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第百十一話 何者か聞いたのが間違いだった

「何者? なにものって、なんだ? オレサマはオレサマだ。それ以外のナニモノでもねぇヨ」


 デスパーの体を乗っ取った悪霊はややあってから答えた。

 例の戦斧(バトルアックス)を両手で構えており、今にも襲い掛かってきそうな体勢である。

 しかしこいつがそうしないであろうことは俺には分かっていた。


「名前はなんだ? どこで生まれた? 生き物なのか? 違うのか? 答えてみろよ、悪霊。それとも自分のこともよく分かっていないのか?」


 矢継ぎ早に質問を繰り出す。

 こちらは一切構えない。戦う気はさらさらないからだ。


 悪霊は面食らった様子だったが、やがて真顔になるとぽつりと呟いた。


「『叶えるもの(メテオラ)』」


「……は?」


「この斧の名前だヨ。オレサマが覚えてるのはそれだけダ。それ以外のことは何も知らないし、知りたくもないネ」


「斧の名前じゃなくてお前の名前を聞いたんだが……?」


「オレサマも知らないのに、答えられるわけないネ!」


 悪霊は話は終わりだとばかりに斧を構えなおして、俺ににじり寄ってきた。

 デスパーの話の通り、確かに戦闘が大好きな奴のようだ。


「なんで俺なんかと戦いたいんだ?」


「決まってるダロ? 王サマとイヤ、国のトップ。当然、国で一番強いに決まってるからネ」


「いや、んなわけないだろ! そんなバカげた理屈で俺を狙ってたのかよ!」


 攻撃は最大の防御だから斧は鎧の代わりになるとか言ってたデスパーと大差のないレベルである。こいつくらいの腕ならば、俺が一般人に毛が生えた程度の存在であることは容易に分かるだろうに。


「はっきり言っとくが、俺はお前と戦う気なんてさらさらないぞ、悪霊。俺がその気になれば戦わない手段なんていくらでもあるんだからな」


 ほんの一瞬だけ聖剣の柄に触れ、かつて決戦級天聖機械(オートマタ)のアスカラと戦ったときのみんなの姿を思い出す。すると全身にずしりと重みを感じ、視界が一気に狭くなった。

 自分の両手、胸、胴、両足と見て回ってから、頭を覆う兜をペタペタと触って確かめる。間違いなく、デスパーに作ってもらった純白の鎧一式(ラウンズ・シリーズ)が【瞬間転移装着インスタント・エクイップ】されていた。


「へぇー。初めて使ったけど便利なもんだな、このスキル。普通に全身鎧(フルプレート)全面兜(フルフェイス)を着けようとしたら、どれだけ時間が掛かるか分からんからな」


「そんな鎧、オレサマの斧の前には紙切れ同然だヨ!」


 そう息巻いて悪霊は斧で素振りをする。

 俺は大きく嘆息をした。兜をつけてるから見えてないだろうけど。


「お前、この間の話聞いてなかったのか? この鎧には円卓の騎士の同士討ちを防ぐ効果があるからな。お前がデスパーの体を使っている以上、お前の攻撃は俺には一切効かないぞ」


 ま、そもそも聖剣の鞘もあるし、攻撃はきかないのだけど。


 呆気に取られたように固まる悪霊に俺は言ってやった。


「ルフト家の地下室の時もそうだったけどさ。本当に戦いたいのならわざわざ宣言せずに問答無用で襲い掛かってくればいいじゃないか。さっきの不意打ちだってそうだ。そろそろ入れ替わる頃だろうと思ってたから(かわ)しやすかったってのもあるけどさ。そもそもアレは当てる気なかっただろ? 素人の俺でも分かるよ」


「……ヤる気のない相手とヤっても面白くないからネ」


「フェアなんだな、お前」


 これは最初に会ったときからなんとなく思っていたことだけれど。


 ――こいつ、案外悪いやつじゃないんじゃないか?


