第100話 天界へ
天界。大昔、魔界と対立関係にあったが、長年に続く戦いで両者とも滅びかけたこともあり、互いに不干渉という立場に収まった。そして、魔界との戦争の反省もあってか人間たちに対しては聖職者を通じての干渉にとどめており、人魔大戦の折は露骨な干渉をせず中立的な立場を貫きとおした。そのため、一般人は天界をおとぎ話程度だと思っている。
「へえ~、それで天界のことを誰も話していなかったんだね」
「明らかに後付け感はあるけどね」
悠里は愛理の部屋で公式ホームページで更新されたSTORYを眺めていた。大型イベントや新MAPが実装されるたびに簡素ながらも設定が更新され、その中には新MAPの特徴も書かれている。
「ロビンフッドが領域魔法を使ったのも、新MAPのギミックの先見せだったみたい」
「天界だと神聖領域が常時張られているんだよね」
「敵・味方問わず状態異常にならないっていうデメリットよりもメリット効果が大きそうな効果なんだけどね~」
その効果が愛理にとっては悩みの種となっていた。彼女が扱う魔法の大半は状態異常系。ダークエンチャントによる底上げができるとはいえ、彼女の強みの大半を失われている。
「早く次のMAP来ないかな」
「掲示板だと天界は結構広そうなことも書いてあるから、大型アップデートならともかく1.5周年とか年始くらいまでは新MAPの実装はないと思うよ」
「半年以上先か~」
「特殊フィールドで戦い。面白そうだし、一緒にログインしようか」
「今日はGW遊んでいた分、勉強するんでしょう。中間テスト前なんだから!」
「うっ……息抜き。息抜きでちょっとだけ」
「今、休憩時間なんだけど……」
「GW明けからの新MAP、お預けは辛い」
「もうしょうがないなぁ。一緒に勉強会しようって聞いたときにこうなるんじゃないかなって思ったよ」
「さすが!はなし、わかるぅ!」
愛理と悠里は一緒のベッドに寝転んで、ゲームを起動させる。そして、ガウェインから天界の調査依頼を受けると、二人の体は光に包まれる。そして、目を開けると青空と一面の雲海が広がっている。
「ユーリちゃん、雲の上に立っているよ」
「こういうところに来るとおとぎ話の世界に入った気分。でも、どこも同じような風景だから迷わないようにしないと」
「そうだね。建造物も少なそうだし」
「首都ヴァルハラはこっちの方角か」
二人がふかふかの道を歩いていると、雲でできた岩?を背もたれにして日向ぼっこしているChrisと呆れた顔のAoiの姿がいた。
「なにしているの?」
「この岩。ちょうどソファーみたいな寝心地で気持ちいいですよ」
「もうChrisったら……」
「これからヴァルハラに行くつもりなんだけど、一緒に行かない?」
「Chris、休憩終わり!」
しぶしぶといった様子でChrisが立ち上がり、4人パーティーでヴァルハラへと向かっていく。その道中、かわいらしい雲形のモンスターと遭遇する。雲のモンスターの口から、モクモクと煙を吐き出すと突如として雨が降り出す。
「毒にならないのに、ちょっとずつHP減っているよ!?」
「多段攻撃系の魔法みたい。早く倒そう」
「水には雷か土で。レッドエンチャントマジック、ギガサンダー!」
雷によって霧散していく雲モンスター。あまりの手ごたえのなさに拍子抜けしていた4人だが、天界早々の戦闘、いきなり強いモンスターが出るわけもないかと思っていた。だが、4人が目につく雲モンスターをあらかた片付けたとき、彼女たちは異変に気付く。
「あれ? 経験値が入ってない」
「本当だ。ってことは……」
目の前でモクモクと雲が巨大な積乱雲のような灰色の魔人になって、頭上から強い雨と強力な雷を降らしてくる。パーティー全員にあたった雷は、防御力の低い彼女たちの3~4割削り取る。
「帯電している間に倒さないと、もう一度雷攻撃を仕掛けてくるってわけね」
「雷は特殊属性ですから、地属性が弱点なはずです」
「水も地属性が弱点だし、有効そう。ここは私に任せて。土遁・岩雪崩の術!」
「手数の多さなら、私もありますよ。レッドエンチャントパワー、ロックスピアー!」
頭上から落ちてきた岩石でひるんだ積乱雲に岩石の槍が突き刺さって、帯電していた電気が地面に流れていく。力を失った積乱雲は消えてなくなり、バトルが終わる。
「ふう、まさか雑魚モンスターでも2形態目が存在するなんて思わなかったわ」
「ダメージも大きかったです」
「頭上からの攻撃だから飛んでもあまり意味がないのも……」
「火の鳥をだしても、雨で瞬殺だろうね。ほんと、使いどころが難しい子」
「雨で爆薬が使えません……」
