エピローグ
少し無理矢理感がありますが、これで第一章は完結となります。ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
あと、一時間後に裏エピローグ出します。
「今日も補習頑張ってね、千歌ちゃん」
放課後。霧島アヤカは笑顔で手を振ってから、教室を後にする。
一人残された千歌は、机に突っ伏して、これから始まろうとしている地獄を嘆いた。早く帰りたい。
先週まで、転雨で暗躍していた巨大組織と戦っていたというのに、今はただの成績不振な高校生として、在り来たりな日常を過ごしている。その差が激しいあまりに、時折どちらかは自分の見ている夢なのでは無いかと疑ってしまう事もあった。だがどちらも現実であるという事を、他ならぬ千歌の身体が教えてくれる。
力を使い過ぎたあまりに、彼女の残り時間が、目に見えて減っていたのだ。
あれから、研究員である梅木沙知。そして彼女に懐いていた『二十二の夜騎士』全員が組織を離反。本部は閉鎖となり、一番街にある支部を新たな本部にする事に決定した。
雨宮雲雀と瑠璃は、キザクラ荘に住んでいるという東雲不隠の実妹の部屋に居候する事になった。
不隠曰く神の血を流しているので、ヴァルハラの者が面倒を見なくてはいけないのだそうだ。
これはどうでもいい事だが、隣の部屋に住んでいるのは霧島清廉とアヤカだったりする。
裁川千歌は、ヴァルハラの監視対象に正式に置かれる事となった。ただ監視とは言っても、これまでの生活が変わってしまう訳では無いので、一安心と言ったところか。
玉藻前は『神格』を失い、不隠によって力の全てを封印され、人畜無害へと変貌を遂げた。
このまま殺しても犯した罪には釣り合わないと判断し、死ぬまで永遠に働き続ける事を条件に、釈放された。これを決めたのは、ヴァルハラだ。
因みに玉藻前の魂は、重音の肉体から抜け出し、新しい肉体として、矢弾桃花の能力によって生成された、エナと同じ超高性能アンドロイドを手に入れた。
五年間行方不明となっていた安中重音は、輝夜、茶道と再会の喜びを分かち合った後、新たな肉体を手に入れた玉藻前と同居を開始させた。
……これは後からわかった事だが、重音は事故が起こる数年前から、玉藻前という化物に恋をし、彼女を元の世界に戻す為の計画を進めていた様だ。
自分の身体に玉藻前の魂を入れさせ、弱体化させるのも計画の一つだったらしい。玉藻前は六百年前から人間の肉体に少しだけ憧れがあり、重音もそれを知っていたので、成功を確信していた。
玉藻前も重音の事を愛していたが、これは重音の肉体を奪った事で記憶の全てを覗く事が出来た彼女が、重音が自分の事を深く愛してくれていると知ったから。
誰からも忌み嫌われた存在であるが故に、誰からも好意を向けられた事が無かったのだ。自分の事を好きと言ってくれる存在に心が傾いてしまうのも、仕方が無いのかもしれない。
ただ恐らく、全て重音の計算通りなのだろう。
芥川茶道と月華輝夜は、愛する親友の重音が帰ってきた事に泣いて喜んでいた。
マテリアルには結局戻る事なく、茶道はいつも通りメイド喫茶かさぶらんかの経営を。輝夜は三番街の地下にある小さな研究所を閉め、商店街で飲食店を開いた。
重音が言うに、あの『老い』を奪った緑色の光は、世界と別の世界を隔てる壁が壊された事によって生じるもので、触れた者の『時間』を奪うとされているが、その正体は未だ不明のままだ。
マテリアルを巡る戦いは、ひとまず幕を下ろした。だがその幕を下ろす前に、犠牲になった者が大勢居る。
ディザイアレスの発動に必要だった異能力者百人もそうだ。もう少し早ければ、彼等も死なずに済んだのかもしれない。
彼等の事を考えると自然と胸が痛くなる。だが、気にしたって仕方が無い。現実はそんなに優しく無いし、裁川千歌は全てを救える「正義の味方」ではないのだから。
これからの毎日が、平穏な日常でありますように。そう願いながら、窓の外を眺めてみる。空は紅く染まっているけれど、見ているとやはり心が落ち着いた。
「さ、楽しい楽しい補習を始めるぞー」
教室の扉を開け、担任教師である菅原加奈子が入ってきた。
その声を聞いた途端に千歌はため息を吐き、嫌々黒板の方に視線を向けた。
裁川千歌は、今日も生きていく。
残酷な『運命』によって定められた、命日まで。
第一章──完
二章の開始はまだ未定ですが、内容は『異能バトル』な一章とは違い、『サスペンス群像撃』になると思います。新キャラも続々登場しますが、一章に居たキャラも何人か出ます。
Twitterをやっているので、そこで進捗を報告していくと思います。
二章開始前は、『1.5章』と称して短編を幾つか書く予定です。その中には次の章のプロローグも含まれています。
登場人物一覧と用語集も、二章開始前に出す予定です。




