特典は甘い
僕とジンが使ってた部屋は、壁がぶっ飛ばされちゃったので使えないと言うことでー。
「ま、しばらくは我慢してここを使って下さいって、王太子が言ってました」
「………スパイクさん。僕ら、多分ですけど魔王の封じ込め成功しましたよね?」
「そっすねー。魔王には無事にお眠り頂けるようで、いやー、ホッとしました」
「なら、なんで?」
王宮に用意された部屋というのは、たぶん客間だと思う。前に使わせてもらってた寄宿舎の特別室よりは狭い。急なことだし、それは仕方ない。全然、気にしないんだけど……。
「なんで、ベッドが薔薇の花びらだらけなんですか?」
キングサイズではないベッドに、真っ赤な花びらが散ってるんだけど。スパイクさんはニコニコッと細めた目で笑う。
「いやー。前回の反省を踏まえてます。ミラーボールは無しで、ベッドカバーもグッと落ち着いたベージュにしました。僕としてはアレですけどね。シーツはいっそ黒い方が、肌色の映えは良いんじゃないかと思ったんすけど、黒は雰囲気でないってププラが言うんでー」
だからさ。
「焦って関係を進めなくて良いんですよね?」
「そりゃ、そうですけどね。少しは相手のことも見ましょうよ?」
「へ? 相手?」
スパイクさんは用意された机の一つに荷物を置いて、自分のスペースを作ってるジンにチラッと目をやる。
「アンドリューさんが男の子なのと同じで、ジンさんも男の子ですよ? 男たるもの、好きな相手と一つの部屋で寝起きして、いろいろ耐えるには限度ってもんがありますでしょ? 可哀想じゃないですか。なんの拷問ですか?」
ヒソヒソと話すな。
なんか、余計に緊張してくんじゃないか。
「湯船にもお湯張ってますし、アレも浴室とベッド脇に用意してますから」
僕の声だって思わず小さくなる。
「アレ?」
「ヌルヌルですよ。しらばっくれないで下さい。前に教本も渡したでしょ?」
「い……あ…えっと」
「いきなりはダメですからね。双方のダメージが激しいっすから」
黙り込んだ僕を見下ろして、スパイクさんはクククッと笑う。
「アンドリューさん、可っ愛いなー。耳まで真っ赤になってますよ?」
「う、うるっさいです」
「僕は引き上げますからね。まあ、今日はお二人ともお疲れでしょう。明日の朝は起こしに来ませんから、ゆっくり休んで下さい」
僕の背中をポンと叩いて。
「ジンさーん! そしたら、僕は戻ります」
「……お疲れ様です」
スパイクさんが部屋を出ると、ジンは普通に歩いて行って扉に鍵をかけた。
かけたよ——鍵。
そんで、そのまま僕の側に歩いてくる。
さっきのスパイクさんとの話もあるから、どんな表情していいか分からない。
「え、あー。ジン。そっちに湯船があって、風呂の用意がしてあるって。冷める前に入ったら?」
「入ったらじゃなくて、一緒に入るんだろ?」
「い、一緒?」
ジンが近すぎて心拍数が上がってくる。
ヤバイ気がする。
このままだと、スパイクさんの目論見通りに——。
グッと首を持たれたと思ったら、ジンに口づけされて、体の奥から熱くなってく。唇を離すとジンは息のかかる距離で僕を見つめた。その青い目を見てたら何も考えられなくなりそうだ。
「……ジン。えっと…僕らエッチする、の?」
なんか頭が回らなくなって、思わず直球で聞いてた。
もう少し言い方あんだろって自分で突っ込みたい。
ジンはグッと笑いを飲み込むような顔した。
「そう聞くか?」
悪かったよ。
だって頭がうまく回らないんだよ。
「するよ。裕翔。俺はそのつもりだった時に、お前を攫われたんだけど?」
あ——そうだったな。
思い返せば、そういう流れの時だったな。
「け、けど。ほら、あれ、僕らどっちが、どっちとか、ほら…」
「ああ。両方すればいいと思ってるけど?」
「へ……りょ、両方?」
僕の腕を引っ張ったジンは、後ろから抱え込んで肩に顎を乗せた。
「前に裕翔は抱きたいみたいに言ってただろ。俺も裕翔が抱きたい。だから、どっちもすりゃいいと思って。ダメか?」
「だ……ダメ、ではなかろうが」
ちょっと、想像してなかった。
えーと。
そういうの、ありか?
まあ、あり……か。
「……ジンとなら、まあ、どっちでも良いし」
「俺もだよ。よし、じゃ、一緒に準備な」
ジンが真っ赤になって嬉しそうに笑った。
そのまま、僕の襟のボタン外すし。
なんか、その様子を見てたら——笑えてきた。
そうかー。
ジンもしたかったかーって。
笑い出した僕にジンが拗ねた声を出す。
「なんで笑うんだよ」
「えー? いや、だってさ」
ここへ来て目を開いた時、ジンとこうなると思ってなかったし。
そもそも、自分が誰かを攻略する気はなかったんだし。
「まさか、自分に恋人ができると思ってなかったからさ」
そう言ってジンの頬にキスしたら、ジンまでクスクス笑い出した。
「それは同感だ。でも、アレだろ?」
「アレ?」
「裕翔の言ってたゲーム通りだろ」
「あ、あー。そう、かな?」
確かになー。
攻略対象のジンと恋人になって、思ってたのと違ったけど、クリスタル・ローズを発動させて、魔王を眠らせた。これは、ゲームクリアってことで良いんだろうな。
「元の世界には戻らなかったけどね」
「戻ってたら、そこまで追っかけないとならなかったな」
「追っかけてくれるわけか?」
「勿論だろ? 裕翔は俺のペアなんだし」
オデコを付けて、二人で笑い合う。
触れる体が熱を持ってく。
ここがどこでも、どの世界でも。
始まりが何時で、終わりがどこでも。
僕が誰で、ジンが誰でも。
「じゃ、一緒に風呂に入りますか」
君と僕ならエンディングは一択だね。
繋いだ手の熱さに、そんなことを思った。
最後まで付き合って読んで下さった皆様に多大な感謝です。
なんとか、まとめられてると、いいなぁ。
ああー。次はもう少し頑張ろう!!
なんか、毎回、そう思います。
暑い日が続くし、コロナ増えすぎの夏ですが、皆様に良いことありますように!!




