表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/95

19:戦う者と奪っていくもの、奪われた者

 呼ばれた春人は直ぐに隣の家の旦那のもとに走っていく。


「よかった、ハルト君が生きてるってことは子供達も無事なんだね?」


 先程一緒に魚釣りに行った子供達の中にこの家の子もいた。やはり親としては子供の事が心配なのだろう。


「村に違和感を感じたから子供達よりも先に俺だけで戻って来ました。たぶんまだ村の外に居ると思うんで無事だと思います……だから先にこいつ等をさっさと倒してから一緒に迎えに行きましょう」


「ああ、そうだな……まずはこいつらをどうにかしないとね」


 春人がこの旦那と合流して、彼が子供の安否を確認しているときに敵兵士に囲まれた。二人を中心に円を描くように取り囲んでいる。


「なあオッチャン、俺の背中を任せても?」


「ん? ああ、いいだろう。そしたら俺の背中はハルト君に任せるよ!」


 彼が剣をしっかり握りなおしている時に春人は89式のマガジンを新しい物に差し替える。そして二人は互いの背中を守るかのように立つ。


 攻撃の準備が出来て、一呼吸おいてから二人は攻撃を始める。


「「いくぞっ!」」


 隣の家の旦那が剣を下段に構えながら敵に突貫していく。その時に春人はその場から動かず、一人当たりに平均3発、胴体に2発頭部に1発の感覚で撃ち確実に仕留めにいく。


「うぅぉぉぉぉぉぉーっ!」


 大きな雄叫びと共に旦那が敵兵を斬り伏せて倒している。ただ剣を振り回しているという素人の様な戦いぶりではなく、どこかで剣術を学んだような戦いぶりだった。


 それに応えるかのように春人も素早く敵を撃ち倒していく。FPSで培った技術が幸か不幸かこの場で役に立つとは思ってもみなかった。


 その場から一歩も動かずに素早くそして確実に撃ち続け、残弾が無くなれば足元に空になったマガジンを落とし、すぐさま新しいマガジンを装着して同じようにまた撃ち始める。春人から見て近くに居る敵を優先的に撃ち、そこからどんどん離れてる敵に照準をずらしていく。


 それはもはや人間大のサイズの動く標的を相手にする競技射撃か射撃練習かのようだった。


「ハルト君! なかなかやるね!」


「オッチャン! あなたもね!」


 互いが互いの戦いぶりを評価しあい、残りの敵兵士を倒していく。


「あいつ等の強さは普通じゃない……退却だ! 全員一度この場から退却するぞ!」


 敵兵の誰かがそう叫ぶと二人の周りに居た兵士も後に続くかのように逃げていく。それでもまだこの村の中で敵が住人相手に一方的な虐殺行為を行っているだろう。


「とりあえずこの辺の敵は逃げていったようだ。今は深追いしないで子供達の所に向かおうと思う。ハルト君はどうするんだい?」


 剣に付いた血を振り払いながら春人の今後どうするかを尋ねる。


「あの子達を置いてきてしまった手前、自分も迎えに行きますよ。さあ、先を急ぎましょう」


 春人が先行して子供達の所に向かう。無事でいることを信じて…… 






 春人達が戦っている頃と同じ時間に他の場所で戦っている者が居る。


「何だこのっ! 雌犬の癖にちょこまかと動きやがって!」


「このアマ! さっきから俺達の仲間を殺しまくりやがって! 覚悟しろ」


 この村を襲い、蹂躙している敵兵士相手に大立ち回りを繰り広げているのは今春人が探し回っている相手、アリシアである。彼女も自分なりにみんなの事を守るために戦っている。


「アナタ達なんかに負けないんだから。ハルトさんが留守の間、ここは私が守るんだから。この村を襲った事、後悔しなさい!」


 春人に買ってもらった鎧を着る余裕が無かったのか、いつもの普段着で戦闘している。その手には鎧と一緒に入手したナイフが握られている。 


 アリシアも自身のウェアウルフの特徴の強靭な脚力を武器にして敵の間を縫うようにして走り、一撃離脱の要領で攻撃を続けている。その戦い方には春人の近接戦闘時の動きに似ているところがあった。


 一撃で相手の急所を狙うような攻撃は春人がよくやっていた攻撃方法だ。隣で見ていたアリシアがこの時に真似て戦っている。その動きは春人よりも早かった。


――ハルトさん、こんな時にまだ帰ってないんですか……早く戻って来て!


 アリシアの周辺でも家の燃えて崩れる音、逃げる人の叫び声などで遠くで戦っている春人の銃声が耳に入ることは無かった。お互いがお互いを探している状態だった。


 そんなアリシアは目の前の敵に夢中になり背後の警戒が疎かになっていた。そのため背後から迫ってくる新たな敵に気付くのが遅れた。


 アリシアが振り向くと目の前には大男がその拳を振り下ろしていた。


「キャアッ!」


 大男に殴り飛ばされ、地面に倒れるアリシア。頭を殴られたせいか意識が朦朧としはじめる。それでもまだ戦おうと起き上がろうとするが、思うように体が言うことを聞かない。


――お願いハルトさん! 助けて!


 アリシアの思いが春人に届くことは無く、ここでアリシアの意識が落ちていった。


「まったく、面倒をかけやがって! ようやく大人しくなりやがった。オイッ! こいつに何人殺された?」


「少なくても10人はやられてる。雌犬の分際で人間に楯突きやがって! 仲間の仇だ、ここで始末してやる!」


 そして兵士の一人が鞘から剣を抜き、気絶しているアリシアに剣を突き立てようとしていた。


「おい待て、これだけの上玉だ。ここで殺すのは勿体ない。本隊に持って帰って俺達で楽しもうじゃないか。それから殺すなり奴隷市場に売るなりしてもいいだろう」


「それもいいですね……こいつなら奴隷市場でもいい値段で売れると思いますよきっと!」


 とても兵士のやり取りとは思えないようなやり取りがそこで行われていた。アリシアや他の住人に対して雌犬やヒトモドキなどと亜人種の彼らを差別するような発言をしているあたり、マシな人間だとはとても言えない。


「そうと決まればさっさとこいつを運ぶぞ! お前ら、お楽しみは本隊に戻ってからだ!」


 この中の隊長格の男が周囲に居る他の兵士をまとめ上げ、撤退していく。


 それを隠れて見ていた人物が一人いた。


「これはマズいぞ。この事を早くハルトさんに伝えなくちゃ」


 そして彼は春人を探しに燃え盛る村の中を駆け出していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