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第9話 小物の声

 ガラノエ家で奴隷をしていた時代、寝る所は、地下にあった。

 男女は分けられていたけれど、状態。でも、冬場は、その方が暖かかった。寒い地方だったから、夏場は、それなり涼しかったけれど、環境は最悪だった。

 

 レルシュトの屋敷の地下室は、埃もなく、湿気もなく、とても快適で。ただ、ちょっと目を離すと、小物はテーブルから床へと転がり落ちた。

 

「ここは、好きじゃなかった? うん。ごめんね、でも、居場所が整うまで、しばらく、ここで我慢してくれるかな?」

 

 小物に囁きかけながら、さっき置いた場所とは違う場所に、置いてみる。

 

 片付けをしているうちに、高い所に居たがる小物や、柔らかい所に居たがる小物、何となく分かってきた気がしていた。

 

 でも、小物達が、何より、欲しがっているのは、名前なんじゃないか? いや、多分、名前は持っているから、名前を、知って欲しがっている? そんな気がしてきている。

 

 宝石のような、綺麗な石が、たくさん拾い集められて来たので、透明な蓋付きで、中に細かい正方形の仕切りがしてあって、綿のようなものがそれぞれ敷き詰められて居る箱に、一つずつ収めてみた。

 

「やっぱり、一つひとつ、名札、欲しいかなぁ」

 

 ディルナは、宝石のような石を収め、透明な蓋をかぶせた箱を持って、地下室を出て、鍵を掛けると階上へと階段を上がっていった。

 

 レルシュトは、食堂の並びにある居間のソファで書物を読んでいた。

 

「レルシュト様、小物の名前を書いて、添えたいと思うのだけど……」

 

 透明な蓋のかぶせられた箱には、二十五個ほど宝石のような石が入っている。それを見せながら、ディルナは少し口籠もった。

 そういえば、妖精界の文字なんて、分からないかも。と、ぼそぼそ。

 

 奴隷生活になる前は、文字を書くこともあった気もするが、記憶はあいまいだ。

 

「そうか、成程。ふむ。大丈夫だと思うぞ。ちょっと待っておいで」

 

 ディルナが何で困っているのか、何となく分かっているようで、レルシュトはかの部屋へ行き、大きな箱を抱えて戻ってきた。

 

「おいで。こっちの方が、広くて作業しやすいだろう」

 

 食堂へと歩いて行き、大テーブルに箱を置くと、中から、羽ペン、インクを取り出し、更に、中くらいの箱を取り出した。

 箱の中には、大小様々な形の紙が大量に入っていた。凄く細くて、宝石のような石を入れた箱の仕切りの中に入れるのに丁度良さそうな小さい紙もある。

 

「小物を見詰めながら、紙に書こうとすれば、自然に正しい名前の文字になるだろうし、たぶん、ディルナにも読めるはずだよ」

 

「そうなの? この紙、どれを使ってもいいの?」

 

「沢山あるから、遠慮せずに使うといい。他の用途に使っても問題ないよ」

 

 レルシュトが頷くので、透明な蓋の箱を大テーブルに置き、椅子に座った。

 仕切りの中に、丁度良さそうな小さな紙は、大きさの揃ったものが沢山ある。

 

 ディルナは、透明な蓋を開け、石を一つ、手元に取り出してから、羽ペンにインクを付けた。

 名前は分からないのだけど、こんな感じの石、っていうような感じで実際に書こうとすると、勝手に手が動いた。

 

「薬石」

 

 不透明で茶色の筋が沢山ついている石の名前らしきが、綺麗な文字で書かれた。自分で書こうとしていたものとはまるで違う。

 初めてみる文字だけれど、ディルナはそれを読むことができた。

 

 手が、何か、もっと書きたそうにしているので、箱の中から、欲しそうにしている大きさの紙を取り出すと、石が自己紹介しているような内容が、綺麗な文字で書かれて行く。

 

