20:守れた命と守れなかった命
子供達の元へと急いで戻っていった春人はすぐに子供達と別れた所まで戻って来ていた。
「ハルト君、ウチの息子たちと別れたのはこの場所かい?」
一緒に同行している旦那が聞いてきた。
「ええ、確かにここで別れました。だけど……」
そこに子供達の姿は無かった。何も言わずにどこかに行ってしまうような子達ではない。それと春人が放り投げてきた釣り道具も一緒に無くなっている。
それは子供達がそれを持ったままどこかに行ったということだろう。
「レオン……一体どこに行ってしまったんだ……」
春人の隣に立っていた旦那は自分の子供の名前を言いながらその場に崩れ落ちた。彼の中では自分の息子はもうこの世に居ないと思っているようだった。
「いや、絶望するのはまだ早いですよ。あの子達が死んだと決まった訳じゃないですから。それに俺にはまだあいつ等を探すための秘策があります」
そう言うと春人はMTを起動する。
「一体今から何をするというんだ?」
春人を見上げる様に彼は尋ねる。
「まあちょっと見ててください」
そしてMTの機能、生体反応センサーを起動した。以前ゴブリンとの戦闘以来、活用する機会が訪れなかったが、今ここでその機能がまた有効活用される。
以前の反省を踏まえて、機能の強化されたセンサーはすぐに子供達を見つけ出した。
「居ました! あっちです! みんな生きてます!」
そう言って春人は子供達の居る方角を指さし、その場で崩れ落ちている彼に付いて来るように促す。
「ちょっと待ってくれ、本当にそっちに居るのか?」
彼の疑問も最もだが今は春人の言うことを信じて付いて来る。
センサーは子供達が今すぐ傍の茂みの中に居ると示している。そのすぐ傍でもう一つの反応が有る。MTに表示されている画面を見ると、子供達はもう一つの反応を示している者に追われている様に見える。
――これはマズいかもしれないな……
春人の予想は的中して、子供達の所に着くとそこには先程倒してきた兵士と同じ格好をしている男がまるで子供達を弄ぶかのように追いかけている。
「ほらほら、もっとちゃんと逃げねえと俺に殺されちまうぞ?」
子供達は必死に逃げているが、兵士が追いつきそうで追いつかない距離を保って追っている。この兵士がその気になればすぐにでも子供達に追いつきそうだった。
それを見た春人はその場で89式をしっかり構え、一撃で仕留めるべく照準を合わせる。この状況で焦りそうになるけれども、冷静さをなんとか保って引き金を引こうとする。だがそれを邪魔する者が居た。
「おいキサマッ! 俺の息子から離れろ!」
そう叫んだのは春人の後を付いてきた旦那だった。その声に一瞬だけ驚き、照準がぶれた春人だが狙いを定め直し、何時でも撃てる状態に戻る。
その叫び声に気付いた兵士は剣を子供達に向けたままこちらに振り向いた。
「誰だ俺の楽しみの狩りを邪魔する輩は……ってまた犬ッコロかよ。テメェら一歩も動くなよ? それとテメェこいつ等の親なんだろ? なら丁度いい、テメェらの前でガキどもを一匹ずつ始末してやるよ。それからお前らの番だ、それまでそこで……」
兵士の話を遮るかのように一発の銃声が響いた。
「話が長いんだよ三下が……お前はそこで死んでればいいんだよ」
89式を構えたままの春人が銃を下ろしながら倒れている敵兵士に悪態をついた。
撃たれた兵士は春人の放った一発の銃弾がきれいに眉間に命中し即死だった。
「父さーん!」
「レオン! 無事だったか! どこもケガはないか? みんなも大丈夫か?」
春人の脇をすり抜ける様に走り抜け、後を付いてきた彼は息子との再会を果たしていた。その間に春人も子供達全員の安否を確認したが全員いる。ケガも無く無事のようだった。
「感動の再開を邪魔して悪いが、まだここの安全が確保された訳じゃない。すぐにこの場から移動するぞ。ほらっ! お前たちもボケっとしてないで移動するぞ! 付いてこい!」
春人が強い口調で全員に移動するように言い、村の方へ戻る。この時も春人が先頭に立ち、周囲を警戒して敵がいれば撃って排除していった。そしていつの間にか春人達の周囲に敵の兵士は居なくなっていた。
そして春人達が村の入り口まで戻るとそこには村の住人の生き残りが集まっていた。そこに居るのは全身傷つき、痛みに耐えかね呻き声を上げている者たちだ。かろうじて無傷な者も居るがそちらの方が圧倒的に少ない。そんな無傷な彼らが傷ついた仲間たちを介抱している姿だった。
そしてそこにも敵の姿は無かった。
「何とも惨い……これだけの仲間がやられてしまうなんて……」
「ええ、確かに酷い光景ですね。誰これ構わず襲うとは随分とふざけた連中だ」
二人は目の前の悲惨な光景を目にしてこれだけしか言葉が出てこない。
「何だよこれ……俺達の村が……家が燃えてる」
「皆血まみれだよ……どうなってるの?」
「僕たちが釣りに行ってる間に何が有ったの?」
一番現状が理解できないのは子供達の方だろう。みんな現実を直視できていないようだ。
その集団の中に入ると今にも消えそうな小さな声で春人の事を呼ぶ声がする。
「お、おにーちゃん……ハルトおにーちゃん。」
そう呼ぶ方に目を向けると他の住人に手当を受けている小さな女の子が居る。だけどその体は剣で切られたらしく、血があふれ出している。それは誰が見ても致命傷だった。今かろうじて生きてるのが不思議なくらいに
「ペトラ! それ以上喋ってはいけない! 大丈夫、今俺が助けてやるからな! だから死ぬな!」
その子は春人と初めて会った時にアリシアの恋人かどうか聞いてきた子だった。それからすぐに春人にも懐いてきた。そんな子が今にも死にそうな状態にある。
そんな状態のペトラの手を取り、死ぬなと励ましつつMTの中から医療キットの治療用ナノマシン注射器を取り出そうとする。
この世界に来てから一回も使用したことが無く、正直効果が有るのか分からない。それでも何もしないよりはマシだと思い、ここでペトラに使おうとした。
「おにーちゃん、痛いよ……助けて……」
今にも擦れそうな声で助けを求めてきたが、そう言ってすぐに春人が握った手は力なく落ち、それからペトラが喋ることは無くなった。
「ペトラ? ペトラ! ダメだ! 死ぬんじゃない!」
自分の手から握っていたペトラの手が落ちた事で異変に気付き、急いで医療用ナノマシンを注射した。だが時すでに遅く、春人の目の前でペトラの小さな命の火は消えてしまった。
医療用ナノマシンは生きている者にだけ効果が有る。死んでしまった者を蘇らせるほど万能ではない。
「ペトラ、すまない! 間に合わなかった俺を許してくれ!」
そう言ってペトラの亡骸を抱きしめて許しを請う。その春人の目に涙が流れていた。
――また俺は何も守れないのか!
自分の目の前で消えていく命を目の当たりにして春人は自分で自分を責め立てる。
そして辺りを見回し、ペトラの両親を探す。せめて両親にこの子を助けることが出来なかったと謝罪しようと思った。
「残念だが、その子の両親も奴らにやられてしまったよ」
春人の背後から誰かが声を掛けてきた。そこに居たのはこの村の長、ボーアだった。




