第15話 裁定
「父上」
縄を斬られていたレオンとその一味は、再び繋がれた。ただし、父の亡骸との別れだけは許され、レオンは僕の目の前で泣き崩れた。
首領であるヴァルロアが死んだことにより、彼らの目的も無くなってしまったのだ。しかし、その罪は残った。そして、前方で戦っていたヴァルロア配下の盗賊たちもその訃報が伝わると一挙に戦意が失せ、武力としては瓦解した。まるで支えを失ったかのように立ち尽くしていた。
彼らにも見える位置でのレオンの亡き父との別れであった。
戦意の見えない、レオンとその一味を前に、ギルド長は言った。
「レオン、お前には二つの道を選択することを許そう。一つはなおも反抗する態度を改めず、ハルンの街で王への反逆罪として裁かれることだ。もう一つは、ここに居るガレオンに謝罪し、許しを請うことだ。ガレオンの気持ち次第ではここで裁かれ、死を与えられる。どうする?」
レオンは泣き顔を上げて、ギルド長を睨んで言った。
「事の発端は父が命をかけて持ってきた財宝である竜の首飾りを不当に盗んだお前にあるのではないか?」
その言葉にギルド長は少し考え、そして、言った。
「そうか、お前の父はそう言ったのだな。しかし、事実は違う。その首飾りはその時に仲間とお前の父を守ったレインという冒険者が手に握っていた。レインというのは私の冒険者時代の相棒だ。その相棒の形見として私がもらった。悪いか?」
ギルド長がそう返すと、レオンはなおも食い下がった。
「嘘をつくんじゃない。その首飾りは我が父が竜の巣から死ぬ気で取って来たものだ」
「では、お前に聞くが、その首飾りはどんな形状だとか、大きさとか、どんな宝石がついているか、お前の父から聞いたことがあるか?」
「うっ」
ギルド長の言葉にレオンは言葉に詰まった。
「お前に特別に見せてあげよう。待っておれ」
ギルド長はそうレオンに応え、お付きの人に言った。
「おい、あの箱を持ってきてくれ」
お付きの人が持ってきた薄いかなり大きめの箱を受け取ると、ギルド長は箱を開いて、中を見せた。
「これだ。これが、竜の首飾りだ。別名、逆鱗という。エインシャントドラゴンの首に一枚しかない鱗だ」
その鱗は陽光を受けると、真珠のような柔らかな輝きを放ちながらも、黄金にも似た神々しい光を宿していた。
「お前の亡き父を貶めるつもりは毛頭ないが、これは竜が集めた宝ではなく、戦った者しか得られない貴重なものだ。この度の婚礼で王女のためのティアラの装飾に使いたいと言われ、私の条件と引き換えに王に渡す事にしたものだ。お前の父が竜の巣から盗んだというお宝の中には、同じ竜の首飾りという宝石があったかもしれないが、それは、多分、王宮の宝物庫にあるのだろう」
レオンは頭が混乱した。 父の言葉が嘘だった。盗賊になった理由すら崩れ去った。レオンは力なく膝をついた。
レオンは何かを悟ったのだろう。急に、ギルド長に向かって叫んだ。
「俺を殺してくれ。おれを楽にしてくれ。頼む」
彼の言葉は哀願となった。
ギルド長は静かに言った。
「私はお前に二つの道を選択しろと言った。どちらを選ぶ?」
レオンはやけになっているのだろう、ぞんざいに答えた。
「どちらでもよい。お前が勝手に選べ」
「私に選べとな。では、ガレオンに謝罪し、許しを請うてもらおう。ガレオン、ここに」
ギルド長の発言で、まだ、体力の戻り切っていないガレオンがレオンの前に立った。
「おい、レオン。ガレオンに謝罪してもらおう。騎士の家の息子であれば、嘘があってはならぬと教えられているはず。謝罪をしろ」
レオンはギルド長の言葉にたじろぎ、また、謝罪することを屈辱だと思っているのか、そのままの姿勢で言葉に出さなかった。やがて、重たい口をたどたどしく開いた。
「ガレオン、さん。貴方をだまし、体を、傷つけて、申し、訳、なかった」
ガレオンは深く頷いた。
「レオン、俺はお前を許そうと思う。但し、条件がある」
その言葉に、皆が一斉にレオンからガレオンに視線を集めた。そして、噛み締めるようして言った。
「幸い、俺の体は治療が上手くいった。時間はかかるだろうが、また冒険者として活動するつもりだ。今回、お前のパーティーメンバーから手厚い治療も受けた。その働きをしてくれたお前のメンバーには感謝している。それに、お前は片腕がなくなり既に罰を受けている。そんなお前の復帰を信じているメンバーもいる。
だから、俺からの条件を言う。
お前が若葉の戦陣のリーダーとして復帰することが俺がお前を許す条件だ。どうだ」
ガレオンさんはそう言った。それに呼応するように、アンナさんは頷き、メンバーの戦士二人が声を揃えた。
「もう一回やろう」
その短い言葉がレオンの胸に突き刺さった。レオンが崩じゃ落ち、すぐには返事できなかった。しばしの沈黙があった。
涙があふれだした顔を上げ、レオンは言った。
「俺は許されるのか?片腕でもリーダーが出来るのか?」
割り込むようにギルド長が言った。
「お前の気持ちがあれば、大丈夫だろう。それに、お前を必要としている者達がいる。お前だけではない。お前と共に縄に繋がれた者たちも、お前の父が率いていた盗賊団の者たちも、お前を必要としている。その者たちの上に立ち、その者たちも冒険者となるなら、この一連の襲撃の件をギルドへ届け出ず不問とし、彼らも許そうと思うが、どうだ」
その言葉に、レオンは感激のあまり号泣した。しかし、ギルド長は釘を刺すのも忘れなかった。
「言っておくが、その特赦は、お前がリーダーである限り有効だ。それが、守られない場合は、お前を含めた全員がこの国でお尋ね者になるのだ。心しておけ」
レオンは何度も頭を下げた。
その姿を見て、誰も責める者はいなかった。
こうして彼は許された。冒険者パーティーが二十人を超える大所帯となったため、レオンにより、名前を若葉の戦陣から青葉の戦陣と改めた。
混乱が落ち着き、ハルンの街に入ると、鉄鼠の牙、青葉の戦陣と別れることになった。鉄鼠の牙はガレオンさんの活躍で昇級した。青葉の戦陣は、特赦の条件として降級処分となった。僕ら白銀の翼は、王都までの試験という名目での護衛の旅が続くことになった。
ハルンの街から出るとき、見送ってくれた。
ガレオンは振り返って手を振った。
レオンも左手でぎこちなく頭を下げた。
アンナは涙をこらえるような笑顔で、大きく手を振っていた。
僕も振り返しながら思う。
——きっと、また会える。
そう思える別れだった。
第一章 完