「えーと? 一晩、水の中に漬けておくと、万病に効く水になる。毎晩、つくれる」

 

 書かれた文字を読み、

  

「うわぁ、凄いな。そうだったんだ!」

 

 嬉くて仕方ないといった響きで、驚いた声をあげる。

 

 説明の文章は、小さく折り畳んで石の後ろに置いて、名前の小さな紙は、石を置く手前に読めるようにして置いたら良さそうかな、と思う。

 

「ボク、なんとなく、思ったんだけど。きっとね、どの小物も、名前を分かるように書いて飾ってあげれば、きっとそこから動かないような気がするんだ」

 

 勿論、場所の好き嫌いはありそうだけど、と呟き足しながら、ディルナはレルシュトに笑みを向けて言った。

 

「道理で、ただ置いただけでは、ごちゃごちゃになってしまう訳だな」

 

 レルシュトは興味深げにうなづいた。

 

 ディルナは、薬石を元の場所に戻し、名札の紙を石の手前に、説明の紙を小さく畳んだものを石の後ろに置いた。

 

 そして、隣の綺麗な緑で透明な石を手に取って、同じように名前を書こうと小さな紙を置き、羽ペンにインクを足した。

 

「呪いの石」

 

「えー! そうなの? そんな物騒なものが、レルシュト様のお屋敷にあって大丈夫なの?」

 

 ディルナは吃驚して立ち上がりそうになる。が、手と羽ペンが、更に文字を書きたそうにしているので、手頃な大きさの紙を手元に置く。

 

「不幸、騒動を引き起こす。布などで包めば大丈夫」

 

 ディルナは羽ペンが書いた綺麗な文字を読み上げる。

 

「地下室の奥の暗い所に隠れていたのは、自分を隠そうとしてたの? ん? 地下室は密閉されているから、呪いの効果は、その中だけ? って、もしかして、物が散乱してたのって、あなたがき出しで居たからなの?」

 

 もう、ほとんど、石と紙を使って、会話しているような状態だった。

 

「レルシュト様ぁ、何か、ぎれりませんか?」

 

 物騒な話の流れを、じっと聞いていた様子のレルシュトは、ちょっと待っていなさい、と言い残して姿を消し、直ぐに中くらいの大きさの箱を持って現れた。

 

「この中の布は、好きに使って大丈夫だよ」

 

 箱を手渡され、中を開けてみると、可愛い柄の布が沢山入っている。大きさは色々あったので、呪いの石、を丁度良く包めそうな綺麗な布を探し出して包んだ。

 

「これで大丈夫かな?」

 

 独りちながら、包んだ石を元の場所に戻し、名札を手前に、小さく畳んだ説明の紙を包んだ石の後ろに置いた。

 

「ああ、吃驚した。レルシュト様、もしかしたら、これで、地下室の小物の散乱は収まるかもしれませんね」

 

「そうだね。こんな石が在ったとは、全く気付かなかったよ。良く見つけたね」

 

 レルシュトは、長いひげを垂らすように脱力した様子で言った。三角の耳がわずかに寝たような動きをしている。

 

「はい。奥の暗い所で、でも、キラキラ輝いてたんです。だけど、隠れたかったんですね」

 

 これで、目を離した隙に、小物が転がり落ちる頻度が減るなら、地下室の片付けが、少し楽になるかもしれない、という気がする。

 

「これで普通にお片付けできるかもだけど。でも、他の小物も、名前、書きたいです」

 

 これで小物が散らばらなくなったとしても、小物の名前や、使い方が分かるなら、全部、しるしていきたい。

 

「紙や、羽ペンとかは、地下室に持ち込んで構わないし、他のことに使っても構わないよ。もっと必要になったら、いつでも言ってくれ」

 

 ディルナの言葉に頷いて、そう応えながら、まだまだ、世の中には驚きが満ちているものだな、と、レルシュトがぼそぼそ呟いているのが聞こえてきていた。

 

 


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