Chrisもメイン攻撃が封じられていたらしく、別の攻撃手段を考える必要がありそうだった。地上や魔界とは勝手の違う攻撃方法に苦戦をしながらも、4人はヴァルハラへとたどり着く。パルテノン神殿のような大神殿が町の中央にあり、そこに続く道には活気のある市場が広がっていた。見かける人たち、そのほとんどが羽の付いた天使のようだ。
「へえ~、天使が住むって聞いたけど人もいるんだね」
「なんだか古代ギリシャ人って感じの風貌」
「人には黒い首輪がついてますね」
「ほんとうだ」
必死に売り子をしている男性や店員には首輪がついているのに対し、天使にはついていない。人と天使を分けているのだろうかと思いながら、アイリたちはアクセサリー店に入る。
「すみません、ネックレス系のアイテムってありますか?」
「それなら、ホーリーチョーカーが――」
「貴様、何をしている!」
「わ、私はただお客さんに……」
「魔界の者に物を売る必要はない!」
店の奥から出てきた女の天使が指パッチンすると、店員の首から電撃がほとばしり、店の中に悲鳴が響き渡る。店員が気を失うまで続き、ぴくぴくと痙攣したソレを店の外へと放り投げる。
「大丈夫ですか?」
「Chris!」
「わかっています。麻痺治しとポーションを飲ませます」
店員を治療していくと、店員のおじさんが目を覚まし、ゆっくりと起き上がってふらふらと店へと戻ろうとするので、引き留める。
「まだ傷がいえていません」
「いえ、大丈夫です。戻らないと……私にはここしか…………」
バタッと倒れてしまう店員のおじさんを見て、近くにハートマークの看板を掲げた病院へと連れていく。だが、受付の女性からはきっぱりと断られてしまう。
「どうしてですか?」
「ここは傷ついた我々、天使が癒す場所。たかが人間が治療を受けられるとでも?」
「病人を助けるのが病院の仕事のはずです」
「ふん、人間なぞ地上から勝手に生えてくるではないか。捕まりたくなければ今すぐ帰ることだな」
門前払いされた4人はギルドの寝泊りスペースを借りようとなぜか天界にもある冒険者ギルドへと向かう。受付をしている男性が天使なのをみて嫌な予感をしつつも、テレポーター登録と一室借りようとする。
「はあ、なによこの価格!私とアイリだけ登録料500万Gとかふざけているの!」
「私たちも100万G取られます……」
「ルールなので」
「いくらなんでもおかしいわよ。魔界でもこんなぼったくりしなかったわ」
「わかりました。4人とも平等に1000万Gで手を打ちましょう」
「ふざけているの!」
「どうしたんですか?」
ユーリがクレームを言っているとき、ミミがやってくる。何があったのか事情を聞いた後、ミミが受付の人に話しかけると、急に改まったような態度に変わる。
「ユーリお姉ちゃんたちを困らせたらだめですよ」
「い、いえ聖女様。この人たちからは魔の気配が……そこの黒づくめの女からは特に、もしや、ルシフェル様の言っていた裏切り者かもしれません」
「えっ、私!?」
「アイリお姉ちゃんは良い人です。そんなことはしません」
「……わかりました。貴様ら、聖女様を敬うんだな」
捨て台詞を吐くと、無料でテレポーターの登録とギルドの一室を借りることができた。ミミの威光にユーリが「ありがたやありがたや」と手を合わせて拝んでいると照れくさそうにする。部屋のベッドでおじさんを寝かせた後、先にヴァルハラについていたミミから情報を聞くことにした。
「ここだと聖職者とそれ以外で待遇が変わるみたいです」
「魔界の殴る・殴らないルートみたいな感じね」
「あとは誰かがアビスゲートの封印を解いたということで、大天使長のルシフェルさんが『この中に裏切り者がいる』と宣言したそうです。それで一番信用できない人間に首輪をつけているみたいです」
「差別意識が残っているところに、奴隷化しちゃったわけね」
「話している感じでも天使が一番って感じだったね」
「これ、天使の人が裏切り者だったらどうするんですか?」
「まだそのルシフェルっていう天使に会ってないから何とも言えないけど……まあ、うん」
ユーリの歯切れが悪くなり、心配そうに声をかけるアイリだったが、必死に首を横に振る。
「こういうゲームでネタバレはNGだから!」
「そうよね。ルシフェルといえばね……」
「「「?」」」
ゲームの経験や知識が乏しいアイリとChris、ミミの3名は頭の上に疑問符を浮かべている。よくわからないユーリとAoiの行動に困惑しつつも、しゃべらない方が楽しめるのであればそうした方がいいと考え、天界の探索を続けていく。




