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文字化け  作者: 天笠 螢
23/23

Epilogue

 古井新が亡くなってから、二年の月日が経過した。

 世界はいつも通り、何事もなかったかのように動いている。

 文字で一度は崩壊した事など、誰も知らない。知っているのは、山下真だけだった。


「もうすぐ、大学入試なのに、大丈夫なの?」

 車いすに座った少女が、車いすを押している男子学生に尋ねかけると、にこりと笑って答えてみせた。

「大丈夫だよ、これくらい。それに希海ちゃんを一人にするのも心配だから」

「あ、あたしだって、一人で大丈夫なんだから!」

 頬を赤らめたのは、寒さの影響か、それとも照れているのか。答えは多分、後者だろう。

 こうして、彼女と何気ない会話をできているのも、あの男がいなくなったから。


 違う。


 自分の能力が暴走していないから、だ。

 二年前のあの日、文字化けの能力が、人を傷つける為のものなのだと割り切ってから、能力を扱いやすくなったような気がする。

 人から逸脱した存在になったという実感はないが、世界を壊せるだけの力を持ち続けているのも事実だ。

 そして、この力は世界を創りかえることも容易だ。

 だったら、自分の好きなように世界を変えてしまえばいいじゃないか、と思う人もいるだろう。

 彼はそれをしない。何故なら――――


『助けて』


 真にだけ、その声が聞こえた瞬間、空に一筋の黒い煙のようなものが立ち上がってくる。

 それが見えているのも、真だけのようだった。

「どうかした……?」

 少女に声を掛けられると、彼は空を見ているのを装った。

「いや、平和だなって、思ってさ……」

 その言葉は嘘ではないが、違和感はあった。

 空を見上げていた真の目に、一筋だった黒い煙が、至る所から噴き出すのが映り込む。

 そして、黒い文字が立ち上がる度に、それらは言葉を発した。


『もう嫌だ』

『勉強したくない』

『働きたくない』

『退屈だ』

『苦痛だ』

『死にたい』

『死ねばいいのに』『憂鬱だ』『眠たい』『何もしたくない』『殺したい』『痛い』『殺して』『燃えれば』『失くした』『辛い』『壊したい』『楽にして』『飛び降りたい』『憎い』『静かにして』『絶望だ』『怖い』『動きたくない』『寂しい』『壊して』『壊したい』『うるさい』『見たくない』『遊びたい』『愛して』『食べたくない』『働いて』『壊したい』『苦しい』『飲みたくない』『壊したい』『壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい』


 大量の文字が目の前に溢れ出す中、山下真は自らの口を歪めてみせた。

 自分の中にある些細な違和感など、どうでもよくなるほど、今の世界に満足していた。




 人を救って、自分が救われる気がする世の中に。









 ――――これで、救われる。


















 文字化け

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