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 フェルに会えていない。

 図書館で別れた日の夕飯、フェルは来てくれなかった。

 遠距離恋愛というやつなのかな。同じ敷地内にいるのに、会えないって不思議な感覚。

 周りの目を気にしながらの恋愛って、難しいものだったんだ。

 フェルを排除したい人達が、本人じゃなく周りの人を狙うらしい。だから私は、フェルの側に居るのは危険で、恋人と宣言するのも駄目。

 どうにか、フェルに会えないかな。会っても今は、迷惑なだけだと思うけど。

 私が居ない間に、私の事忘れて、会いに来てくれなくなっちゃうかも知れない。

 だったら、どうすればいいの?


「アカネ様、書物にお顔を乗せていますと、跡がつきます」

「ほわっ! サイダスさん、久しぶりです」


 数日ぶりに書の狭間へ、サイダスさんがやって来た。


「ミトさんは、お湯のおかわりを取りに行ってます。私が紅茶がぶがぶ飲んじゃうので。たぶん十数分くらいかかりますね」

「ではそれまで、こちらで待たせて頂きます」

「ここに居ていいんですか?」


 フェルは私室でいろいろとやっているから、ここにも図書館にも居ない。護衛はいいのかな。


「問題ありません。フェルウォーク様の監……護衛は他の者達が居ます」


 何か言いかけたね。

 監督? 監視? まさか、監禁?

 そうだった。思い出した。


「人質」


 私の放った言葉に、サイダスさんの雰囲気が変わった。ピリッとした空気が漂う。


「王城の膿共」


 あまりにも静かなので、表情筋のぴくっていう音が聞こえそうなくらい。凄い睨まれている。

 ここで相手と目を逸らしちゃ駄目なんだ。

 大丈夫。無表情で遣り過ごす事くらい、朝飯前だよ。

 サイダスさんの声が低い。


「ミトはすぐに来ない。ここは王城の立ち入り制限区画。部外者が駆けつける事も無い」


 うぅー。私はただ単語を言っただけなのに。どうやら禁止ワードだったみたい。

 今、私とサイダスさんしか居ない。剣でぐっさりは無いとして、牢もありうるのかな。

 ここでフェルに迷惑かけたら、それこそ私は邪魔者になっちゃう。何とか自分で乗りきらないと。


「私は、何もしない」


 しばらく沈黙が続いたけど、ふとサイダスさんが長い溜息をした。ぴりっとした空気も霧散した。


「ふぅー……参った。参りましたよ。貴女がそこまで考えていたとは。正直、侮っていました。まさか東の王まで、駆け引きに出してくるとは」


 私何も考えてないよ!

 たぶんサイダスさんが、深読みし過ぎなんじゃないかな。

 それと今後、禁止ワードを言うのは止めよう。絶対に。


「ミトさん、早く来るといいですねぇ」


 というか来てくれないと、この雰囲気が気まずい。原因は100パーセント、自分なんだけどね。

 なぜこうなった!

 扉をノックして、ミトさんが部屋に入ってきた。思わず飛び付く。


「ミトさぁーん!! ごめんなさい! 複雑な事情に、首をつっこみたかった訳じゃないんです。知ってる単語が、口から滑っただけなんです。私、馬鹿だから。ごめんなさい」

「あらあら。サイダス様、アカネ様を虐めないで下さいませ」


 サイダスさんは驚いたようだった。


「ミト、それは誤解だ。彼女は盤上を見ている」

「左様ですか。アカネ様、怯える事はありません。サイダス様は害をなさない方です。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。射る筈の馬に、逆に射られてしまったのですよ」


 ウインクしてミトさんが話してくれた。

 それをサイダスさんは、そっぽを向いて付けたした。


「ミトを陥落させて、フェルウォーク様の手綱を握る。その策が失敗したと知られた時、散々まぬけだの罵られたな……」

「ミトさん、そんな悪口をサイダスさんに?」

「いえいえ、まさか。サイダス様を派遣された、宰相からでしょう」


 サイダスさんが私に告げた。


「宰相が明日、アカネ様との面会を希望されています。受けて頂けますね?」


 受けなきゃ駄目だと言われている。気がする所じゃない。威圧感がある。

 サイダスさんをまぬけって言うくらいだから、厳しい人だと思う。


「面会って具体的に、何をするんですか?」

「話し合いです。互いの事情を理解しつつ、利益と手段に折り合いをつけましょう。そのように宰相は仰られてます」


 思わず遠い目をしてしまう。


「私、宰相さんに丸めこまれちゃうのかな……」


 紅茶を淹れてくれてるミトさんを見ていて、素朴な疑問が湧いてきた。


「お湯わざわざ取りに行くよりも、魔法で出したほうが楽だと思うけど……」

「使える魔法の種類が、2つだけでして……。他の方々は、何種類も扱えるのですが。御不便を申し訳ありません」

「ち、違うよ。そんなこと思ってない! ミトさんが大変だったら、私が自分でお湯持ってくるし、淹れるよって言いたかったの」

「侍女の仕事ですので、お気になさらずに」

「うぅーむ。私このまま動かないと、太るかも……」


 自分のおなかを、むにむに摘まんでみる。こっちの世界に来て、まともに食べれるようになってからというもの、肉がついてきてしまった。ぽっちゃり系女子が、フェルの好みじゃなかったら、どうしよう。

 あまり食べ過ぎないように、気を付けなくちゃ。


「あっ、そういえばサイダスさん。ミトさんに用があって、来たんですよね?」


 サイダスさんが難しい顔をして、ミトさんを見る。口調が変わった。


「宰相から、異世界人の見方をするのか今一度確認して来い、と命令を受けて来ました。なぜアカネ様なのですか?」


 ミトさんが口に指を当て、シッーと静かにするよう促した。


「サイダス様、ミトはただの侍女です。騎士様が侍女に敬語など、いけませんよ?」


 ミトさんが古文書を撫でて、ゆっくりとまるで詩を朗読するように話した。


「自分の魔法で見た光景が、酷く美しいと思いました。あのような光景を、もっと見たい。フェルウォーク様とアカネ様ならば、袂を分かつ須臾に、魅せてくださる。そう確信したのです」


 私なんかが、美しい光景とやらを見せれるのかな。

 フェルといちゃいちゃしてるとこ、見せるのは恥ずかしいよ? フェルは気にしないで、キスしてくるけどね!

 フェルの事を考えていると、会いたくなっちゃう。

 ミトさんとサイダスさんの会話が、意識の外に追いやられる。


「今頃、フェル何してるのかなぁ……」


 とっても寂しい。

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