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暗躍スル警察組織

 異常気象の雪は総理が死んだあの日の内に直ぐに止んだが、積雪と混乱だけは残っていた。


 春になると自然に降った積雪も完全に溶けて無くなった。


 しかしあの事件の傷跡は、物理的にも、人々の精神的にも大きな爪痕を残していた。総理大臣を筆頭にあの場にいた全大臣及び政治家達が全員死亡した凶悪な事件……。


 更には同時刻、日本各地で対策の為に集まっていた政治家達も何者かに皆殺しにされていた。確実に組織的犯行であり、実行した組織の大きさが強大である事等、誰の目にも明らかだった。


 警察からの発表では異能についての明確な説明は一切無かった。


 警察からも4名の犠牲者が出た事。犯人を捜索中だが情報は何一つとして無い事。意味の無いこの会見に、国民の不満は集中。現体勢の警察の権威は地に落ち失墜していた。この失墜までもが計画の内だとは、異能を知る一部の人間を除く現警察の上層部の者達には到底知り得ない事だった。


 政治家を失ってしまった日本だったが、他国から攻め込まれたり国内での紛争が起こる事は無かった。各地では警察が取締を強化、他国のトップも異能の存在については大なり小なり既に認知しており、これらに警戒をして手を出せずにいた。


 異能を使い『コト』を起こしたのは日本だけだったからだ。異能が居る事を他国へアピールした事により牽制になっていた。異能を制するには異能しか無い。今攻め込むと、自国も異能を所持していると知らしめる事に他ならない。


 かと言ってこのタイミングで友好的に手を差し伸べるのも憚(はばか)れる。膠着(こうちゃく)するしかなかった。






「アー。アー。テステス。国民の皆サマ、聞こえてマスかー?ヒヒヒッ」


 突如テレビと配信が全て緊急放送へと切り替わる。未だ記憶に新しい、総理大臣の最期のあの放送を思い出して、見ている人々に緊張が走る。


「アー、ご安心下さーい。ボクはこう見えても警察の人間デス。皆サマに大切な大切な、とっても大切な、お話がありマース」


 とても警察だとは思えない、寧ろ研究者のような、男か女か何方ともいえない中性的な彼、若しくは彼女は更に続ける。


「皆サマの混乱を防ぐ為、コレまで発表を控えていましたガー。我々には伝える義務が有りー、皆サマには知る権利が有る為、お伝えしマス。


 去年の4月1日、エイプリルフール。世界が揺れを観測しー、灰色のオーロラが空を覆ったあの日の事デス。


 あの日、一部の人に科学では到底説明不可能な事象を確認しましタ。


 『ソレ』をボク達は『異能(アビリティ)』と呼称。異能持ちの人間は見た目では判断デキません。それも当然デス、エイプリルフールまでは普通の人間だったのデスカラ。


 そして、異常気象の大雪ー。総理ら大臣達の爆発事件ー。及び同時に行われた警察官4名の他政治家多数の斬殺事件ー。これら3つにつきましては、異能持ちの人間による犯行と断定致しましター。


 その他各地での同時刻の犯行につきましては、同一の組織によるものと判断。ガ、異能持ちによる犯行かは不明ー」


 突拍子もない説明を続けているが、誰もが納得出来てしまうくらい、それ程に常人では土台無理な犯行だった。




「そこデー。ボク達警察はー。


 異能持ちを組織し、新たな警察組織を構築しマース。


 コレは元々警察官だった者に異能が発現したリー。異能が発現した者を早期に見付けー。警察としてのイロハを全て教え込みましタ。


 日本を牽引すべき政治家達がいない今ー。




 ――ボク達警察がこの日本を導きマース。以上ー」




 ――ブチッ。




 放送は唐突に切れた。殆どの視聴者は話に付いていけなかったが、誰も文句すら言わず、日常へと戻ろうとしていた。もしもそれが事実なら。本当に事実だとしたならば。異能を持たない一般人に出来る事なんて、何一つ無いのだから……。






「ハァー。なんでボクなんだろうナー?」


 先程の放送をしていた中性的な人物が不機嫌そうに、放送していた時に座っていた椅子をグルグルと回転させながら足をバタつかせていた。


「表立って動く様な方々は簡単には顔を晒せませんからね。それに引き替え、あなたは引きこも……ゴホン。裏方ですし、この本部からは出ないので顔バレによるダメージが有りませんので」


 後ろ髪の先を斜めに切り揃えたボブカットの眼鏡の女性は椅子に座り、カップに入った珈琲を口に運びながら淡々と告げる。


「顔を隠して放送したとしても、信憑性も信頼も揺らぎます。まぁ、国民が我々を疑おうとも何も出来やしない訳ですが……。問題は他の方々……」


「マーマー。別に今は、考えなくてもイイじゃナイ?誰かが敵対して来たとシテさー?国民は結局ボク達警察を頼るしかないんだカラさー?ボク達の地位は絶対に揺るがないヨー?


