロモン王も知っているはずだ」


「できないことができるってことはそういうことじゃないっすかね。じゃあ、俺はこのへんでお暇させてもらいますか」


「……天界か魔界、どちらかが、もしくは両方が裏切ったとでもいうのか!」


 疑心暗鬼にとらわれながらもガウェインはプレイヤーたちに天界の調査を命じ、新MAP【天界】が実装されるのであった。

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[一言] 更新お願い致します 願わくば愛の花束を
2022/08/20 00:22 テュルキエ
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