鮮血の道
レファンヌの氷結の呪文によって両足が凍りついた四つ目の化物は、その足を接着した氷塊から抜こうと全身を動かす。
四つ目の常識外れの力によって、氷結部分が軋み小さい亀裂が生じて来た。
「······長くは持たないわね。この四つ目は直ぐに動きだすわ」
左肩から血を流すレファンヌが、カミングを警戒しながら四つ目を一瞥した。その時、優男の頭上から火球が飛来して来た。
カミングは素早く横に回避する。火球は優男が立っていた場所に直撃し四散する。俺は顔を上げて空を見ると、そこには赤髪短髪のビンセントが浮遊していた。
「カミング!!てめぇ!ハーガットに寝返るとはどう言う事だ!!」
意識を取り戻したビンセントは、傷だらけの身体を物ともせず同族の裏切りを断罪する。
そして、今度はカミングを雷撃の呪文が襲う。優男は魔法障壁でそれを防ぐ。雷撃が見えない壁に当り、光の雨を乱舞させる。
「······許さないわよカミング。命を落とした仲間達に誓って」
雷撃を唱えたのは、同じく意識が戻ったメルダだった。メルダもビンセント同様、満身創痍の筈だった。
しかし、一族を裏切ったカミングへの怒りがメルダとビンセントを突き動かす。
「······メルダ。ビンセント。そのまま気を失ってて欲しかったな」
カミングは弱々しく微笑み、静かにそう言った。それを合図に、メルダとビンセント。カミングの戦いが始まった。
そして、俺の頼もしい仲間達も再び動き出した。四つ目のアキレス腱を狙い、赤毛の少女が戦斧を振るう。
だが、相変わらず四つ目の硬い皮膚は傷一つつかない。
「諦めない!同じ箇所を何度も狙えば!!」
マコムが叫びながら再び戦斧を四つ目のアキレス腱に叩き込む。その四つ目の背中に今度は黒い光の鞭が直撃する。
「······よくも私の漆黒の鞭を貶めてくれたな。我が鞭の失地を回復させてやるぞ」
メルサルが美しい両眼を鋭く光らせ、自らの最大の武器の名誉を取り戻そうとする。最後は俺とレファンヌの後ろに、不良勇者が現れた。
「······やれやれ。ちと面倒だが、あの四つ目を何とかしてメルサルにいい所を見せんとな」
アークレイがヒズケイトのようにぼやいて見せた。マコム。メルサル。アークレイ。三人共にダメージを負い、決して身体は万全では無い筈だった。
俺はこの時、アークレイがヒズケイトの戦いの際見せた力を思い出した。アークレイが手にした剣の光が、不良勇者の身体全体を包んだ力だ。
「あれは駄目だ坊主。あの力を使うには、ダメージを受け過ぎた」
アークレイがため息を漏らしながらそう言った。勇者と呼ばれる者が使える光の剣。だが、その勇者の力を超える者が数百年に一人生まれると言う。
その者は剣の光を全身に纏わせ、巨大な力を操るらしい。
「俺はその数百年に一人の逸材なのさ。歴史的人物に会えて幸運だぞ?坊主」
アークレイは片目を閉じ人の悪い笑みを浮かべた。重い筈の身体を引きずり、不良勇者は四つ目の立つ場所へ向かって行く。
「キント。私達はハーガットの首を取りに行くわよ」
戦況を瞬時に判断し、レファンヌはやるべき事を迷わない。この金髪の聖女はいつもそうだ。
凛々しくも好戦的なその瞳は、真っ直ぐに先だけを見ている。
「······聞いてくれレファンヌ。俺は正直レファンヌの事を最初は酷い女だと思っていた」
俺は死ぬ前に、最後にレファンヌに感謝の言葉を言うために語りかける。
「何よキント。今はそんな事を話す状況じゃないでしょう」
抗議するレファンヌに構わず俺は続ける。
「今も思っているんだ。レファンヌは性格が好戦的で乱暴だ」
俺はレファンヌの過去の暴言や破天荒な行動を思い出しながら言葉を発した。
「······キント。アンタ笑いながら私に喧嘩を売ってんの?」
レファンヌに指摘され気づいた。俺は笑みを浮かべて話していたらしい。
「違うよレファンヌ。俺はレファンヌに感謝しているんだ。死霊から半分人間に戻してくれた事。一緒に旅をした事。全部にだ」
俺の感謝の言葉に、金髪の聖女は少し戸惑ったような表情になる。
「変な事を言ってないでキント。まだ戦いは終わって無いわ。礼なら全部終わってからにしなさい」
レファンヌは俺の話を打ち切り、狂気王の立つ方へ歩き出す。
「······ああ。終わらせよう。全部」
俺はラークシャサを握る手に力を込めた。俺の命を使った最後の戦いが始まろうとしていた。