 ソレに、ボクには『コレ』があるからサー?」


 中性的な人物は自身の両の眼を見開いて不気味な笑みを浮かべながら告げる。


「……とても警察側の人間のする表情とは言い難いのですが?」


「ヒヒヒ。コレからの警察はこんなダヨー?それにィー、キミも自覚持ちなよー?『刀霞(とうか)』。キミはボクなんかよりも余っ程――アー。まぁイーや……」


 刀霞の無言の圧を敏感に感じ取ると、中性的な人物は棒付きキャンディの袋を取り口に含む。


「ボク達が日本を変えるんダ……!!」




 中性的なこの人物の名は常磐(ときわ)。異能は『分析』。肉眼で直接見た相手の分析が可能。異能の有無、特性、本人すら知り得ない情報まで分析してしまう。敵や他の組織の能力者の判別、発見に有利な警察側の超重要人物。敢えて放送・配信にて顔を出させたのは、常磐が顔バレしても構わない程度の人物だと思わせる目論見(もくろみ)もあった。






 ――ガチャリ。


 ノックも無く扉が開かれる。刀霞は開かれる数秒前には既に立ち上がって扉の方を向いており、開けた人物が入ってくると頭を下げる。


「あら、刀霞……気にしないで、楽にしていて良いのよ?」


「はっ!」


 それは警視正になった黒神 緋雫だった。緋色の警帽に、肩にはエポレット付きの緋色のジャケットが掛かっている。知らぬ人が見れば軍人のようだむた。


 緋雫は刀霞が扉を閉めに来ようとするのを片手で制すと自身で扉を閉め、その場でくるりと回り二人にドヤ顔を見せつける。


「ふふ、良いでしょう?コレ♡二人やワタクシの直属の部下達には皆にお揃いで着用して貰おうと思っているの……♡」


「エー、なんか微みょ――」


「素晴らしいですっ!」


 刀霞は常磐の声を掻き消すと、中指で眼鏡をクイッと持ち上げ続ける。


「緋雫様の艶々(つやつや)で潤いに満ち溢れた髪の毛、それに見詰められるだけで心臓麻痺で死んでしまいそうになる程に美麗な瞳のお色味とも大変マッチしており、緋雫様に元来存在している神々しさが更に天井を突き抜け限界突破しております、この刀霞、一生着いていきますっ!」


 両手を胸の前で握り締め、眼を輝かせながら一息で口早(くちばや)に詠唱(えいしょう)しきった。


 常磐は呆れたように首を横に振っている。


「ふふ、ありがとう刀霞。




 ――さぁ、今日から新しい日本が始まります……♡この国を綺麗にお掃除しないと……♡」




 警察の人間とは思えない警察が、日本を更に変えようとしていた……。

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 常磐(ときわ) 優(ゆう)

 常磐色のボサボサ髪。顔は中性的で可愛いが中身は怠惰で性悪。眼は大きな半月型で下睫毛(まつげ)は長め。瞳の色はエメラルドグリーン。ダボダボの黒のパーカーに黒のスウェットパンツに裸足サンダル。謎の反抗でグレーのスウェットは死んでも着ない。暇潰しでネイルをする為、両手足爪は黒。棒付きキャンディとグミが主食。飲料は水しか飲まず、栄養はサプリで補う。

 異能は『分析』。モニター等を通さず肉眼で直接視認した相手を分析する。異能の有無と名前、特性。異能は進化する事があり、本人も未だ知らぬ進化後の情報も見れる。未来の危険性すらも分析する為、厳重に保護・隔離されている。


 浅葱(あさぎ) 刀霞(とうか)。

 栗色のショートカットで後ろは項(うなじ)から緩やかな八の字に斜めに切り揃えられている。緋雫と同様にインナーカラーで浅葱色。緋色のアンダーリムの眼鏡で横には浅葱色の宝石のような装飾が付いている特注品。眼は鋭く切れ長で、見詰められるだけで睨まれているかのよう。緋雫を見る時だけ優しい目付きになる。黒地に栗色のストライプの入ったパンツスタイルのスーツ姿。ハーフグローブと靴は黒。ネクタイは浅葱色。見た目では眼鏡だけが緋色だがスーツとネクタイ・ハーフグローブの裏地、靴の中敷き等は緋色で統一されている。緋雫に対して不遜な常磐が嫌い、分析の異能が無ければ常磐は既に刀霞に殺されている。

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