 俺は純白の鎧一式(ラウンズ・シリーズ)の【瞬間転移装着インスタント・エクイップ】を解除した。視界が再び開ける。一応いつでも再装着できるように身構えてはおくが、こいつが当てるつもりで不意打ちをしてくる奴でないことはもう確信できていた。


「悪霊。どうしても俺と戦いたいって言うんなら、仕事が終わった後にやってやる。だからそれまでは大人しくしてろ」


「……分かったヨ」


 悪霊は現れたときと同じように脱力すると、深くうな垂れた。

 そして再び顔を上げたときにはもう、いつもの理知的なデスパーの顔に戻っていた。


 デスパーは少しきょとんとした様子で、先ほどまで悪霊に動かされていた自身の体をまさぐる。


「なんだか、思ってたのと少し違うみたいデスね、悪霊は」


「デスパー自身は悪霊と話せないから分からなかったんだろうな。いや、俺もまだはっきり分かってるわけじゃないけど」


 俺は苦笑と共に肩をすくめた。

 そこで思い出す。


「ああ、そうだ。デスパーに作ってもらった鎧。すこぶる着心地いいぞ。体にぴったりだし、軽いし、ほとんど動きを妨げないし」


「そうデスか? ならよかったデス」


「これのおかげで、俺も【超大物殺しの必殺剣(レイドボスキラー)】のダメージを受けずに済むようになるわけだしね。感謝感謝だよ」


 と、肩を叩くと、デスパーは何やらきまりが悪そうな顔になった。


「えーと、例の自爆技のことデスよね? 申し訳ないんデスが、たぶんそれは自傷ダメージ扱いなので純白の鎧一式(ラウンズ・シリーズ)でも防げないと思うんデス」


「……え、そうなのか」


 がっくりと肩を落とす。


「ま、まぁ普通に鎧として特級品だしな。魔術耐性も高いらしいし。みんながあまり着けないのが不思議なくらいだ」


「んー、実は自分もあまり装着しないんデスよ。軽量化の魔術のおかげで軽いとはいえ、やっぱり鎧は鎧デスし、着けてないときと同じようには動けないデスから」


 そんな雑談をしていると、冒険者街の方から俺の名を呼びながら走ってくる者の姿が見えた。青い顔をしたリクサである。


「ミ、ミレウス様! ご無事ですか!?」


 着くなり、息を切らせたまま、俺に怪我がないか確かめるリクサ。

 俺はデスパーと顔を見合わせた。


「大丈夫だよ。何もなかった」


「そ、そうですか。あの、お一人でお出かけになるのはおやめください。いくら鞘と腕輪の力があるとはいえ……」


「ごめんごめん。でも必要なことだったんだ。悪戯(いたずら)とか出来心とかじゃないから許してくれよ」


「はぁ」


 怪訝(けげん)そうな表情を浮かべるリクサ。

 そこで後からブータがとてとてと走ってきた。たぶん一緒に探しに出たのだろうが、リクサとは身長差も体力差もあるので妥当な時間差だ。


「だ、大丈夫ですか、陛下ぁ!」


「大丈夫、大丈夫。面倒かけてごめんね、ブータも」


「お気をつけくださいねぇ、ミレウスさまぁ。物騒な島ですしぃ」


 今にも吐きそうな顔をしながら俺の元までたどり着いたブータは、デスパーの方をちらちらと見ながら言った。物騒な島とは言ったが、心配しているのは主に別のことだろう。


「そういや、今さら気づいたんだけどさ」


「はいぃ?」


「悪霊がデスパーの体を使って大陸各地の紛争地帯で暴れてたってことはさ。国際問題にならんのかな。円卓の騎士って、一応この国の準貴族扱いだし」


「あ」


 今度はブータとリクサが顔を見合わせる。彼らも気づいていなかったようだ。


 ま、今のところどこからも苦情が来てないのなら、デスパーがうちの国の所属だとはバレていないのだろう。

 もちろんこれから苦情が来る可能性はあるが――その辺を考えるのは深淵の魔神宮の攻略が終わってからでいいだろう。


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【第十一席 デスパー】

忠誠度:★★★★[up!]

親密度:★

恋愛度:★★★[up!]

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 本作と同一世界の作品群です。
 どれから読んでも大丈夫ですので、本作を気に入っていただけましたらぜひどうぞ。

リトル・ローグ ~ちょい悪メイド(20)と少年勇者(10)の小さな恋と小さな冒険~
第七王女と往く覇道
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