決闘
俺は直ぐに大広間を出て城外に出た。目の前には、レファンヌとメルダが距離を置き向かい合っていた。
「······レファンヌ。貴方は初めて会った時から気に入らなかったわ。聖女候補をいい事にやりたい放題。何が聖女候補よ。一族のいい面汚しよ!!」
メルダが怒りの表情でレファンヌを弾劾する。だか、弾劾された方は蚊に刺された程も動揺していなかった。
「奇遇ねメルダ。私も学園で風紀委員なんてやってるアンタが気に食わなかったわ。お決まりの規則。守るべき掟。一族の名誉と歴史。そんな下らない物にがんじがらめ。同情を通り越して目障りだったわ」
レファンヌの反論に、メルダは両目から火花が散ると思われる程鋭くなる。
「生意気なのよ!!一年後輩の癖に!!」
メルダは杖をかざし、火炎の呪文を唱えた。大きな火球が唸りを上げてレファンヌを襲う。
レファンヌも銀の杖を振るい、メルダと同じく火炎の呪文を放った。二つの火球がぶつかり合い、四方に炎が拡散して行く。
「レファンヌ!貴方は聖女候補じゃ無かったら、とっくに一族から追放されていたわ!!長老達の期待を裏切り、一族を軽んじた!何より年長者に敬意を払わない!!それが一番腹が立つのよ!!」
メルダ絶叫しながら次々と呪文を繰り出す。それはどれも凄まじい威力だった。吹雪の呪文は大地を凍らせ、風の刃の呪文は地面ごと切り裂き、爆裂の呪文は広範囲に渡って草原を焦土に変えた。
俺が見る限り、メルダの呪文はレファンヌのそれを凌駕していた。
メルダの呪文の威力にレファンヌは明らかに押されていた。こ、これが十法将の力か。俺は改めてロッドメン一族の力をまざまざと見せつけられた。
そんなレファンヌが魔法障壁を多用し、少しずつメルダに近づいている事に俺は気づいた。レファンヌは接近戦に持ち込む気か!?
俺の予想通りレファンヌはメルダとの間合いを一気に詰め、銀の槍の先をメルダに向ける。
レファンヌの槍の先端は鋭利な刃物になっている。メルダはそれを自身の杖で受け流す。二人の女は互いに金髪の髪を振り乱し、杖を武器としてせめぎ合う。
······二人の怒りの根源は何だろうか。俺は二人の戦いを眺めながらそんな事を考えていた。
メルダは当然仲間を失った為だろう。それに、ハーガットに敗れた事によって一族の名誉も傷ついた。レファンヌに含む所もある。
彼女の怒りは傍目から考えても分かりやすい物だった。一方、レファンヌの怒りは何が原因だろうか?
かつて想い人だったミデットに再開した。だが、それはハーガットが造り出した死霊の偽物だ。
狂気王の見え透いた手に我を失った自分が許せないのか。それもあるだろう。だが、俺は他にも理由があるのでは無いのかと考えてしまう。
レファンヌは出会った当初から好戦的だった。ハーガットが俺達に見せたレファンヌの過去。
それを知ってから俺は、レファンヌは何かを怒り憎んでいる。そう思うようになった。そんな事を考えていると、いつの間に後ろにいたカミングが俺に耳打ちした。
俺はカミングの言葉を聞くと、迷わずレファンヌとメルダの所へ駆け出した。それは正に、レファンヌとメルダが互いに渾身の一撃を繰り出そうとした時だった。
俺はラークシャサを二人の間に突き出した。金属音が響き、二本の杖が剣の刀身を挟むように当たった。
「······貴方。レファンヌの連れね。何のつもりで邪魔をしたの?」
激しく息を切らせメルダが俺を睨んだ。
「キント。手出しは無用よ。引っ込んでなさい」
大粒の汗を流しながら、レファンヌも俺を睨む。
「仲間が目を覚ました。決闘は一時中断してくれ。レファンヌ。マコムの所へ行こう。俺達はマコムが居なかったら死んでいた。恩人を見舞いに行こう」
俺はメルダ、レファンヌの順に顔を見て落ち着いた口調で呟く。その時気づいたが、メルダはまるで敗者のように口惜しそうな表情をしていた。
「······もういいわ」
メルダはそう言い残し、城門に向かって歩き出した。それを見送るレファンヌが左手を腰に当てた時、左腕に巻かれた鎖の音が聞こえた。
そうだ。レファンヌは鎖で魔力を半分に制限されているんだ。メルダに押され気味だったとは言え、それでもレファンヌはほぼ互角にメルダと戦った。
メルダはそれを分かってたから、あんなに口惜しそうにしていたんだ。俺はレファンヌ、メルサル、アークレイと共にマコムのいる病室に向かった。
ベットの主は上半身を起こし、窓の外を見ていた。マコムは俺達に気付くと、まだ起きたての表情で微笑する。
「······皆さん。ご迷惑をおかけしてすいませんでした」
赤毛の少女の謝罪に、俺は笑って首を横に振る。
「何を言ってるんだよマコム。マコムの活躍が無かったら、俺達はハーガットに殺されていた。マコムは命の恩人だよ」
マコムは活躍と言われて顔を俯けた。そして縫い合わせた額巻きに手を当てる。
「······一族の皆に固く言われていました。この額巻きはどんな事があっても外してはならないと。記憶は曖昧ですが、私が我を失い暴走した事は何となく分かります」
マコムの声色には、いつもの快活さが失われていた。
「狂戦士一族。噂に聞いた事はあるが、まさか赤毛のお嬢ちゃんがそうだとはな」
場を明るくしようとしたのか、アークレイが陽気な声を出す。
「······戦いしか知らない。死ぬまで戦う。私達の一族は古くからそう言われ忌み嫌われていました。そんな時、ある精霊使いが私達一族に怒りの暴走を止める手立てを教えてくれました。それが、この額巻きです」
マコムは自分の一族の歴史を語り始めた。精霊使い。俺は初めて聞くその名に、不思議な既視感を覚えていた。




