変革
常磐の放送後、世界は一変した。あの放送はネットで拡散、瞬く間に世界に能力の存在が知れ渡る。
今まで秘密裏に動いていた能力者達は一斉に行動に移す。国のトップが既に能力者達を統率していてこれまでと変わらない国はアメリカ・中国・ロシアの三国だけだった。
他の国は能力者達によるクーデターでトップが死亡、若しくは拉致・監禁される。更にこの混乱に乗じ三国は自国の周りの国々を攻め落とし、能力者を懐柔、戦力を高めていく。
国の総数は既に20を切っている。三国以外の国もトップとなり変わった能力者同士が同盟を結び一つの新しい国へと生まれ変わる。
しかし周りの国々も三国も日本に手出しはしてこなかった。警察組織は水面下で三国と事前に交渉をしていたからだ。
国外からの攻撃が無いとはいえ一時凌ぎに過ぎないのは明白。一刻も早く日本を警察の統治下に置く必要がある。如何なる手を使おうとも。
常磐は今年度から警察関連の機関に従事する者を全員一箇所に集めた。いつものダボダボの服装ではなくスーツ姿で緋色の警帽とジャケットを着ている。肩書きだけのオジサンが何か話しているがそんなものに意味は無い。
「では一人ずつ、前へ」
「……」
身体検査のようなものだと説明したのか、次々に若い男女が歩いてくる。常磐は双眸を見開き一人一人凝視する。何も言われない者は常磐の前で横へ逸れて戻りそのまま会場を後にする。
「……止まれ、キミは此方」
一人、二人、と常磐に命令された数名だけが会場に残っていく。最後の一人を見終えると常磐は頭を机につけてグッタリ項垂れる。
「はァー、疲れたァー。……しかし、6人……か」
進行していたオジサンは静かに退室し扉を閉める。常磐は眼の前に立ち並んでいる6人を見る。男2人に女4人。先ずは……。
「残ってもらって悪いネー?サテサテ、ボクの質問に正直に答えてネ、キミ達。キミ達の中に能力者が居たら両手を挙げてー?」
すっ。
全員が黙り、手を挙げる布の擦れる音だけがしている。
「成る程ね、5人が能力者か。……ヒヒヒ、イイねー♪」
満面の笑みを浮かべる常磐に新人6人もつられて笑みを溢すも、直ぐに真顔に戻される。
――パンッパンッパンッ!!!
手を挙げなかった男の眉間に一発、心臓目掛けて二発の銃弾が撃ち込まれていた。突然の出来事に他の5人は狼狽える。
「サテサテー。キミ達5人に更に質問だ。キミ達の名前と能力について聞かせてネー?」
暫しの静寂。露草色のポニーテールの女が口を開く。
「露草。能力は『転移』。制限は有りますが私自身と物体の移動が可能です」
一人が動けば他の4人も続いていく。
「はいはいはーい☆伽羅ちゃんでーす☆あーしのアビリティー?は『停止』でこの可愛い目で見えてるものの動きを止められまーす☆」
「躑躅。能力は『芳香』。香りを嗅がせて色々出来ます」
「根岸……です。能力は『把握』。建物内部とかの構造や人の配置等が分かります。戦闘能力は無い……です」
「灰川。能力は……『灰燼』。俺が素手で触れた物体を灰にします。コントロールは出来るのでグローブ等はしてません」
5人が話終えると一人ずつへ視線を送る。
「それじゃあ――」
パンッ!
常磐は真上に向け発砲。天井に当たる前に蝿を撃ち抜いていた。常磐が躑躅を見た瞬間、躑躅は常磐へ向け走り出そうとした。しかし力を入れるべき膝下が……ない。
「……殺気を感じました」
露草は日本刀を手元へ転移し躑躅の両脚を切断していた。
「ぐッ!?テメ――」
パンッ!パンッ!パンッ!
常磐は躑躅の頭を3発撃ち抜き殺した。
「……生かし情報を得るべきだったのでは?」
露草の発言に常磐はドヤ顔で答える。
「ウンウン、確かに相手が普通の人間ならそうするべきさー。でもね?相手は能力者……。未だに不確定要素が大き過ぎるんだよ。コイツの真の能力は『操虫』。虫ってヤバいのも多いからネー。香りも虫由来で偽ろうとしてたのかなー?」
警帽を取ると棒付きキャンディを口に咥えて続ける。
「最初に撃ったのも能力者。ボクの前に嘘は通用しないからさー。……サテサテ、キミ達4人は本来の配属先へは行かせない。黒神警視正直属の兵隊になってもらう。あ、拒否権は無いからよろしくネー♪」
ケラケラと楽しそうに笑うと立ち上がり、後ろの壁が縦に割れて隠し通路が出てくる。
「着いてきてネー、はぐれないよーに!」
「えー、秘密基地じゃーん☆やっばーい☆」
伽羅が弾みながら着いていく。遅れないようにと小走りで根岸も追従。露草は刀を何処かへ転移させると灰川を見る。
「貴方は行かないの?」
「そりゃ行くさ。ただ能力者二人の死体が有るんだ。女の子を置いて行けないだろ?」
「……ふん」
(灰川……絶対私の事好きじゃん……!!)
露草は恋愛脳だった。
「さ、コレを着たら、入って来てくれ。返事とか礼儀とかは気にしないで気楽に、ネー」
4人に緋色の警帽とジャケットを渡すと一人で先に入っていく。4人は着用すると扉をノック。
「失礼しまーす☆」
伽羅が扉を開くと既にだらけてクルクル回る椅子に座ってる常磐と珈琲を淹れている浅葱。そして一番奥には緋雫が座り此方を見ていた。
4人に緊張が走る。能力者だからこそ分かる、緋雫の底知れない圧倒的な何かに気圧される。
「あらあら、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ?ワタクシは優しいですからね?」
浅葱は目を瞑りながらうんうんと頷いている。
「既に聞いているかと思いますが、あなた方4人にはチームを組んで貰います。能力者相手だと非能力者の警察官ではとても敵いません。ですのであなた方に出動してもらう事になります」
「はーい☆どんな能力者でもあーしが止めちゃいまーす☆」
「……能力者、は逮捕……するんですか……?」
「あぁ、それは既に薄々気付いているかと思いますが、躊躇せずに殺して下さい。一度でも暴れたり犯罪を犯した能力者は危険因子です。早急に始末して下さいね」
満面の笑みで告げる緋雫。それが正しいとは分かっていてもやはり異常としか思えない。
「……任せて下さい。俺達は必ず任務を全うします」
そんな事は一切感じさせず灰川は真っ直ぐ緋雫を見詰めて宣言する。
「安心してお任せを」
「伽羅ちゃんもいっしょーけんめー頑張るぞー☆」
「……努力します」
4人の世界は此処から一変する事になる。平和を、命を守ろうと志願した筈の4人が、対能力者の殺害を目的とした部隊へと配属されたのだから。




