最上階で待つ者
ハーガットの三忠臣、ヒズケイトとベロスが倒れ、二階の闘技場でも俺達が勝利した。
ヒズケイトに背中を斬られたアークレイは、立ち去るメルサルを追いかけようとして片膝を地に着けた。
致命傷では無いとは言え、アークレイの傷は浅く無いようだ。
「メルサル。お前を助けようとして受けた名誉の傷だ。治癒の呪文をかけてくれるか?」
「私を騙そうとして受けた自業自得の傷だ。自分で治せ破廉恥男」
アークレイの申し出を即座に無下に断るメルサル。不良勇者は苦笑しながら、自ら治癒の呪文を背中に施した。
「······驚いたな。まさかヒズケイト様とベロス様を倒すとは」
ここまでの俺達の戦いを見届けてきたロコモ大尉は、表情に驚きを隠さなかった。
「······勝利は勝利だ。約束通り君達をハーガット様の待つ最上階に案内しよう」
ロコモ大尉はそう言うと、最上階へ繋がる階段を登り始めた。俺達八人は改めて気を引き締める。
ついにこの世界を滅ぼそうとしている元凶に再び会えるのだ。俺がハーガットに対面するのはこれで三度目。
今度こそ。今度こそ奴を倒す。どんな事をしても。どんな手段を用いても。狂気王によって望まない死を強制された人々の為に。
「キント。顔中に殺気が出ているわよ。身体の力を抜きなさい」
俺の前を歩くレファンヌが、振り向きもせずに忠告して来た。レファンヌの心中は今どんな状況なのだろうか。
表面上は至って冷静だ。ミデットの死霊を躊躇せずに倒した所を見ると、レファンヌはハーガットの小細工に動じないと思われた。
程なくして俺達は最上階の闘技場に上がった。中央に立っている物がいる。金髪の長い髪。やせ細った頬に冷たく体温を感じさせない両眼。
黒い衣服とマント。右手には、黒い杖を握っている。俺達。否。全世界の人々がその死を願っている狂気王ハーガットだ。
「······おお。ロッドメン一族達よ。我が忠臣達を退けて、よくぞこの最上階まで参った。余はそなた達の······」
無駄に感動している様子のハーガットの台詞は途切れた。いや、強制中断された。レファンヌが手にした銀の杖を狂気王に向け、爆裂の呪文を唱えた。
俺は前言を撤回する事にした。レファンヌは憤怒の表面をハーガットに向けていた。想い人を二度に渡って弄ばれたのだ。
レファンヌの怒りは当然だろう。冷静で要られる筈が無かった。
闘技場の中央で大爆発が起こる。風と煙が舞い起こる中、ノホット。メルダ。ビンセントが素早く散開する。
魔法障壁を張ったのだろう。ハーガットは無傷だった。狂気王は悲しそうに首を横に振る。
「······おお金髪の聖女よ。余はそなたの怒りを感じるぞ。その怒りは、此度の余の劇場に鮮烈な彩りを与えるだろう。だが言わせて欲しいのだ。余のそなた達を称賛する言葉を」
相変わらず意味不明の言葉を発するハーガットの演説は再び強制中断される。狂気王を囲んだロッド一族の三人が呪文を発動させたからだ。
「ハーガット!お前は言葉を語るな!」
メルダは怒りの表情と叫び声と杖をハーガットに向けた。ノホット、ビンセントもそれに倣う。
「古代呪文!「魔力封印」!!」
メルダ。ノホット。ビンセントの声が重なる。三人の杖から青白い光が飛び出し、ハーガットの身体を包み込む。
「······おお。魔力が。魔力が練れない。希少な古代呪文を三人同時に唱えるだと?何と。何とそなた達は優秀なのだ?」
自分の両手を見つめながら、ハーガットは敵の呪文に驚きと称賛の声を上げた。
「この古代呪文を使える私達三人を殺しそこねたのがお前の運の尽きよハーガット。お前はもう一定時間魔法を使えない」
メルダか力強く宣言した。魔力を封じられた魔法使い。それは、戦う術を失い確実な敗北を意味していた。
俺とマコム。そしてアークレイが武器を構え、ハーガットに突入しようとした。ここ迄は、当初の計画通りだった。
「キント。あの白髪白衣の男がまだ居る筈よ。油断しないで」
レファンヌが周囲を警戒しながら俺に忠告する。俺は頷きながらラークシャサを腰から抜き走り出した。
俺の左右にはマコムとアークレイが並走する。レファンヌとメルサルは不測の事態に備え、遠距離攻撃の準備をする。
「おお。余はそなた達を招き、我が人生最高の劇を作り上げるつもりだった。それが開幕早々、余の魔力が封じられるとは?なんと。なんと言う劇なのだ。まるで濁流のような余の半生を象徴するかのような風景だ」
ハーガットはいよいよ口走る事も狂気地味で来た。俺は奴の戯言を聞き流し、ラークシャサを握る手に力を込める。
「ハーガット!!今度こそお前を倒す!!ラークシャサ!!」
俺は神喰いの剣に叫ぶ。ラークシャサの柄から飛び出した三匹の蛇が俺の腕に噛み付く。すると、ラークシャサの黒い刀身が紅い光に包まれる。
そして、俺達の予想通りの事が起こった。この最上階である闘技場の床が至る箇所で開かれる。
そこから、黒い甲冑の死霊が次々と現れた。死霊達はノホット。メルダ。ビンセントに群がって行く。
「ノホット!ビンセント!飛ぶわよ!!」
メルダが叫び、風の呪文の応用で三人は空に浮き上がる。死霊達の狙いは分かっていた。ガレント連合軍の兵士達にしたように、自爆攻撃をするつもりだ。
「死霊共が!魂胆は分かってんだよ!」
ビンセントが死霊達に杖を向けた。その時、赤髪短髪の若者は地上にかかった影を目撃した。
俺達もその影を見て怪訝に感じた。今日は雲一つない晴天だ。地上に影を落とす雲でも急に現れたと言うのだろうか?
俺は顔を上げて一瞬空を見た。そこには、雲など存在していなかった。在ったのは、黒い羽を生やした死霊達だった。




