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四人の勇者

 俺の目の前に現れた四つの影柱は、陽炎のように揺らめいていた。その刹那、人の形にその姿を変えていった。


「······何だ?これは?」


 俺は血を滲ませた口から驚愕の声を漏らす。四つの影柱は、四人の黒い甲冑の騎士達に変わった。


 一番右端に立つ騎士は黒髪の男だ。三十代前半にみえる。両眼は眼光鋭く、腰に据えた剣は異常に長かった。


 その隣の騎士は黄色い髪の若い青年だ。穏やかそうな顔をしている。右手に持つ金色の槍は美しく装飾されていた。


 更にその隣の騎士は二十代半ばに見える女だ。茶色く波打つ長い髪を揺らし、細身の剣を握っている。


 一番左端の騎士は、三十代後半に見える男だ。四人の中で一番大きい体躯をしており、右手と左手にそれぞれ戦斧を握っていた。


「紹介しよう。我が禁術の粋を集めた芸術的作品。過去に存在した伝説的勇者達四人だ」


 ハーガットは自己陶酔の極みと言った体で自画自賛する。コイツの陶酔はどうでも良かったが、目の前の四人が過去の勇者だと?


「長剣使いの勇者ミザーグ!金色の槍使い勇者マラクト!女勇者ハサレン!両戦斧の鬼神、勇者ガッザム!さあ!余の為にこの最終劇を彩ってくれ!!」


 ハーガットによって甦らされたかつての勇者達は、各自の武器を構え動き出す。狂気王の言う通りなら、俺の前にはアークレイが四人立ちはだかっているのと同じ事になる。


 ······どうすればいい?ラークシャサに脳を食わせた力で、この四人とハーガットを同時に倒せるのか?


 そんな確証は俺には無かった。ハーガットは最強の。そして最悪の壁を俺の前に出現させた。


「······待て四人の勇者達よ。草原の戦いが終局を迎えるようだ。先ずはそれを見届けるとしよう」


 ハーガットの静止により、四人の勇者達は歩みを止める。ハーガットの不吉な言葉に、俺とレファンヌはハーガット軍とガレント連合軍の戦場を見た。


 ······戦いは正にガレント連合軍の総崩れに陥っていた。連合軍の兵士達の戦意も。アークレイの仲間達の勇姿も。


 数に置いて倍異常のハーガット軍に対して、対抗するには限界を超えたのだ。ガレント連合軍の陣形は崩壊し、残された道は撤退しか無いと思われた。


 その時、聞き慣れない音の銅鑼がガレント軍陣営から鳴らされた。その音は一度。二度。三度と鳴らされ俺達の耳に届く。


「ふむ?戦場の様式とは異なる種類の銅鑼の音だな。あれは何の合図だ?」


 知らぬ事には知的好奇心が刺激されるらしい。ハーガットは指を顎に当て考え込む。


「······あれはドルト将軍から私への合図よ」


 レファンヌがハーガットを睨みながらそう言った。あ、合図?将軍から?一体何の為の?


「ほう?金髪の聖女よ。それは何の合図なのだ?」


 ハーガットが素直に疑問を投げかける。その狂気王に、レファンヌは不敵に笑った。


「ガレント連合軍の死傷者が五割を超えた合図よ。数は揃ったようね」


 レファンヌはそう言うと、袖のをめくり手首からブレスレットのような物を外した。


「ハーガット。このブレスレットに見覚えがあるかしら?これはアンタの部下である、あの馬鹿大声男から奪った物よ」


 レファンヌがそう言った瞬間、ハーガットの表情が凍りついた。俺は思い出した。あれは、街に攻めて来たシャウトから奪ったブレスレットだ!


 ハーガットは街や村を蹂躙した後、死人を死霊に変えて自分の兵にする。だが、逐一ハーガット本人が戦場に赴いて死人を死霊に変える訳には行かない。


 そこで、ハーガットは部下にこのブレスレットを持たせた。狂気王特製のこのブレスレットは、一度だけ死人を死霊に変える力を持つ。


 俺はレファンヌにシャウトからこのブレスレットを奪えと命令されたが、あの時は何の為か分からなかった。


「金髪の聖女よ。そのブレスレットを使い、戦場の死者を甦らせるつもりか?だが、例えそうしても、我が軍との戦力比は覆す事は不可能だ」


 ハーガットのそれは、思慮の足りない生徒を諭すような教師の様な口調だった。


「ガレント連合軍の死者だけならね」


 レファンヌは再び冷たく笑った。その時、ブレスレットが青白く輝いた。レファンヌはそれを戦場に向けて投じた。


「ブレスレットの使用方法は魔力を少し込めるだけ。そして甦った死霊はブレスレットの使用者の命令を聞く。あの馬鹿大声男が教えてくれた事よ。本当に便利な道具を作った物ね。狂気王さん」


 レファンヌが三度、人の悪い顔で笑う。青白く輝く光は、戦場全体に広がって行った。そして異変が起きる。


 ······それは、地鳴りのような音だった。微かな振動が足元に伝わった後、俺は戦場で信じらない光景を目にする。


 戦場の地中から、土と草を掻き分け人の手が出て来た。やがてもう一本の手が地上に姿を表し、両手を使い土を払い身体を地中から抜き出す。


 土だらけのその頭の下の両眼は、虚ろな死霊のそれだった。

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