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大阪府警AI制御室  作者: velvetcondor guild


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第四話:偽造の血(身代わり屋)

大阪府警AI制御室


第四話:偽造の血(身代わり屋)


1. 住之江ボート、電子の博打

2030年の住之江ボートレース場。

かつて「ボートレースの聖地」と呼ばれたこの場所は、今や全自動制御のAIボートが水面を駆ける、巨大な演算処理場へと変貌していた。

観客席を埋めるのは、デバイスを通じて配当金(暗号資産)の増減に一喜一憂する、生気を失った市民たちだ。

だが、その熱狂の影、場外の湿った路地裏で、AIカメラが「認識を拒否」する光景があった。

「……いいかい。これを指先に貼れば、あんたは一分間だけ『別人』になれる」

街灯の届かない自販機の陰。

「身代わり屋」と呼ばれる男が、一人の若者に薄い半透明のシートを手渡していた。

それは、他人のDNA塩基配列をナノ単位でプリントした、人工皮膚フェイク・スキンだ。

「これでカジノの借金も、速度違反の記録も、全部『あいつ』の精算になる。あんたのDNAアイデンティティは、この街から一時的に消去されるんだ」


2. 制御室の「二重螺旋ダブル

「……管理官、異常事態です。住之江ボートレース場付近で、同一人物のDNA反応が『同時刻に二箇所』で検知されました」

大阪府警AI制御室。町田由美の鋭い声が、深夜の静寂を切り裂く。

彼女のメインモニターには、住之江のゲートを通過した「田中某(42歳)」と、その300メートル先、ポイ捨てセンサーに反応した「田中某(42歳)」の顔写真が並んで表示されていた。

「イザナギはこれを『センサーのバグ』として自己修正しようとしていますが、違います。……これは物理的な偽造です。誰かがDNAデータを『着て』います」

「身代わり屋か……。FBIでも噂には聞いていたが、大阪の精度は桁違いだな」

サミエル・大貫が、コーヒーを飲み干し、苦々しくモニターを睨む。

「町田くん。DNA登録制度(D-NAS)は、この街の『絶対的な正義』の拠り所だ。これが偽造されるということは、警察が『誰を逮捕しても、それは別人かもしれない』という地獄に突き落とされることを意味する」

「……そんなこと、許されません。正義が精算できない世界なんて……!」

由美の潔癖な倫理観が、モニターの青い光の中で激しく燃えていた。

彼女にとって、DNAは「神の書いたコード」。それを書き換える行為は、世界の根幹を汚す冒涜に他ならなかった。


3. 佐藤健太郎、路地裏の「鼻」

「……管理官。機械の眼が節穴なら、俺が直接『匂い』を嗅ぎにいくまでだ」

住之江の喧騒の中、佐藤健太郎はパトカーを捨て、徒歩で場外の路地へと踏み込んでいた。

彼のウェアラブルカメラには、行き交う人々の頭上に「田中」「佐藤」「鈴木」といったDNA登録名がタグ付けされて浮かんでいる。

だが、佐藤はそのHUDヘッドアップディスプレイを乱暴に消した。

「タグなんて見てりゃ、本当の顔が見えなくなる」

佐藤は、先ほど検知された「二人の田中」が交差したはずの、古い焼きそば屋の角に立った。

そこには、2030年の清潔な空気にはそぐわない、古い接着剤と、わずかな「焦燥の汗」の匂いが漂っていた。

「見つけたぜ。……『身代わり』を売ってるネズミの尻尾だ」

佐藤は、不自然に指先を隠して歩く一人の男の肩を掴んだ。

男が振り返る。その顔は、AIカメラによれば「無実の善良な市民」として白く輝いていた。

だが、佐藤の肉眼が見たのは、罪の重さに耐えかねた、真っ黒な瞳の絶望だった。


4. 偽造の果てにある「空白」

「待ちなさい、佐藤巡査長!」

無線から町田由美の制止が入る。

「その男のDNAデータは、現在『システム上のエラー』としてロックされています。不用意に触れれば、あなたの端末のデータまで汚染パッチされる恐れがあります!」

「……汚染されて結構だ。俺のデータなんて、最初から泥まみれだよ」

佐藤は男の指先から、剥がれかけた人工皮膚を無理やり剥ぎ取った。

その瞬間、制御室のモニターが真っ赤な警告色に染まる。

「エラー。個体識別不能。……精算データ、消失。……」

人工皮膚が剥がされた下から現れたのは、どのデータベースにも登録されていない、全くの「ゼロ」の指紋だった。

「管理官。こいつ……DNA登録そのものを抹消されてやがる。身代わりを売ってるんじゃない。……自分という存在を、小銭のために切り売りして、最後には『透明な人間』になっちまったんだ」

佐藤の声が、住之江の潮風に震える。

2030年の大阪。事件事故をなくすために作られたシステムが、皮肉にも「人間をデータとして切り売りする」という、かつてない悲劇を生み出していた。いつの間にか戻って来ていた一ノ瀬凛が、

その様子を、ボートレース場の特等席から、優雅に見下ろしていた。

「……ねえ、サミエル。一ノ瀬凛が特殊デバイスにより割り込み、語りかける、管理されるのが嫌なら、自分を消せばいい。……これこそが、この街が到達した『究極の自由』だと思わない?」


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