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『灰』の世界と『灰』の女神様

『……緋雫、大変な事が起きちゃったかもしれない』


 帰りの車内。暫く走行してから突然の常磐からの無線。常磐の何時もの軽さは感じられない、それだけでコトの重大さを窺い知れる。


 緋雫は走る車の窓から外の夜景を眺めながら静かに覚悟を決めた。『灰』を手に掛けた。何かが起こるのは目に見えてはいたが、未知過ぎた。


「……何が起こったんです?」


『……灰土姉弟が死んだ地点……其処から灰色の侵食が始まった……』


「侵食……ですか?」


『地面も、建物も、植物も、人間も、灰色に侵食されると、まるで時間が止まったかのように全てが動きを止めるんだ。そして少しでもなにかしらの力が加わると……灰になって崩れ落ちてしまう』


「……その侵食というのは、今現在は如何なっているのかしら?」


『侵食自体は止まっているよ。でも繁華街は全てが灰色に染め上げられてしまった。「灰の死」が原因だとは思うけど確証は得られていない。


 しかし「異能」が違う二人の「灰」の死んだ場所から同じ事象が起こった事を考えるとやっぱり……』


「……そうですね。これ以上は戻ってから直接お話致しましょう」


『……リョーカイ、マタ後でネ〜』


「……」


 緋雫は軽く溜め息を吐いた。


「緋雫様……」


「大丈夫よ、何も問題はないわ」


 美影がバックミラー越しに見る緋雫の顔は、とても大丈夫そうには見えていなかった。






 灰川は『灰』に変わり果てた繁華街へと戻って来ていた。


「……俺も死んだら……周りがこんな事になるのか?」


 全てが灰色の世界。あんなにネオンの光に彩られていた鮮やかな夜の町の面影は何一つ無かった。風が吹いただけで建物の表面が灰を飛ばしながら削れていく。既に『人だったモノ』は上半身が崩れているものが多数あった。






 ――そして、それは前触れも無く突然訪れる。






『――この世界の全人類共よ。妾(わらわ)の美声が聞こえておるかのう?』



 この瞬間、起きている者も寝ている者も、世界中の人間の脳へと直接語りかける女性の声が聴こえていた。




「……何かの能力でしょうか」


 美影は運転をしながら緋雫に問う。


「如何でしょうねぇ……」


(『能力』にしては規模が大き過ぎる気も……)




『妾から貴様等にとても重要な話をせねばならぬ。妾は一度しか言わぬ故、心して聞くがよいぞ。




 妾は崩壊の神「灰麗(カィリー)」。


 ヌシ等の暮らすこの世界は




 ――崩壊させる事に決まったのじゃ』




 聞いていた全人類に衝撃が走る。




『しかし、妾も女神では有れど悪魔では無いのでのう?


 哀れなヌシ等にもチャンスを与えようと思うた。


 それこそが……「能力」』




「はは、能力を与えたのは自分だと来たか……いよいよ雲行きが怪しくなってきたね……」


 病院で仮眠をしていた処を女神様に叩き起こされた医師の灰塚はソファから立ち上がると屋上へと向かった。煙草を吸わないと平然を保てなくなるかもしれない、そんな予感がしていた。




『ヌシ等にやってもらう事は至って単純な事。


 「選別」をして貰う。


 崩壊させ無に帰すこの世界、どうせなら最期に役に立ってもらおうと思っておる。


 別の世界にとても普通の人間では生きては行けぬ高難度の世界があるのじゃ。


 其処に向かう選ばれし者達を創造する事。


 「ソレ」こそがこの世界が最期に行う役割となる』






 突然の女神からの世界終了のお知らせ。非能力者達には絶望が訪れていた。






『それではルールを告げるとしようかの。


 能力者は残り10名になるまで殺し合いをしてもらう。


 能力者が非能力者になった場合に関してはその者の生死は問わぬ。


 そして、生き残った10名は各1名ずつ、非能力者をパートナーとして選択が可能。


 この20名……誰一人パートナーを選択しなかった場合は最低10名になるが、この者等を高難度の世界へと「異世界転移」させる事になる。


 つまりこの大量の非能力者の中で助かるのは最大でも10人だけになる』




 10人という狭過ぎる門に非能力者達は泣き・喚き・叫び・怒り・荒れ狂っていた。




『能力者の残り人数は妾からは知らせない。


 命懸けのゲームの駆け引きだと思って存分に楽しむが良い。


 そしてパートナーについて、万が一パートナーに能力者を据えたい者が居れば妾の名を心の中で唱えるが良い。受け付けよう。


 その分非能力者共の枠は失われるがな?


 非能力者共は異世界転移の際には能力を与える故、戦力の面は気にしなくとも良い。


 ……一先(ひとま)ずはこんな処かのう?


 面白い催しになるであろう、妾も期待しておるぞ?


 さて、本格的な開幕の合図として……。






 ――ド派手に行かせて貰おうかのう』






 ――グラッ!!グラグラグラグラッ!!グラグラッ!!グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ!!




 巨大な地震。


 地震に慣れた国の者達でも怯える程の強い揺れ。


 しかしそれは地震では無い。


 地球が、空気が、宇宙空間が、世界そのものが揺れていた。


 故に建物の倒壊も津波も起きなかった。


 全てが等しく揺れているのだから。



 この揺れが『オーストラリア大陸と南極大陸が消えた振動』だと人類が気付くのに時間はかからなかった。






『健闘を祈っておる』






 ――こうして、女神からの突然の接触により能力同士による本格的な殺し合いの幕が上がった。

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 灰麗(カィリー)

 声しか分からない崩壊の女神様。可愛らしいが威圧的でもある不思議な声。不要となった世界を崩壊させるのが主な担当。

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